第十二話『おまんじゅう姉妹』
引き止めたのは、もちろんアリアだった。
「どうしたの?アリアちゃん?」
「お前が居ないと話が通じないだろ。ここに居るのだ」
「えぇ……」
ごもっとも意見だが、部屋でゆっくり過ごしたい。
アリアも自分の部屋で休めば良いのに、っと思った時にあることに気が付いた。
「お母さん、アリアちゃんの部屋は?」
学校を出る前に、母が部屋の片付けをしていたことを思い出す。
「ごめんなさい!アリアちゃん!部屋が用意できてないのよ!」
「日本語で謝ってもアリアちゃんには伝わらないよ」
「ソーリー!アリアちゃん!ルームバットスタンバイ!」
意味の分からない英語で謝る母を横目に、意味が分からずポカーンとしているアリアに説明する。
「アリアちゃんの部屋を用意してなくて、謝ってるんだよ」
「あの……大丈夫ですよ、絢子さん。お母さんから絶対に部屋の準備を忘れているから、誰かの部屋で一緒に寝ることになるだろうと言われてましたので」
「うちのお母さんのことを分かってるね。アリアちゃんのお母さん」
アリアが言ったことを、そのまま母に伝える。
「さすがマリアね!親友の私のこと分かってる!アリアちゃん、私と今日から一緒に寝ましょ」
嬉しそうにアリアの頭を撫でる。
「部屋はお母さんと同じで、一緒に寝ようって」
母が言ったことを翻訳して伝えると、アリアは彾嘉をジッと見つめる。
「あの、この人と一緒の部屋じゃだめですか?」
「え!……い、いや~、それはダメじゃないかな?」
「アリアちゃんは何て言ってるの?」
「僕の部屋じゃダメか?って」
「う~ん、さすがに男の子の部屋に一緒で寝るのはね」
さすがの母も賛成はしなかった。
「ごめんだけど、男の僕と一緒ってわけにはいかないよ」
腰を屈めて視線を合わせて、諭すように言う。
「なにを言ってるのだ?女だろ?」
「え?ちょっ……!」
アリアは彾嘉の胸をペタペタと触る。
「な、なにもない……!私よりないのだ!」
「そりゃねえだろ」
愕然としているアリアに、エンジュが冷静にツッこむ。
「僕は男だから胸はないんだよ。ほら、喉仏もあるでしょ?」
「ほ、本当に男なのか……」
驚きながら彾嘉の顔を触る。
「ヒゲも生えてないのだ」
「体質で生えないんだよ」
「本当なのか?なら……」
アリアはゴクリと唾を飲み込むと、彾嘉の股間に恐る恐る手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと、なにしようとしてんの!それはダメだよ!」
ギリギリのところで腕を掴んで止める。
「アリアちゃん、ごめんだけど私と一緒に寝ましょう?」
母はそう言い彾嘉に翻訳するように視線を送る。
「アリアちゃん、我慢してお母さんと一緒に寝てくれないかな?って言ってるよ」
「……わかった。わがまま言ってごめんなさい」
「うん……あれ?部屋なら、お父さんの部屋を使えば良いんじゃないの?」
水瀬家の大黒柱である父親は単身赴任で家に居ない。長期休みにふらっと帰って来ては嵐のように去っていく。
「お父さんの部屋って何もないでしょ?布団も捨てちゃてないし、あるのは机と難しい本があるだけだし」
「なら布団とか買えば解決するんじゃない?」
「たしかに、なんで気がつかなかったのかしら」
「アリアちゃんは布団買ってお父さんの部屋で良いよね?」
これでアリアの部屋問題は解決しそうなので、早々に話を進めていく。
「そうね。今日は我慢してもらって、明日アリアちゃんと布団買って来るわね」
「わかった」
会話を全てアリアに翻訳する。
「わかった!絢子さん、お願いします」
「よし」
アリアが納得したことを母に伝えると、喜んで抱きしめる。
