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第十八話『羊羹兄弟』

「はぁ……ただいま」


 エンジュが帰りの道中で「腹が減った腹が減った」と駄々を捏ねていたが、それを強引に押し切ってようやく家に帰って来れた。


「リョーカ、オカーエリ!」


 リビングから小走りでアリアが出てきて、彾嘉を出迎えてくれた。


「ただいま、アリアちゃん」

「オカエリ!リョーカ!」


 アリアの言葉がカタコトに聞こえる。

 どうやら「おかえり」と「彾嘉」の言葉を覚えてくれたので、天使の能力が発動せずカタコトに聞こえるようだ。


「さあ、早く!一緒にお饅頭姉妹を観るのだ!」


 アリアは催促するように彾嘉の手を引っ張ってくる。

 まるで何ヶ月ぶりに飼い主に会った犬のように嬉しそうにはしゃいでいる。


「えらいガキンチョに懐かれたな~」

「本当ですね」

「なにが本当になのだ?」

「あっいや……」


 思わずエンジュに返事をしてしまった。


「な、なんにもないよ!手とか洗ってくるから待ってて」

「彾嘉の部屋で待ってる!」

「あ、僕の部屋は……」


 今から着替えるから行かないでっと言おうとしたが、すでにアリアは姿はなかった。

 手洗いを済ませて部屋に行くと、アリアがタブレットを手に持ってベッドで座って待っていた。


「アリアちゃん、着替えるから」

「わかった!」


 元気に返事をしたアリアは首を横に向ける。


「いや、あの……」

「こうすれば大丈夫なのだ!」


 アリアはさらに手で目を隠して、なにも見えないようにする。


「そういうことじゃなくて」

「ならこうするのだ!」


 後ろを向いて完全に見ないようにしてくれるが、彾嘉としては恥ずかしいので部屋から出てほしい。


「あー!うっとうしい!俺が言ってやるよ!憑依!」


 そう言ったエンジュは彾嘉の身体に憑依する。


「おい!がきんちょ!さっさと部屋から出ていけ!」

「りょ、りょうか、急にどうしたのだ?」

「俺は忙しいんだよ!お前みたいなガキンチョの相手してるヒマはねえんだよ!」

「お前!もう一人の人格のりょうかだな?!」


 アリアが思い出したように指摘する。


「もう一人の彾嘉だあ?なんじゃそりゃ?」

『天使さんの説明ができなかったので、二重人格ってことにしたんですよ』

「お前が悪い心を持った悪のりょうかなのはわかっているのだ!良い心を持った善のりょうかに変わるのだ!」


 アリアの中では、そういう設定になっているようだ。


「ふっざけんな!俺が善の方に決まってんだろ!」

「そんなわけないのだ!子どもに暴力を振るうようなりょうかが善なわけない!」

「なるほど、これを受けてまだ俺は悪だと言えるかな?」

「あえ?」


 恐ろしいほど早い速度でアリアを抱え上げると、肩に仰向けで担ぐ。

 そこからあごと太ももを掴むと、アリアを弓なりに反らさせアルゼンチン・バックブリーカーを完成させた。


「いだあああああ!!」

「どうだ?俺が善の方だろ?」

「だ、誰がお前なんか!お前は悪なのだ!!」

「この!ほら!ジャンプしてやる!」

「いだああ!いだあああ!!善です!!あなたが善の心を持ったりょうかです!」


 よほど痛いのか早々にアリアは折れた。


「ふん、わかれば良いんだよ」


 アリアをベッドの上に放り投げる。

 ベッドの上で軽く弾むと、腰を抑えて震えている。


「ひ、ひどいのだ……悪魔なのだ」

「誰が悪魔だ!もっとスゴイ技かけるぞ?!」

「わああああああん!!」

『ひどい……』


 半泣きになったアリアが部屋から出て行った。


「邪魔なのが出て行ってる間に早く着替えろ」


 エンジュは体から出て、机の上に腰掛ける。


「もっと優しくしてあげてくださいよ」

「あれが俺の優しさだ。(こぶし)と鞭で俺は鍛えるんだ」

「飴をあげてください」


 部屋着に着替えると、彾嘉もベッドに腰掛けて一息つく。


「晩飯は18時だったな。まだ時間もあるし、明日することを教えておいてやる」

「はあ」

「俺のパーフェキトな作戦を頭に入れておけ」

「パーフェクトじゃなくてですか?」

「あぁん?」


 指摘するとエンジュに睨まれたので、黙って聞いておくことにする。 


「武侠の質問を覚えてるか?」

「そういえばそんな質問してましたね……指になにが見えるってのですよね?」

「そうだ!そこで天導美羽の欠片の能力【人の心が見える】を利用して、武侠翼紀の質問に答えるんだ!」


 つまり作戦は、美羽と共に武侠のところに行き、その質問の答えをスマホに打ち込み、それをエンジュが彾嘉に伝えるというものだった。


「でもどうやって天導さんに協力してもらうんですか?頼んで協力してもらうんですか?」

「いや。天導美羽の性格を考えると、頼んだところで協力はしてくんねえだろ」

「じゃあ」

「だがしかし!俺に考えがある!」

「それは」

「じゃんけんで勝負するんだ。あいつは俺の部活に無理矢理に入部されそうになっている。そこを賭けに使うんだ」

「それって」

「俺が勝てば協力させる、負ければ部活には二度と誘わないとでも言えば勝負するはずだ」

「でも」

「まあ俺に任せておけ!にゃっはっはっは」


 彾嘉に喋らせる事なく作戦会議は終わってしまった。


「本当に大丈夫かな……」


 不満な彾嘉とは裏腹に、満足そうにエンジュは学習机の上で寝転がる。


「俺の話は終わったからガキンチョと羊羹兄弟でも観てんだな」

「おまんじゅう姉妹ですよ」

「りょうか~……入って良い?」


 そんな会話をしていると、ドアの隙間からアリアが恐る恐る顔を出す。


「いつものりょうかか?」

「え……う~ん」


 このまま一人で過ごしたいが、先ほどの光景を思い出すと追い返すのも可哀想だ。


「大丈夫だよ。悪の性格は引っ込んだから」

「おい!誰が悪の性格だ!」

「やった~!正義は勝つのだ~!」


 嬉しそうにアリアが彾嘉の元に駆けて来る。


「お饅頭姉妹を観るのだ!昨日の続き!」


 昨日と同じ体勢にされると、おまんじゅう姉妹の鑑賞が始まった。

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