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第二十五話『翼紀戦その2』

「効いたよ、彾嘉」


 翼紀が何事もなかったかのように、静かに立ち上がった。


「ちっ、これで終わって欠片が出る予定だったのによ」

「これで終わってだと?馬鹿を言うな。終わらせるわけがないだろう?」

「な、なんだ?!」

 私は……私はずっと本気で戦いたかったんだ!!」


 突如として翼紀を中心に突風が発生する。


「加護のせいで私が殴れば相手は一撃で倒してしまう!この加護を恨んだこともあった……だがこの加護を手放したくないと思う自分にも腹が立った!だから加護を手放さずに本気で戦うには、私と同じくらい強い相手を見つけるしかなかった」


 彾嘉を指差して、翼紀が笑う。


「やっと見つけたんだ!私に匹敵する強さを持った相手をな!その最高の相手との戦いを簡単に終わらせるわけがないだろう?」

「そうか。残念だが長々とやるつもりはない。次の一撃で終わらせる……二十%」

『待って、エンジュ!』

「あぁ?」


 (こぶし)に力を込めようとすると、彾嘉が止める。


『武侠さんはずっと戦える相手を探してたのに、次の攻撃であっさり倒したら欠片は出ない気がするよ』

「………」

『それなら彼女が満足するまで戦ってあげたほうが良いと思うだ。相手を幸せにして欠片を取り出す方法もできるんだよね?』

「……ちっ、しゃあねえな」


 エンジュは翼紀の前に行くと腕を広げる。


「フェアじゃないだろ?一発殴ってこい」

「はっはははは!!いつもの相手なら断っているところだが、君が相手にならそうだなフェアじゃない」


 翼紀も腰を落として構える。


「耐えてみろ!私の攻撃を!!」


 翼紀の正拳突きがエンジュの腹部に直撃する。


「っつ……!!」


 エンジュが後方に数歩後退(あとざす)る。


「効いたぜ」


 そう言い片膝をつく。


「少し……いやだいぶショックだ」


 翼紀が拳大の石を拾うと、握り潰し粉々にする。


「この力で殴ったのに片膝をつくだけとはな」

「ふん、それを言うなら」


 エンジュは立ち上がりながら翼紀が拾った石よりも大きな物を拾い上げ、それを握り潰し粉々にする。


「俺もこの力で殴ったのに立ち上がられたんだ。俺も少しショックだったぜ」

「ははは……最高だ!みんな、ここから離れていろ。巻き添えにしそうだ」

「は、はい!!」


 取り巻きの女生徒たちが離れて行く。


「今から加護を本気で使う。さっきのような攻撃も効かない」

「そうかよ」

「さっきのような攻撃もしない」


 お互いに近付き、エンジュはボクシングのようなファイティングポーズを、武侠は空手の構えを取る。


「そうかよ」

「はあああ!!」


 翼紀の突きが顔に当たる。

 身体能力が強化されているエンジュが避けることができないほど、翼紀も加護によって強化していた。


「くっ……!!思っていたよりも強くなってやがるな」


 フラつきながらも体勢を立て直し、拳に力を込める。


「なら十五%解放!」


 エンジュも翼紀の顔を殴る。

 その顔にはまるで殴られた痕はなかった。


「どうした?その程度か?」

「まじかよ!」

「ほら!お返しだ!」


 左から廻し蹴りが襲う。

 (かろ)うじてその蹴りを腕で防いだが、衝撃でそのまま地面に転がる。


「はっははは!まさか防がれるとは!最高だ!もっとだもっと!まだ戦えるだろ?!」

『ごめん、エンジュ……僕があんな提案しなかったら』

「気にすんな……、これも作戦だ。ここからだ!」


 体を揺らしながら立ち上がる。


「いいぞ!そうこなくては!」

「喜んでられるのも今だけだぜ。十二……いや十五%解放!」


 瞬きほどの間を置かず、エンジュは翼紀の距離を詰めた。


「はっ……?!」


 翼紀が驚愕で目を見開く。


「おらあぁ!!」

「があっ!!


 翼紀の顔にエンジュの拳が当たる。

 先ほどようにはならず、翼紀は顔を押さえて痛みに耐えている。


「くっくぅ……!顔は殴らないんじゃなかったか?」

「ふん、一回目に殴られたんだからサービス期間が終わったことを察しろ。社会に出たらそんなクレーム通用しないぞ」


 エンジュはいたずらっ子のように笑う。


「それと翼紀、一つ忠告してやる。お前は痛みに耐性が無さ過ぎる。こうやって痛みを受けると体が止まって隙だらけだ」

「……ご忠告どうも。六歳から痛いって感覚を味わったことがなくてね」


 殴られて腫れていた翼紀の顔がみるみると治っていく。


「私からも忠告だ。今から私は本気を出す。彾嘉、君も出し惜しみせずに本気を出したほうが良い」


 その言葉と同時に翼紀の雰囲気と、周りを取り巻く空気が変わった。


「まだ強くなれんのか……」

「今まで一度も本気で加護を使ったことがなかった。嬉しいよ、本気で使える君に出会えてな!」


 翼紀の姿が消えたと同時に、エンジュの脇腹に衝撃が走る。


「はや……っ!!」


 攻撃をされた方向を見ても翼紀の姿は無い。


「どうした?誰か探しているのか?」


 後方から翼紀の声が聞こえる。

 反射的に声の方向を振り向いて殴り掛かるろうとするが、すでに誰も居ない。


「どうした?!見えないのか?!」

「ぐっ!がはっ!」


 あらゆる方向から突き、蹴りの攻撃が襲ってくる。


「彾嘉!本気を出せ!」

「二十%解放!」

「はっ……!」


 翼紀は思わず攻撃の手を止め、距離を空けた。

 日本刀や拳銃を持った人間とも戦い、どんな相手にも恐れたことはなかった。

 その翼紀が目の前に立っているだけの、何も武器を持っていない可愛いらしい少女に対して距離を取ってしまった。

 額に冷や汗が流れ、手が震えている。


「彾嘉、君は一体何者だ……?」


 その問いにエンジュは答えることなく、一歩ずつ距離を詰めてくる。

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