第四話『世改の女神』
「それじゃあ、絵本の形式で分かり易く説明してやる。俺の声に耳を澄ませて、瞬きせずに絵本を見とけよ」
「瞬きしなかったらドライアイになりますよ」
「俺が来たのは欠片を集めに来たのさ」
「かけら?」
スケッチブックを捲ると、子どもが描いたような可愛らしい絵で雲の上に立つ女性が描かれていた。
「これはどういう絵なんですか?」
「この世界は十人の女神に管理されている。そして天界には世界を改変する力を持った『世改の女神』が居た。だがその女神は十数年前に石になり深い眠りについた。だが1年前にある異変が起きた」
「異変ですか?」
次のページに捲る。先ほど同様に可愛いらしい絵で、眠っている女性が描かれている絵だが、その描かれた女性の手はハンマーで石を砕いたようにバラバラになっている。
「石になって眠っていた世改の女神の左手が突然砕けたのさ」
「まさか、さっき言った集めに来た欠片って……」
「そうだ。世改の女神のバラバラになった手は地上に降り落ちたんだ」
ページを捲ると、雲からキラキラした物が家に降っている絵が描かれていた。
「この女神の欠片はどうしてか、悩みを持った思春期の少女の体に入る。そしてその少女は世改の女神の力を使うことができるようになるんだ」
エンジュが話しながらページを捲ると、女の子が胸に欠片を抱えている絵だった。
「それってやばいんじゃないですか?その世改の女神って世界を改変できる力があるんですよね?一度でも世界が改変されたら大変ですよ!」
「にゃはは、なに言ってんだ?この世界はすでに二回改変されたことがあるんだぜ」
そう言いエンジュがページを捲ると、そのページには時計と雪だるまの絵が描かれていた。
「これは?」
「お前ら地上の人間は気が付かなかっただろうが、この世界は同じ時間を二回繰り返してる」
「同じ時間を二回?」
「ああ、繰り返した期間で言えば去年の三月から今年の三月だな」
記憶に無かった。その期間は中学三年生で、どこの学校を受験するかを悩んだり勉強で大変だった記憶しかない。
「記憶に無いだろうな。記憶は全て女神に消されたからな」
「記憶を消された?」
「でも二回目の改変は覚えてんだろ?真夏に雪が降ったのを」
「……あ!」
それは記憶にあった。去年の八月。一週間ほど雪が降り、ニュースでも話題になった。
気温三十四度の中で雪が降るという異常な現象は、この世の終わりだとネットで言われていた。
「あの雪が?」
「ああ。世改の女神の欠片の力で、『時間を繰り返す世界』と『年中雪が降る世界』を願った2人の少女が世界を改変したんだ。だからこんな面倒くさい世界に改変される前に欠片を回収する。そのために俺が来た」
「……欠片を回収する理由は分かりました。でもその欠片を回収するのに、なんで僕のところに天使さんが来たのかが分かりません」
エンジュは「そうだな」と小さく言うとページを捲る。
新しいページには、目をバッテンにした女の子が手を挙げている絵だった。
「それを言う前に、どうしたら欠片の回収ができるのかを教えてやる。それはな少女の心に大きな衝撃を与えるんだ。そうすれば欠片は心から出ていくんだ」
「どうやって心に衝撃なんて与えるんですか?めちゃくちゃ感動させるとかですか?」
「感動か……悪くない手だが、俺には少女の心に大きな衝撃を与える作戦がある。そこで話を戻す!お前のところに来た理由だ!」
「僕のところに来た理由って……?」
心の中で彾嘉は、漫画などでよくある話で自分は特殊な体質であるとか、伝説の偉人の生まれ変わりなのではと期待する。
「その理由は何ですか?」
「それはな……」
エンジュが真剣な目で彾嘉を見つめる。
緊張感が漂い、彾嘉は唾液をごくりと飲んだ。
「お前がどうしようもないくらいダメ人間だからだ」
「…………え?」
彾嘉はエンジュの言ったことが理解出来ず、眉をひそめた。
「あの聞き間違いかもしれませんが、僕のことダメ人間って言いましたか?」
「ああ、ダメ人間と言った。女顔で勉強も運動も出来ない。度胸もないし人見知りで友達もいないし、それにヘタレだしアホだし」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!僕がダメなのと欠片の回収と何が関係あるんですか?!」
エンジュがスラスラと悪口を言うのを、全力で止める。
「そうだな。それを言う前に俺の能力を教えてやる」
「また『それを言う前に』ですか……それで能力ってなんですか?」
「なに不機嫌になってんだよ!これで最後だから聞け!天使は何個か特殊な能力を持ってるんだ!俺の能力は『超身体強化』と「一日一回だけ本音を言わせる能力』それと能力じゃないが、これだ」
エンジュはA4サイズの紙を取り出し彾嘉に見せる。
紙はびっしりと日本語ではない文字で埋め尽くされていた。
「これは契約書だ。天使のエンジュと協力して欠片を集めるっていう内容のな」