ep.7: 観光の光と影を超えて〜京都(キツネ)、東京(ハヤブサ)、大分(サル)の挑戦〜
京都、東京、大分――それぞれが抱える観光地としての課題。観光客を迎える喜びと、地元の暮らしの板挟みになる現実。そんな中…
観光と地元の共存を模索するヒントとなるのでしょうか。果たして彼らは、それぞれの道をどう切り開いていくのか?
夜の京都。寺院のライトアップが観光客で溢れ、夜空に賑やかな声が響いている。京都はその喧騒を背に、静かな路地から街を見下ろしていた。
京都:
「観光で成功してるって言われてるけど……ほんまにそうなんやろか。」
その声に応えるように、夜空から東京が軽やかに舞い降りる。
東京:
「どうしたんだ、京都さん?観光業、絶好調なんじゃないのか?」
京都:
「そやけど、観光客がぎょうさん来てくれるんは嬉しいんやけどな。バスがぎゅうぎゅうで、地元の人が乗られへんねん。それって成功って言えるんやろか?」
東京はくちばしを鳴らしながら、少し苦笑いを浮かべる。
東京:
「まあ、それはうちも似たようなものだよ。観光客向けの高級店ばかり増えて、地元民には手が出ない。家賃もどんどん上がって住みにくくなってるし。」
京都:
「東京でも、そんなことあるんやな。」
東京は誇らしげにくちばしを動かした。
東京:
「でもね、新宿駅なんか、1日の利用者数が世界一だよ。365万人も使ってるんだ。」
京都:
「世界一!?それ、ほんまかいな?」
東京:
「本当だよ。地元民も観光客もごった返してるよ。それは疲れるよな。」
その時、のんびりした声が響いた。
大分:
「なんしよんのかいな、深刻な話しちょんみたいやな。」
現れたのは大分。片手に温泉タオルを握りしめ、もう片方の手で頭を掻いている。湯気がほのかに漂い、どこかのんびりした雰囲気をまとっていた。
大分:
「別府の温泉もな、観光客がぎょうさん来てくれるんは嬉しいっちゃけど、地元の人が入りにくいっち話が出ちょんのよ。」
東京:
「別府って、源泉の数が世界一だったよね?」
大分:
「そげなこつよ!2,300カ所以上の源泉があるっちゃ。それに湧出量も日本一やけんね!」
京都:
「さすが温泉県……けど、そんなに源泉あっても地元の人が入れへんのは辛いなあ。」
大分:
「ほんま、それよ。観光も地元も大事にしたいっちゃけど、どうしたらええんか、わからんけんね。」
京都は静かにため息をついた。
京都:
「観光で盛り上がるんはええけど、どこも課題だらけやな……。」
夜の京都。寺院のライトアップが観光客で溢れ、夜空に賑やかな声が響いている。京都はその喧騒を背に、静かな路地から街を見下ろしていた。
京都:
「ほんま、観光客がぎょうさん来てくれるんはありがたいんやけどな、そればっかりやないんよな……。」
京都が静かに言葉を継ぐと、東京が少し身を乗り出した。
東京:
「うちも似たようなもんだよ。観光業が盛り上がるのはいいけど、地元民の生活が圧迫されることが多い。最近は『観光客ばかりが得をしてる』って不満の声も増えてる。」
大分:
「別府も似ちょるなあ。観光客に混じって、温泉に入りたい地元民が遠慮するようになっちょるっちゃ。観光で地域を元気にするはずが、地元の人が『疲れる』っち言いよるのは問題やなあ。」
京都は少し考え込むように俯いた。
京都:
「そやけど、観光を辞めるわけにもいかへん。地元の経済が観光に支えられてる部分も大きいからなあ。」
東京:
「うん、そこが悩みどころだよ。うちなんか、新宿駅の1日の利用者数が世界一って自慢してるけど、実際は地元民も観光客もギュウギュウで、みんなストレス溜まってる。」
大分:
「別府も観光客のおかげで商売が成り立っちょるけんね。けど、地元の人たちが『わしらの温泉が取られた』って思うようになったら、そりゃ悲しいわ。」
3匹はそれぞれの悩みを共有しながら、具体的な解決策が見つからず、重たい沈黙に包まれた。
京都:
「観光専用のバスを走らせようって案もあるんやけど、予算が足りへんし、地元の人から『観光客ばっかり優遇するんか』って反発されるのが怖い。」
東京:
「うちも似たようなことを考えたけど、地元民の負担が減るどころか、むしろ税金が増えるとか言われてね。みんなの合意を得るのは難しいよ。」
大分:
「地元民専用の温泉時間を作るって話もあるっちゃけど、観光客から『差別されちょる』っち声が出たらどうするか、難しかとこやなあ。」
3匹は頭を抱え、路地の片隅で途方に暮れた。
京都:
「ほんま、観光って難しいなあ。地元を守りたいけど、観光を辞めたら元も子もない……。」
その時、夜空からふわりと大きな影が舞い降りてきた。3匹が顔を上げると、そこには月明かりを浴びて輝くツルが静かに立っていた。その羽は旅の埃をまといながらも、どこか神秘的な輝きを放っている。
ツル:
「深刻そうな話をしていますね。何か悩み事ですか?」
京都:
「誰や、あんた?何者やのん?」
ツルは柔らかく首を傾げ、落ち着いた声で答えた。
