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第二十二話『彾嘉とエンジュ』

 武侠との決闘の約束をしてしまった彾嘉は、道場を後にすると家に戻った。

 逃げるように家に戻ってきた。

 玄関を開けると嬉しそうにアリアが駆け寄って来るが、その横を素通りする。


「ごめん、少し一人にさせて……」

「リョーカ……?」


 こんな小さな子に冷たい態度を取る自分に腹が立った。

 それも全ては横を飛んでいる天使のせいだと考えると、さらに腹が立ってくる。


「おい!早く地図の場所まで行くぞ!」


 エンジュの声を無視してベッドに座る。


「ゆっくりしてる場合か!早く行くぞ!」

「天使さん、僕に最初にじゃんけんで勝負するって言ってたのは嘘だったんですね」

「……ああ、そうだ。最初から俺は武侠翼紀と決闘をするつもりだった」


 エンジュは机の上に着地すると答える。


「俺なら武侠翼紀と戦ったら勝てる。だから決闘をしに行くぞ」


「天使さん、僕が何も知らないと思ってるんですか?」


 枕の下から一枚の紙を取り出すと、エンジュに突き出す。

 その紙は武侠翼紀に関する情報が書かれたものだ。


「ちっ……それがどうした?」

「この紙に書かれていることは本当なんですよね?武侠さんは加護っていうので守られていて、あらゆる攻撃が効かない」

「……ああ、本当だ」

「っ……それにその加護には武侠さんの力も上げるんですよね?」

「ああ、そうだ」


 彾嘉の質問に一切悪怯れることなく淡々と答えるエンジュに失望する。

 ここで動揺して黙っていたことに謝罪をしてくれれば、彾嘉もきっと許していただろう。


「勝てるわけないじゃないですか!こんな人にどうやって勝つって言うんですか?」

「俺なら勝てる。俺の能力なら武侠に勝てる!だから信じろ!」

「信じろですって?!天使さんのどこを信じろっていうんですか?!」


 彾嘉は珍しく叫んでしまった。今までエンジュに対して溜まっていたストレスが全て吐き出される。


「あなたは会った時から僕にずっと嘘ばっかり吐いてる!そんな相手のどこを信用しろって言うんですか?!」


 エンジュは何も言わず、帽子を目深に被る。


「僕は怖いんですよ……そんな怪物みたいな人と勝負するの」

「……」

「天使さんはエリートで、何でも出来るから僕の気持ちなんて分からないでしょうね。きっと僕が負けたら、武侠翼紀に無謀にも挑んだ人間として学校中で笑い者にされます」


 彾嘉は机の上に居るエンジュに背を向けて歩き出す。


「武侠さんに全て話して謝ってきます。今ならまだ間に合うはずです」

「待て!」

「止めないで下さい、天使さん。僕はダメな人間なんです。勉強も出来ない、運動も出来ない、見た目も女の子みたいで馬鹿にされる。僕は……僕が大嫌いなんです。何でもできるエリートの天使さんには僕の気持ちなんて分かるわけないんですよ!」

「へっへへ……そうか、そうだよな」


 エンジュは苦笑する。

 その笑いが彾嘉の神経に障った。


「なにが可笑しいんですか?……天使さんには僕がダメなところがそんなに面白いですか?!」

「いいや、面白くて笑ったんじゃない……ホッとして笑っちまった。笑って悪かったな」

「ホッとした?どういう意味ですか?」

「やっぱり俺の思った通りだったと安心したんだよ」


 帽子を元の位置に戻して顔を見せると、エンジュは八重歯を出してニヤリと笑う。


「この話はまだ言わないつもりだったんだがな。お前に許してもらった上に、信じてもらうには全部話さないといけないみたいだな」

「今更……今更なにを言われても僕は」

「天使なのにどうして頭の上に輪っかが無いのか?会った時に聞いてきたな。答えは簡単だ、天使の輪っかは一人前になると女神に貰えるものだからだ」

「え?それなら……」

「俺は見習いの天使なんだよ」


 そう言うエンジュの顔は嘘偽りの無い真剣な面持ちだった。その顔を見て、彾嘉も自然と怒りが収まっていく。


「それならエリートっていうのは」

「お前と契約するために嘘を吐いた。正直に言うと俺はエリートなんかじゃない。お前と同じ落ちこぼれだ」

「きゅ、急に何ですか?僕に同情して言ってるんですか?」

「ちげぇよ。天使ってのはな、絶対に髪の色が金色で瞳の色が青色で生まれる」


 話をしていたエンジュから煙が上がると、彾嘉の同じ大きさになる。

 エンジュが帽子を取ると、見慣れた黒い髪が現れる。その髪と瞳の色も同じく黒色であることに彾嘉は疑問を浮かべた。


「天使さんの髪は黒色?それに目の色も……?でもさっき天使は金色って」

「俺は生まれた時から髪も瞳も黒かった。天界に居た頃は周りの天使からめちゃくちゃ嫌われていたぜ……黒色の髪は不吉だとか言われて殺されかけたこともあった」

「そんな……」

「それに天使が絶対に持っている能力である【人の恋を結ぶ力】が俺には無かった。天使に一番必要のない身体強化なんて能力を持ってる……それに頭も悪いから天界では何も出来ない落ちこぼれの天使だった」


 悔しい顔をしながらエンジュは話を続ける。


「ある日、天界の偉い女神に言われた。【地上に降りて世改の女神の欠片を全て回収しろ。そうすれば一人前の天使として認めてやる】その言葉を聞いて俺は思った。欠片を全部集めて、一人前の天使になって俺を馬鹿にしてきたヤツらを絶対に見返してやるってな!」


 拳を握りしめてエンジュは言う。


「欠片を集める手助けとして、女神から契約書を貰った。お前に書かせた人間に憑依し出来るようになる契約書だ。それを使って人間と組んで集めようって考えた!そしてその俺と組む人間は絶対に、俺と同じ落ちこぼれにするって決めたんだ。落ちこぼれ同士で欠片を頑張って集めれば、大変だろうけどきっと馬鹿にして来たヤツらをきっと見返せるって思った!それに同じ落ちこぼれ同士なら、気持ちが分かり合えるって思ったんだ!」

「天使さん……」

「さっきお前なんて言った?俺じゃあ気持ちが分からないって言ったな?!もう一回言ってみろ!!お前のコンプレックス!俺には何が分からないって?!」


 エンジュは彾嘉の胸倉を掴む。


「勉強が出来ないから馬鹿にされる?俺だって出来ない!!天界じゃ0点ばっかだった!運動が出来ないから馬鹿にされる?お前とは逆だが、天使に運動神経は要らないって周りの天使からいつも馬鹿にされてた!」


 彾嘉の目から涙が流れ出す。

 自分を理解してくれる人に会えたことが嬉しかった。


「見た目で馬鹿にされるだ?俺は見た目のせいで殺されかけたことだってある!!」

「う……うぅ!」

「どうだ?!お前の気持ちなら俺が一番よく分かってんだよ!!」

「天使さん、僕は……!」


 涙を流しながら彾嘉はしゃがみこむ。


「俺を信じろ。そして俺やお前を馬鹿にしたやつらを見返してやろうぜ」


 エンジュは彾嘉に手を差し伸べる。


「天使さん」

「エンジュだ。俺とお前は対等だ……エンジュで良い。りょーか」

「うん!……エンジュ!僕は君を信じるよ!」


 彾嘉は手を強く掴んだ。


「武侠を倒しに行くぞ!」

「はい!」


 彾嘉は流れていた涙を拭いた。

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