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第十七話『部室と美羽』

 昼休みを終えて5限を受けると放課後になった。

 放課後になったので見つけた教室へと向かうべく、前方を飛ぶエンジュに付いて行く。普通科の教室棟の廊下をぐんぐんと進んで行く。


「ここだ、ここだ!」


 エンジュは嬉しそうに廊下の一角にある教室を指差す。


「ここは……?」


 汚れた教室札には茶道部と書かれていた。こんな端っこに部室があるのを、一年間通っていたが彾嘉は初めて知った。


「ほら!入るぞ!」


 エンジュが教室へと促す。

 彾嘉は茶道の部室を開こうとするが、鍵がかかっているのか開かなかった。


「……あの開いてませんよ」

「なら無理矢理こじ開けてやる」

「やめてくださいよ!素直に先生に言いに行きましょうよ」


 言い終えて後悔する。このまま諦めて帰る選択もあった。


「仕方ねぇな、なら職員室に行くぞ」


 そう言ったエンジュは移動を始める。どうやら探検して職員室の場所を把握したようだ。

職員室に着くと、少し緊張しながら入室する。


「失礼します……あの人って?」


 担任である岡崎に頼もうと、見回すと直ぐに見つかった。

 その岡崎に先客が居た。見覚えのある後ろ姿が見える。


「おい、早く行けよ」

「でも、話してるみたいで」

「俺たちは鍵を借りるだけなんだ。サッと言ってサッと借りれば良いだろ」

「えぇ……わかりましたよ」


 半ば諦めて岡崎の元まで向かった。


「どっかの部活に入ったり、してくれるだけで良いからさ」

「別に入らなくても良いでしょ?」


 近付いていくと、話している内容が聞こえてくる。

 岡崎と話していたのは、思った通り美羽だった。


「ん?水瀬か。どうかしたか?」


 彾嘉に気がついた岡崎が話しかけてくれた。


「あっ、話し中にすみません……あの茶道部の部室を借りたくて」

「茶道部?なんで鍵なんて借りたいんだ?」


 彾嘉は当たり前に聞かれる質問に、エンジュが答えられずに諦めると考えていた。


「あっ、あのなんでと言われましても……」

「茶道部って端っこにあるあの部室だろ?あの部室は部員が居なくなって二年前くらいに廃部になったはずだけど」


 彾嘉は真っ直ぐに見つめてくる岡崎の視線に、目を合わせれず机に目をやった。

 机の上はぐちゃぐちゃで、プリントや本が山積みになっていた。


「部活だ。部活を作るって言え」

「え?」

「ん?どうかしたか?」

「あっ、いえ……あの部活を作ろうかと」


 エンジュに指示された通りに言う。


「部活か……」


 少しの間が生まれると、岡崎はグチャグチャになっている机の上から紙を数枚取り出す。


「分かった。部員を五人集めれたら、元茶道部の部室を使わせてやる。ほら入部届だ」

「え!良いんですか?!」

「なんだ?嫌なのか?」

「別に嫌では……」


 差し出された入部届を五枚受け取る。


「それともう一つ頼みなんだが」

「はい?」

「こいつも入れてやってくれ」

「はぁ?!なんで私が?」


 岡崎がこいつと言って親指で指差したのは、先ほどまで話していた美羽だった。

 話を振られた美羽はとても嫌そうだ。


「ちょうど部活に入るように言っていたんだ」


 天乃使学園の校則で、理由がない限り部活には絶対に入らなければいけない。

 ちなみに彾嘉も文芸部の幽霊部員だ。


「もういいでしょ。私帰るから」

「お、おい」

「これ以上しつこいならパパに言うわよ」


 そう言い岡崎を睨みつけると、女子生徒は去って行った。


「こえぇ……あいつの父親ここの学園の理事長なんだよな」

「あの子が理事長の娘……」

「どうした?」

「あっい、いえ、なにも!」

「どうしたもんかな~」


 岡崎は大きな溜息を吐くと、彾嘉の腕をポンっと叩く。


「それじゃあ、ここからは先生の私からは何もできないから、あとは水瀬に任せる。上手いことあいつを誘ってやってくれ」

「え?!僕がですか!しつこいなら理事長に言うって言ってましたけど?」

「私が言うんじゃないんだからセーフだろ」

「えぇ……」


 どうしようかとエンジュを見ると、暇そうに岡崎の机の上でゴロゴロしていた。


「実はな……天導は何かのモデルで理数科にいたんだが二年から普通科になったんだ」

「珍しいですね」


 天乃使学園の理数科には他の学校とは違う特徴がある。何かしらの才能ある生徒はもちろん、アイドルや歌手などの芸能人には芸能休みという『いつでも休める』特権がある。

 その特権を使うには成果を出すというルールはあるが、いつでも休めるのは羨ましい限りだ。

 その高待遇の理数科から普通科に移ることはとても珍しい。


「ああ。余程の問題を起こさないかぎり、普通科に移ることはないんだが。今回は本人の希望での移動だそうだ」

「そうなんですか」

「理数科から普通科に移動して友達も少なそうだからな。これを気に友達を増やしてほしいという、担任の(ささ)やかな願いだ」

「へっ、どうせ本音は問題とか起こしてほしくないとかそんなんだぜ」


 暇そうにしていたエンジュが、彾嘉の頭の上で嫌なことを言う。


「ぶっちゃけ言うと、一人で居るやつって色々と問題が起きやすくて、そのせいで私のボーナスに影響が出ると困るからな」

「はっきり言いやがったぞコイツ!」

「それにもしも誘えれたら、お前の作る部活の顧問になってやろう。まあ、そんな頻繁に顔は出せないがな」

「おい!これは受けるしかないぞ!顧問も手に入るし、部員も手に入って、部室も手にはいる!まさに一石三鳥だ!さっさとあの女に入部届を書かせてやるぞ!」

「……わかりました」

「それじゃ、頼んだぞ!あっ、そうだ!水瀬、お前に聞こうかと思ってたんだ!」


 真剣な顔で彾嘉の顔を見つめる。


「なんですか?」

「本当は女の子とかじゃないよな?」

「……」

「いや~、結構先生の中でウワサになっててな。学校の手続きを間違えて男にして仕方なく登校してるとか、親の教育で仕方なく男の格好してる女の子とかじゃないよな?」

「れっきとした男です」


 呆れて職員室を出ると、エンジュが頭の上に乗る。


「天導さんを追いかけますか?」

「……いや、良いことを思いついたぞ」

「良いことですか?」

「ああ。武侠の金問題も解決できる秘策だ」


「ふふふふ……」っと頭の上でエンジュは不敵に笑う。


「俺は天才だ!にゃっはっははは!」

「帰りますね」


 頭の上でふんぞり返って笑っているだろうエンジュを乗せて帰路につく。

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