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第七話『一人目の欠片』

「腹も膨れたし、欠片を探しにいくぞ!」


 お腹がぽっこりと出ているエンジュは、学習机の上で拳を突き出して言った。


「……気をつけて行って来てくださいね」

「そんな古典的でしょうもないボケ言ってねえで行くぞ!」


 彾嘉の顔の前まで飛んで来たエンジュがポカリと頭を殴ってくる。


「いたい!」

「ほらさっさと準備しろ。なんなら俺が憑依して無理やり連れ出してもいーんだぞ?」


 エンジュがいたずらっ子のように笑う。


「わ、わかりましたよ!着替えますから出てってください」

「いや着替えなくていい。今から学校に行くからな」

「学校にですか?」

「おう。今から回収しに行く欠片を持った少女は学校の近くに居るからな。なんでも有名な……」


 エンジュは説明を途中で止める。


「え?有名な、なんですか?」

「いや、これを言うとお前がビビって行かないとか言いそうな気がしてな」

「今から回収する人って、そんなに凄い人なんですか?」

「う~ん……」


 エンジュが腕を組んで唸ると、何かを思いついたのか唇の端が上がった。


「どうだ?俺と勝負しないか?」

「勝負ですか?でも僕、勝負事で勝ったことないんですけど……」

「じゃんけんで勝負だ。もしお前が勝てれば今日は何もしないで家でゴロゴロしてよう。そんで俺が勝てば、お前は文句言わずに欠片を回収しに行くってのでどうだ?」


 彾嘉は考える。じゃんけんは運で決まる。頭の良さや運動神経は関係ない。

 それならエンジュにも勝てるかもしれない。


「わかりました。じゃんけんしましょう」

「決まりだな。手が小さくて出したのが分からないって言われるのも嫌だから……」


 エンジュからボフンと煙が上がると、彾嘉と同じ大きさになる。

 大きくなったエンジュのお腹はへこんでいた。


「さっさとやるぞ。この大きさは一日三分間しかなれないんだからな」

「ウルトラマンみたいですね」

「うるせー!いくぞー!じゃ~んけ~ん」


 気のせいかエンジュの視線が、彾嘉の出そうとしている手をジッと見つめている。


「ぽん!」


 彾嘉はパー……エンジュはチョキ。


「俺の勝ちだな。行くぞ」

「待ってください!もう一回やりましょう!」

「なんで?俺の勝ちだろ?ほら貴重品持って、さっさと学校に行くぞ」

「うぅ……」


 今日は久しぶりの学校で疲れたので家でゆっくりしたい。

 それに自分がビビってしまうような相手のところになど行きたくない。


「まあもう一回勝負するのは良いが、次の勝負はそれとは別に一個乗っかるからな。お前が負けたら何でも言うこと一つ聞けよ」

「どういうことですか?!そんなのおかしいですよ!」

「当たり前だろ!この勝負は欠片を回収しに行く権利プラス、受けなくていい勝負を受けてるってので2個こっちは差し出してるわけだから、そっちも一個増やして賭けてもらわないと釣り合わないだろ?」


 エンジュが無茶苦茶なことを言う。


「そんなのおかしいですよ!こっちは勝負をもう一回してほしいだけですよ?!」

「ふ~ん、文句あるのか?だったらいいや。追加の勝負は無しで、ほら行くぞ」

「わ、わかりました!やりますよ!」

「いくぞー!じゃ~んけ~ん」


 またもエンジュの視線が、彾嘉の出そうとしている手をジッと見つめていた。


「ぽん!」


 彾嘉はグー……エンジュはパー。


「俺の勝ちだな。行くぞ」

「ま、待ってください!もう一回やりましょう!」

「諦めろ。さっさと学校に行くぞ」

「うぅ……今日は運が悪いなあ」


 エンジュはボフンと煙を上げると小さくなる。

 今日はエンジュに騙されて契約書を書かされるし運が悪い。


「おい!もしかして俺との契約したのを運が悪いなんて思ってないだろうな?!」

「い、いえ!全全然」

「ゼンが一個多いんだよ!それにな、じゃんけんは俺が勝って当たり前だ!」

「どういうことですか?」


 その言葉に彾嘉は首をひねる。


「俺の能力を忘れたか?」

「能力ですか?」

「俺の能力は【超身体強化】だ。身体を超強化した俺は動体視力も強化されてる。つまり超強化した俺からしたらお前の出す手なんてストップモーションのように見えるんだよ」

「なっ!ひ、卑怯ですよ!」


 抗議するがエンジュは肩をすくめる。


「俺の能力を覚えてないお前が悪い。ほれ、行くぞ」

「うっ……わ、わかりましたよ!」


 下へ降りて行き、玄関で靴を履いているとリビングの扉が開く音が聞こえた。


「彾嘉、どこかに出掛けるの?」


 物音に気が付いた絢子が、リビングから小走りで駆けてくる。


「うん、ちょっとコンビニに」

「そうなの。あっ、彾嘉!知らない人に話し掛けられても、あんたなんて知らないです!って言って逃げるのよ」

「う、うん、僕も高校生だから大丈夫だよ」

「もうお母さん彾嘉のことが本当に心配でこの前だって」

「大丈夫だって!行ってきます!」


 彾嘉は話を切り上げるように玄関から飛び出す。


「オメーの母さんは心配性だな」


 エンジュは空中でシャドーボクシングをしながら言う。


「まあ、いろいろありましたからね。はぁ~……」


 行きたくはないが、断れば憑依されて連れて行かれるのは目に見えているので、彾嘉は黙って着いて行く。

 すれ違う男性が彾嘉の顔をジッと見てくるのにも慣れたものだ。


「男の視線って分かりやすいよな。顔を見たあと胸を見るから」

「そうですね」

「でも可哀想な男達だな!お前の胸なんて見ても何もないのに!にゃっはっはは!」

「……」


 何がそんなに面白いのかエンジュは彾嘉の頭の上で笑い転げる。


「欠片を持ってる人について教えてくださいよ」

「……そうだな、教えてやるよ。向かってる欠片を持っている少女の名前は【武侠翼紀(ぶきょうつばき)】って格闘家だ」

「武侠翼紀ってあの武侠翼紀ですか?」

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