ツル:
「私はツルです。いろいろな土地を旅して、いろいろな景色や課題を見てきました。少しでもお役に立てることがあればと思って降りてきました。」
東京が興味津々でくちばしを鳴らした。
東京:
「旅してきたって、どんなことを見てきたの?」
ツル:
「例えば、北海道では観光専用バスを導入して、観光客と地元の交通を分ける実験をしています。地元民は快適になったそうですが、維持費が課題になっているようですね。」
京都:
「維持費って、どういうことや?」
ツル:
「観光客が減った時に、その専用バスをどう維持するかという問題です。現状は、観光収入に頼り切っている部分があるので、安定的な資金源が必要なんです。」
ツルはゆっくりと翼を広げ、話を続けた。
ツル:
「それから、長野では観光業の人手不足を解消するために、新しい雇用プログラムを始めています。例えば、主婦の方が働きやすい環境を整えたり、時給を少し高めに設定したりして、負担を減らしているんです。」
東京は驚きの声をあげた。
東京:
「そんなこと、もうやってるんだ!知らなかったな。」
次にツルは、大分に目を向けた。
ツル:
「それと、大分さんの温泉ですが、地元民と観光客の利用時間を分ける取り組みも試されているそうです。地元専用の時間を作ったことで地元の人には喜ばれましたが、観光客向けのフォローが今後の課題のようですね。」
大分は目を輝かせた。
大分:
「それ、ええアイデアやな!地元の人たちも喜ぶかもしれんけど、観光客とのバランスも大事っちゃね。」
ツルは静かに翼を閉じ、3匹を見つめた。
ツル:
「どの土地も、まだ完璧な解決策にはたどり着いていません。でも、工夫を重ねて少しずつ前に進もうとしています。それが一番大事なんだと思います。」
京都が深く頷いた。
京都:
「つまり、うちらも動かんと何も変わらん、っちゅうことやな。」
東京はくちばしを鳴らしながら言った。
東京:
「そうだね。まずはやれることから始めないと。」
大分も大きく頷いた。
大分:
「そやな。地元民と観光客、どっちも大事にできる道を探ってみるわ!」
ツルは静かに微笑むと、夜空を見上げた。
ツル:
「皆さんがそれぞれの道を歩む姿を、これからも楽しみにしています。では、私はまた次の地を旅してきます。」
そう言うと、ツルは大きく羽ばたき、再び夜空へと飛び立った。その姿は、未来を見据える旅人そのものだった。
夜空にツルの影が消え、静寂が訪れた。京都、東京、大分の3匹は、じっとその姿が見えなくなるまで見上げていた。
京都:
「えらいもんやな、あのツル。いろんな話をしてくれたけど、全部今のうちらに必要なことばっかりやった。」
東京:
「そうだね。課題は山積みだけど、やれることを見つけて少しずつ動かないと、何も変わらないってことだ。」
大分:
「ほんまそれや。観光も地元も、どっちも大事っちゃけんね。地元の人たちが笑顔でおれる場所を守りつつ、観光で新しい元気をつくる。そげな温泉づくりを目指してみるわ。」
京都:
「せやな。うちも、地元の人も観光客も満足できるバス運行の仕組みを、まずは試しにやってみるわ。失敗したらその時また考えたらええ。」
東京:
「それがいいよ。うちも、地元の人たちともっと話し合って、観光業を支える新しい方法を考える。103万円の壁の話も広げてみるよ。」
3匹はそれぞれの決意を胸に、静かに笑い合った。街の明かりが闇夜を照らし、観光地としての京都の魅力を浮かび上がらせている。
京都:
「それにしても……観光で地元が疲れるなんて、皮肉な話やな。でも、そこに住んでる人が幸せになれる街こそ、ほんまの観光地なんかもしれへんな。」
東京:
「観光は地域の魅力を外に伝えるものだけど、地元の人たちが誇りを持てなければ意味がないからね。」
大分:
「それなら、まずは自分たちが楽しめる観光地をつくることやな!別府の温泉、もっとおもろくしてみるけんね!」
3匹はそれぞれの街に帰るため、静かに立ち上がった。その背中には、新しい未来を切り開く決意が宿っていた。
ふと京都が呟いた。
京都:
「ツルのやつ、なんであんなに詳しいんやろな。もしかして、もっと大きな力が背後にあるんちゃうか?」
東京がくちばしを鳴らして笑う。
東京:
「さあね。でも、あの言葉がヒントになったのは間違いないよ。」
遠くの空には、ツルの羽ばたきが小さく見える。旅立つ姿を見送る3匹は、もう迷いのない目をしていた。未来を見据え、それぞれの一歩を踏み出す準備が整っていた。
観光地としての成功は、地元の人々の幸せと共にあってこそ。本作では、京都、東京、大分のそれぞれが抱える課題を通じて、観光と地元の共存のあり方を探りました。ツルの旅はまだ道半ばですが、各地で取り組まれている小さな挑戦や知恵が未来への光となることを願っています。観光の「光と影」を超えた先に、どんな未来が待っているのか。物語を通じて少しでも考えるきっかけになれば幸いです。