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第十四話『ごめんなさい』

「良い湯だったな~」


 まだ少し湿った髪のエンジュが彾嘉のベッドで大の字になって寛ぐ。

 このまま寝てしまうんじゃないだろうかと思った時、そういえばと疑問を聞く。


「そういえば、天使さんはどこで寝るんですか?」

「おう、ちゃんとベッドを持って来たぜ。お前のベッドで一緒に寝たら、寝返りで潰されそうだからな」


 エンジュは机の上に置いてあった小さなカバンに手を突っ込む。


「よいしょっ!」


 小さなカバンからエンジュが丁度寝れるサイズのベッドが出てくる。


「そのカバンどうなってるんですか?」

「こいつは天使に支給される何でも収納できるカバンだ」

「すごいですね……。ちなみにどれくらいなら入るんですか?」

「ん~、この部屋の物くらいなら全部入るんじゃねえか?」


 エンジュの持っているカバンの規格外さに驚く。

 まるで青い猫型ロボットがお腹に付けているポケットのようだ。


「明日からの作戦会議でもするか」

「作戦会議ですか?」

「おう。今日は諦めてやったが武侠とは近々勝負するとして、それのほかにも俺が知っている欠片を持った誰かのところにも絶対に行くぞ」

「わかりました……。その人について詳しく教えて下さい」

「そうだな」


 先ずは……っとエンジュが話そうとすると、ドアが軽く叩かれる音がした。


「彾嘉、入って良い?」


 ドアの向こうから母の声が聞こえる。


「え?う、うん。いいよ」


 会話を止めてドアを開けると、パジャマに着替えた母が立っていた。


「電話は良いの?」


 エンジュとの会話を電話と勘違いしてくれているようだ。

 彾嘉が一人で喋っていたので電話と間違えるのも仕方ない。


「うん、大丈夫だけど……どうしたの?」

「アリアちゃんが……」


 そう言う母の後ろには、同じくパジャマに着替えたアリアが居た。

 よく見れば涙目になっている。


「アリアちゃん、お母さんと離れ離れで淋しくなっちゃったみたいで。話せる彾嘉と一緒に寝てくれないかしら?」

「え?」


 小声で話す母の言葉に驚いてしまう。


「今日だけお願い」

「でもそれはダメって話になったんじゃ?」

「彾嘉はこんな小さな女の子に変なことするような息子じゃないって信じてるから、お願いね」


 アリアが潤んだ瞳で何も言わず、彾嘉の服の裾を掴む。


「……わかった。アリアちゃん、今日は僕と一緒に寝よっか」

「うん」

「ありがとう、彾嘉。二人ともおやすみなさい」

「おやすみ」

「……おやすみなさい」


 部屋へとアリアを招き入れる。


「本当に僕と一緒に寝るけど、良いの?」

「うん」


 ベッドにモゾモゾとアリアが入っていく。


「ちっ、作戦会議は中止か。仕方ねえな、俺も疲れたし寝るか」


 エンジュも先ほど取り出したベッドへと入っていく。

 時刻はまだ21時だ。いつもならもう少しスマホを触ってから寝るが、彾嘉もベッドに入ることにした。


「アリアちゃん、もっとあっちにいける?」

「うん」


 なるべく間を空けてもらう。

 人と一緒に寝るのは小学生の低学年以来だろうか。


「りょうか、嫌じゃない?私と寝るの」


 アリアは布団で顔を半分隠しながら聞いてくる。


「嫌じゃないよ」

「ホントに嫌じゃない?」

「本当に嫌じゃないよ。む、むしろアリアちゃんと寝れてラッキーってかんじだよ」


 これでは危ない人みたいだと、言って反省する。


「変態」


 エンジュがポツリと呟く。


「ア、アリアちゃんの寂しい気持ちは分かるから、大丈夫だよ」


 彾嘉も小さい頃に祖父母の家に一人で泊まった時に、母が居なくて淋しくて泣いた思い出がある。

 アリアが淋しくて誰かと一緒に居たい気持ちは分かる。


「あ、ありがとうなのだ」


 照れ臭いのかアリアは頭を全部布団の中に潜る。

 こういう誰かをベッドに寝かせた事がないので、顔をそんなに布団に密着されると恥ずかしい。

 自分の布団の匂いとか大丈夫か気にしてしまう。


「さ、寝ようか」


 仰向けで二人で並んで眠る。

 時刻が早いのか中々眠れず、天井を眺めていると。


「りょうか、寝たか?」


 アリアも眠れないのか、話しかけてくる。


「まだだよ」

「そうか……。そういえばさっき凛さんにも会って挨拶したのだ」


 凛は空手部で中々に強い。中学二年で全国大会まで行くほどの実力がある。

 今年は優勝を目指しているようで、毎日のように部活を遅くまでやっている。


「そうなんだ。どう?仲良くなれそう?」

「スマホで翻訳しながら会話して、仲良くできそうなのだ」

「スマホか……」


 スマホの翻訳機能があったことを忘れていた。

 これなら明日の彾嘉が学校で居ない間も、母との会話も何とかなりそうで安心した。


「でも沢山抱きつかれて大変だったのだ」

「凛は可愛いのが好きだから」

「可愛い……っ!そ、そうなのか。あのな、りょうか。その」


 アリアがモゴモゴと何か言おうとしているので、視線を向けると目が合った。


「助けてくれようとしてたのに、アホとか言ってごめんなさい」

「え?」

「私が迷子になってる時に話かけてくれたのに、ヒドイこと言ったのだ。知らない変な人に話かけられたら英語で何かキツいことを言って無視しなさいってママに言われたのだ。でもりょうかは変でも知らない人でもなかったのだ」


 あの時の彾嘉は独り言をブツブツ言う変な人だった。それに知らない人でもあったので、アリアのお母さんの忠告通りのことをされて当然の人物だ。


「気にしてないからいいよ。それに僕も酷いことしちゃったしごめんね」


 エンジュがしたことではあるが、彾嘉の身体でしたことなので一応謝る。


「だからお互い様……ではないよね。僕の方が罪が重い気がするね。小さな子にコブラツイストとかしちゃったし、なにかしてほしいことがあれば言ってね。それで罪を頑張って償うよ」

「き、気にしなくていいのだ!私も悪かったし」

「ありがとう」

「なあなあ、こんなこと聞いてもいいか……」

「どうしたの?なんでも聞いてもいいよ」 

「あの……りょうかって二重人格なのか?頭をグリグリしてきた時と今で全然性格が違うのだ」

「そ、そうだね。まあ二重人格みたいなものかな?」


 天使に体を憑依されて人格が変わるとは言えないので、そういうことにしておこう。


「そうか~、二重人格の人と初めて会ったのだ。人格が変わってる時の記憶はあるの?」

「あるね。だからアリアちゃんに痛い思いさせて申し訳ない気持ちだよ」

「そ、それはもういいのだ!ずっと今のりょうかでいてほしいのだ。もう一人のりょうかは変な催眠術とか使うし、性格が最悪だったのだ!」

「そうだね……ふぁ~」


 欠伸が出てしまった。ベッドで横になっていると段々と眠くなってくる。

 横で寝ているアリアも可愛らしい欠伸をしていた。


「もう寝よっか」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみ」


 彾嘉の長い一日が終わった。

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