序章 『あの日君と見た夕焼けを僕は今も忘れない』~第一章 街へ : Prologue Go to the city
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序章「あの日、君と見た夕焼けを僕は今も忘れない」
⓪.1 勘違い野郎
中学を卒業した。
もう二度とあんな場所には戻りたくない。
そして、親に頼んで通った学習塾のおかげで何とかギリギリ入学出来た高校は、
狂っていた。
入学式から数日経ち、まわりを見渡せば様々な人間模様が見える。元気そうな三人組の女子グループ。ちょっとやんちゃで悪ぶってる男子グループ。サブカル好きそうなオタクっぽいグループ。みんなグループを作りたがるもんなんだ。
『だけど俺は、そんな低俗なやつらとはちがう。』
色んな香水の臭いが混ざったこの世の終わりみたいな異様な臭気に包まれ俺は、高校デビューを果たさんとかたく心に誓い、となりの席のやたら化粧の濃い女子に気軽に話しかけてみた。
「ねえ、どこ中だったの?」
と。
当然
「は?何。てかあんただれ。」
とその女子から言われ会話は即終了。
ゲームセット!(会話のキャッチボールとは?)
クラスの半数以上が女子で男子は十数人。
学年を総体的に見て、完全に女子どもにパワーバランスが傾いていた。教室に野放しにされた数名の男たちに自らの意思を発言する権利なんてものは、鼻からなかった。
担任の顔のデカいホクロ。それは小惑星の激突により月面に新たに刻まれた小規模なクレーターみたいだった。
作業中の工事現場かと思うほどの騒音と女子トークが響き渡る混沌とした地獄みたいな教室で俺は、静かに息をひそめながら己に唯一与えられた木の椅子に座り、ただひたすらパーソナルスペースを必死に守っていた。
「できるだけ早く帰りたい。」
そう思いながら放課後が来るのををずっとずっと待った。
午後最後の授業が終わった。
よし帰ろう!と思ったら廊下で知らない二人組の女子に呼び止められ、突然目の前に立ちはだかった問題に俺は淡い期待と、早く帰りたいと言う相反する気持ちがせめぎ合いキモ過ぎる反応でもそもそと対応した。
するとハイテンションプリティガールズ(HPG)の一人がプリクラとメアドが書いてあるメモを渡して俺に言い放った。
「ぜったいメールしてね。」
俺にだけ聞こえるようなそんな小さな声で。
HPGな彼女らの圧に俺はビビってろくな会話も出来ず、愛車のママチャリに乗って独り帰路に着いた。
⓪.2 諸刃の剣
高校一年の春。
今日も空が青い。
魔女達の圧や瘴気にも徐々に慣れ始め、やたら眠くなる退屈な授業も終わって。休み時間に俺は、入学してからずっと気になっていた同クラの女子の席の前へと行き、彼女の前におもむろに立ちはだかり、そして勇気を振り絞って声を掛けた。(彼女とは当然目も合わせられず俯いたままだったが。)
「今日………帰り……………一緒に帰れる?………。」
(絶対無理無理無理無理ムリだろぉが!!!!!!!!!
バカなのか?いやバカか俺は。うわー最悪だ…まじでだせぇ。キモ過ぎだろ。こんなんでいいよなんてなるはずな………)
「いいよ。一緒にかえろ?」
(………え?死んだ。爆死した。跡形もなく。心臓?どこにあったけ?右?左だっけ?ずっとドッキドッキしてる。それがずっと止まらんしむしろちょっと痛い。てかめっちゃかわいいなあぁぁおい。OK?いいってこと?………マジか。これ、一緒に帰っていいやつか?)
