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第九話『迷子の少女』

「あああ~~!あの取り巻きの女どもー!!悔しいい!!俺が戦えばコテンパンに出来たのに!!」

「いたいいたい!いたいですよ!」


 彾嘉の頭の上で地団駄を踏まれる。


「20万円持って明日リベンジしに行くぞ!」

「に、20万円も、持ってないですよ」

「俺がお前の貯金額を知らないと思ってるのか?ギリギリ決闘できるだろ?」

「ええぇ……」


 このままだと力づくで貯金を奪われかねない。

 早々に話を逸らすのが得策だと考えた彾嘉は辺りを見回すと、修道服を着た少女が立っていた。


「天使さん、見てください!天使さんと同じ服装ですよ!」

「あぁ?なに?……ホントだ!よし、近づいて見てみようぜ!」

「はい!」


 興味を逸らせたことに内心喜びながら、言う通りに近付いて行く。

 距離が近付くにつれて分かったが、帽子から覗く金色の髪に雪のように白い肌。日本人離れした可愛らしさをしていた。


「おい!あいつに話かけて来い!」

「え?」

「見ろ!迷子みたいだぞ!あーいう迷える子羊を助けるのも、天使である俺の勤めでもあるんだ」


 たしかに言われてみれば、少女は手に持った紙を見てはキョロキョロと周りの家を確認しているので迷子に見えなくもない。


「でも……」


 話かけるのを躊躇ってしまう。なにせシスターの少女は完全に外国の子どもだからだ。


「僕、日本語しか話せないですよ」

「にゃっはは、お前はラッキーだぞ!俺と契約したことでどんな生物とでも会話できる能力が備わったんだよ。俺が猫と話してるのを見ただろ?」

「そういえば……」

「その能力をお前も使えるから試してみろって言ってんだ」


 彾嘉は内心では理解したが、だからといって話してみようとは思わなかった。もしも会話が出来なかったら恥をかくだけだからだ。

 提案を断ろうと一度シスターの少女をチラリと見ると。


「………」


 ジーっと少女にガン見されていた。


「あの……めっちゃ見られてるんですけど」

「まあ、そりゃあそうだろ。今のお前って一人でボソボソなにか喋ってるヤバいやつだしな」

「え?……あ!!」


 言われて気付く。

 エンジュは彾嘉以外の人には見えないのだ。


「早く言ってくださいよ……!」

「そういうの気にしないタイプなのかと思ってな」


 そんなわけないですよ!っと言いそうになったが、これ以上話して怪しい人に見られるのは嫌なので言葉を飲み込んだ。


「ほら!早く話しかけに行けよ!英語だろうがギリシャ語だろうが猫語だろうが誰とでも会話できるんだからよ」

「そうは言いますが……」

「仕方ないから俺が憑依して試してやるかー」


 エンジュが棒読みで言う。

 こんな分かりきった脅しに乗りたくはないが、憑依されて強要されるのは嫌なので従うしかない。


「き、きみ、ま、迷子かな?」

「完全に不審者だな。噛み過ぎだろ。不審者を見たことない子どもに見本で見せてやりてえくらい不審だぜ」


 後ろから野次が飛ぶが気にしない。

 にこりと笑って少女の回答を待つ。

少女はサファイアのように綺麗な瞳で彾嘉をジッと見つめる。


「うっさい。どっか行け」

「っ……み、道にでも迷ったのかな?」

「聞こえなかったか?どっか行けって言ってるのだ」


 少女は持っていた紙に視線を戻すと、そっけなく言う。

 彾嘉はエンジュに続行不可の視線を送る。


「だらしねえやつだな。だが安心しろ、こういう時に役立つのがもう一つの俺の能力だ。憑依!」

「え?」


 エンジュが彾嘉の額に入る。


「おい、ガキンチョ」

「なんだ?どっか行け」

「こっち向いて話せ!」


 無理やり少女の頭を掴んで向けさせる。


「離せ!いきなりなんなのだ!」


 振り払ったエンジュの手が少女の被っていたシスター帽子に微かに当たり地面に落ちる。


「全く……!だから日本になんて来たくなかったのだ」


 地面に落ちたシスター帽子を拾い、砂を払いながら少女は彾嘉を睨む。肩の辺りまで切り揃えられた金色の髪が日差しでキラキラと輝いて見える。

 その髪を見たエンジュが顔を顰めた気がしたが、彾嘉は気にしないようにした。

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