「ありがとう!アリアちゃん!明日はハイジが寝てた干し草のベッドくらい柔らかいふっかふかのを買いましょう!」
「それじゃあ、僕は部屋に居るね」
ようやく自室に戻ることができる。部屋へと向かうと足音が一つ多い。
「……」
エンジュは眠そうに横を飛んでいる。
「アリアちゃん、どうしたの?」
「暇だからお前の部屋に居る」
「僕の部屋も暇だと思うけどなー」
「それでも良い。下に居ても絢子さんに気を使わせるだけだから」
僕なら良いのかと、っと言いそうになったが、何を言っても付いて来そうなので諦める。どうせ晩御飯までだ。
「着替えるから待ってて」
アリアを部屋の外に待たせると、制服から部屋着に着替える。
「いいよ」
扉を開けて部屋へ招くと、アリアが顔をほんのり赤くしていた。
「本当に男だったのだ……!」
「ちょっと!覗いてたの?!」
「胸もなかったのだ……それにパンツも膨らんで」
「も、もういいよ!次から覗かないでね!」
子どもとはいえ、着替えを覗かれるのは恥ずかしい。
「おい。今日は仕方なく我慢してやるが、明日からはビシバシ欠片を探すからな」
学習机の上であぐらをかいて不満そうにエンジュが座っていた。
「りょうか、だったか?りょうかは普段何をしてるのだ?」
「普段?普段は本を読んだり、タブレットで色々観たりしてるかな」
エンジュの座る横に13インチのタブレットを指差す。
「ふ~ん」
「晩御飯まで暇だと思うし、何か観る?」
アリアにタブレットを渡すと、手慣れた手つきで操作する。
「わかった。適当に観てる」
そう言いベッドに座って動画を観始めた。
『まんじゅ~♪まんじゅ~♪なかよ~しまんじゅうしま~い♪』
「うわ~、懐かし~」
教育テレビで放送されている【おまんじゅう姉妹】のオープニングテーマがタブレットから流れた。
彾嘉も小さな頃はよく観ていた。
「おまんじゅう姉妹観るの?」
タブレットを覗くと、アリアは慌てて停止ボタンを押す。
「こ、こんな幼稚なものは観ないのだ!指が当たってしまっただけなのだ!」
アリアは本当は観たいが、子ども向けアニメが恥ずかしいようだった。
彾嘉もやることもないので、気を遣って一緒に観ることにした。
「そうなの?さっきのオープニング聞いたら、久しぶりに観たくなっちゃったな~、一緒に観ても良い?」
「し、仕方ないのだ!一緒に観てやるのだ!」
アリアがタブレットをどう観せようか考える。
「りょうか、こっちに座れ」
彾嘉の手を引いてベッドに座らせる。
「もっと壁に行って」
そのまま奥へと押され、壁に背を預けるとアリアが迫ってくる。
「足開けて」
「え?」
足を開けると、間にすっぽりと入る。彾嘉の顔の下にアリアの頭がくる。
女の子に耐性が無く、人見知りな彾嘉には子どもとはいえ密着されると緊張してしまう。
「あ、あの……あんまり引っ付かれるのは」
「なんでだ?」
「変な匂いとかしたら嫌だし……」
「私は気にしないのだ。それに」
ぐいっとアリアが彾嘉の胸元に顔を近づける。
「りょうかからは変な匂いはしないのだ」
「そんなこと言われたら私も気になってきたのだ。今日はずっと歩いていたし」
アリアは自分の服の匂いを嗅ぎ始める。
「私は大丈夫か?」
アリアが体を押し付けてくる。女の子特有の甘い匂いがする。
「どうだ?」
「だ、大丈夫だよ」
「にゃっはっはは!どことは言わないが、反応しないように気をつけろよ!」
そう言いながらエンジュが彾嘉の枕の上で昼寝をし始める。
「りょうかが持て」
彾嘉にタブレットを持たせると、アリアがスタートを押す。
タブレットをずっと手に持った状態なので少しキツイ。ちょっとした筋トレになっている。
「少ししんどいから、たまには休ませてね」
おまんじゅう姉妹の軽快なオープニングテーマが始まった。