完全に想定外で俺のピュアなハートをハッパ(ダイナマイト)でダイナミックに吹っ飛ばした破壊力MAXの彼女の言葉に、そんな心の声は一切表情には出さずクールなイケメンを装い彼女を見下ろしながら言った。
「………ふーん。わかったわ。したらまたあとで。」
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
放課後。
俺は"彼女と一緒に"
"彼女と一緒に"(大切なとこだから二回言う。)
帰った。
まだ空の色は青くて、彼女の家は高校から結構離れていて徒歩で30分は掛かった。一緒に帰ってる途中話した内容は全て消え去って。俺はずっとバレないように彼女の姿をチラチラ見ていた。
帰り道の途中で公園に立ち寄り、二人でブランコに腰を下ろした。話題もなくなって俺は足を意味もなくブラブラさせたり、ブランコをいかに美しくこげるかみたいなことをしていた。そして、とうとういても立ってもいられなくなって(下ネタじゃないですよ?)ブランコからバッ!!!っと急に飛び降り彼女に振り返って言った。
今度はちゃんと顔を上げて。
彼女の目を見て。
真正面からちゃんと。
「付き合って欲しいんだけど。いい?」
(バカ野郎が。何で上から目線になんだよいつも。おめえわよおおぉぉぉ。もうまじで死ねよおぉお俺は。てか急過ぎんだろ。まず落ち着けよ。彼女がそんなんでいいよなんて言うわけな)
「いいよ。面白いから。」
(だめだ、ごめん読者の諸君。俺これ以上は書けないわ。まじで。死ぬやつだわまじでこれ。もうホントにマジで。)はい。
そんなこんなで彼女からOKをもらい正式に彼女と付き合うことになった。そう。"彼氏と彼女"ということになった。"彼氏と彼女"つまりいわば恋人ともいうべきか。うんうん。それともカップルか。(そのうち誰かに背後から刺されるんじゃないっスかね?)おっと忘れるとこだった。
彼女の名前。
彼女は自分のことを『リア』って呼んでた。
メアドと携帯番号を交換した後、二人で手を繋いで帰った。
⓪.3 Jewel of Midnight
:夜にかがやく宝石
「もう着くよ」
ある夏の夜。
俺は、彼女の家の近くの公園に来ていた。ひんやり冷たい木のベンチに座り彼女からのそんな飾りっ気のないメールの文面をじっと眺めているとしばらくして彼女が歩いて来た。
一緒に付いて来たらしい彼女の女友達(同クラで俺も割と仲良かった数少ない女子友達)がニヤニヤしながらこう言った。
「え?これからチューとかする感じ?エロ〜やめてね。」
からかわれていることに気付きふと彼女の方を見ると、普通にめちゃくちゃ照れてた。暗くて良く見えないけどたぶん頬は赤かっただろう。あーかわいい。
そんな彼女の反応を見てこっちまでなんか照れ臭くなって
「そんなんしないから!!いいから帰れって!」
と俺はそいつに(共通の女友達)言ってやった。
(ずっとニヤニヤしやがって。お前の彼氏とのイチャイチャ話なんて聞きたかねえし興味ねえんだよ!俺はリアと今すぐに二人っきりになりてーんだ。察しろ!!!)
女友達がにやにやしながら帰っていくのを見届けた後、夜の公園でやっと二人きりになった俺と彼女は、お互いずっと黙っていた。
沈黙が続く。
が!!!(気まずい感じではまったくもってないのだ断じて違うのだよ読者諸君。)
先に口を開いたのは彼女の方だった。
「私のどんなとこが好きだったの?」
(え?なんて?)
(キス?キスなの?)
俺はなんて答えていいか、なにが正解かまったくわからなくて
「ぜんぶ。大好きです…」
って咄嗟に伝えたら
彼女は
「えへへ。めっちゃ嬉しい。」
って言って恥ずかしそうに笑ってくれた。
吐きそうになるくらい切なくなって。それはどうしようもなくて。だけどヘタレな俺には結局なんにも出来ず(笑うな愚民ども)その場でヘラヘラ笑い続けることしか出来なかった。
そして俺は結局最後まで
良い人を演じきれないまま帰った。




