第二十話『じゃんけん勝負』
次の日の昼休み。エンジュの作戦が動き出した。
彾嘉との弁当を体育館裏で早々に食べ終えると、憑依して美羽の元に向かう。
「おい、天導美羽」
教室に戻ると美羽を探す。
美羽は直ぐに見つかった。すでに昼食を食べ終えたのか、自分の席でスマホをいじっていたのでエンジュが話しかける。
「部活の入部の件で話がしたい」
「……入らないって昨日も言ったでしょ」
スマホから目を離すことなく、美羽は返事をする。
「お前が何と言おうが、担任は強引にでもお前を部活に入れるって話してたぞ」
岡崎教諭はそんなことは言っていない。エンジュのウソだ。
「……だからなに?私は部活なんてやってるヒマないの」
「お前の意見なんて関係なく強制で入れるって話になってる。まあ今日の放課後にでも呼び出されるんじゃないか?」
「あの担任……!」
スマホから顔を離し、エンジュを睨みつける。
「俺も部員は欲しいが、無理矢理に入部させることには気が引ける」
「……だったら、あんたが担任に言ってくれるわけ?」
「そうだな。だがタダ働きするのも俺としては嫌だ、そこでお前に相談がある」
「私に何かしろって言うの?」
全てを察した美羽が気だるそうに聞く。
「ああ、勝負しよう。じゃんけんでな」
「じゃんけん?」
「お前が勝てば入部をさせないように俺からも担任に言ってやる」
「ふーん」
邪魔になるのでジッと黙って、エンジュがすることを彾嘉は見ていた。
このままじゃんけんをして、どうやって武侠の心を読んでもらうところまで持っていくのか、彾嘉は全く検討が付かなかった。
「べつにあんたに協力して貰わなくても私一人で何とかなるし、じゃんけんなんてしないわ」
スマホに目を戻す。どうやら会話はこれで終わりにしたいのだろう。
「勝負しないなら、今から俺はしつこくお前を部活に誘わないといけなくなるが良いのか?」
「はあ?なんでそうなるわけ?」
「俺も部員は欲しい。無理矢理に入部をしてもらうのは気が引けるけど、お前の勧誘はしつこく続けさせてもらうぜ。まあじゃんけん一回すれば勧誘しないで済むんだけどなー」
美羽は大きなため息をすると、スマホを机の上に置いた。
「なに言われても勝負なんてやらない」
「へえ~、そう。逃げるんだ。また逃げるんだな」
「はぁ?またってどういう意味?」
「理数科から逃げて、ここでも逃げるんだって思っただけだ。逃げるのが得意なんだな」
エンジュは昨日聞いた話を、皮肉混じりに言う。
「……あの担任から聞いたのね?」
「さすがに逃げるのが得意なやつと勝負するのは難しそうだな~、これは諦めるしかないか~」
「いいわ!やってあげる!でも部活なんてどうでもいいわ!負けた方が何でも言うこと聞くってことにしましょ!」
「上等だ」
美羽はスマホをポケットに仕舞うと、お互いに握った拳を出す。
「5%ってとことか……じゃんけ~ん!」
エンジュがポツリと呟きじゃんけんを始めると、彾嘉の目に信じられない光景が見えた。
美羽の動きがスローモーションになっている。
『これって……!』
美羽は最初にグーを出すと、手がゆっくりとチョキに変わっていくのがハッキリと見える。
「ぽん!」
美羽がチョキ、エンジュがグーで勝った。
「そんな……」
結果はエンジュの勝ちだった。
「にゃはは!ほれ、入部届にサインしとけ。保護者のサインもいるから、明日の朝にでも俺に渡してくれたら良い!」
「ちょっと待ちなさいよ!じゃんけんで決めるなんてやっぱりおかしいわ!もう一回勝負よ!」
「別に良いが、次の勝負はそれとは別に一個乗っかるからな」
「どういうことよ?!次の勝負で私が勝ったらさっきの賭けを無しにしてもらうだけでしょ?」
「だから俺はさっきの賭けを無しにするプラス、受けなくていい勝負を受けてるってのでニ個こっちは差し出してるわけだから、そっちも二個分の相応のモノを賭けてもらわないと釣り合わないだろ?」
エンジュは彾嘉にもした暴論を美羽にもして納得させようとする。
「そんなのおかしいでしょ!こっちは勝負を追加してほしいだけでしょ?!」
「ふ~ん、だったらいいや。勝負の追加は無しで、ほら入部届」
「うぅ~……!」
美羽が悔しそうに睨んでくる。
「それならチャンスをやろうか?」
「え?!」
「あいこでも勝ちにしてやるよ」
エンジュの提案に美羽と周りのクラスメイトたちが驚く。
気が付けば周りにギャラリーも増えて、この勝負を見ていた。
「へぇ~、自信がそんなにあるわけ?」
「ああ。さらに俺は三回勝たないと勝ちにならないってルールで良いぜ」
「つまり私は一回勝負であいこでも勝ちで、あんたは三回勝たないとダメってわけ?」
「そういうことだ」
周りのギャラリーがざわつき出す。
こんな不利な勝負で彾嘉が勝てるわけがないからだ。
「お前が勝てばさっきの勝負は無しだ。それに何でも言うことを聞く。だがな、俺が勝ったら一年間絶対服従だ」
『絶対服従……』
人生で聞くことはないと思っていた四字熟語に彾嘉も戸惑ってしまう。
「……いいわ。こんなルールであんたが勝てるわけないんだから!」
お互いに握った拳を出す。
「じゃ~んけん」
「じゃ~んけん」
エンジュの目に力が入ると、また美羽がスローモーションになる。
「ぽん!」
「ぽん!」
美羽がチョキ、エンジュがグー。
「っ……!もう一回!じゃんけん!」
絶対に勝てない勝負をする美羽が、彾嘉は可哀想に見えてきた。
スローになった美羽は二回目のじゃんけんも負けた。
「そ、そんな……!」
「最後の勝負だな、なにを命令してやろうかな~」
「最後で勝てば良いのよ!じゃんけん!」
「ぽん!」
「ぽん!」
美羽がグー、エンジュがパー。勝負はエンジュが勝った。
「俺の勝ちだな。今から俺の言うことに従え」
周りのギャラリーが騒ぎ出す。
それも当然だ。三回のストレート勝ちもそうだが、美羽を一年間絶対服従で好き放題出来るのだから特に男性ギャラリーのテンションの上がり方は異常だった。
「くっ……!」
エンジュの作戦は、クラスメイトの前でルールを決めて勝負することで、後々に知らないふりなどして逃げられないようにするという内容だったようだ。
「早速だが放課後は俺に付き合ってもらう。逃げるなよ」
エンジュがそう言うと周りのクラスメイトの男たちから『おおぉ……!』と羨望が混じった声が揃って聞こえた。
「……わかったわよ!」
そう言い不機嫌そうにスマホをいじり始めた。
「これで武侠に挑めるな」
彾嘉から抜け出たエンジュが嬉しそうに言った。




