表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/44

第5話 裏武器屋(後)

 華奢なくびれとおへそが見えた時、それが、彼女が服を脱ごうとしているのだと気付いたカサネは、慌てて止めに入る。



「おまっ、何やってんだ!」



 どうにか押さえ込むと、エステルはか細い声で「だって」と呻いた。



「この魔装束はうちに伝わるものだから、多分百フィルマくらいで売れるよ。指輪は触媒だから無理だけど、服なら――ほら、あの麻の服とかでも大丈夫だから」

「いやいやいやいや」



 二フィルマセント――フィルマセント=フィルマの十分の一の額。銅貨一枚がこれに当たり、銀貨一枚がフィルマ、金貨一枚で百フィルマに相当する――で投げ売られている下級装備を指さす彼女に、カサネは頭を抱えた。



「別に、お前の服を売る必要はないだろ」

「でも、他の冒険者たちのものを取り上げて売るなんてことをしたら、カサネは犯罪者になっちゃうんだよ?」

「あー……」



 至極真っ当な意見に、天井を仰ぐ。

 返す言葉もない。それどころかゲームの中の勇者など、人の家のタンスを漁り壺を壊するとネタにされるほどだ。店の裏口から入っては在庫の宝箱をくすね、加入した仲間の装備はとりあえず剥ぐ大罪人である。



「(って、あれ……?)」



 カサネは眉間に皺を寄せる。また違和感だ。

 これまでの周回において、モブ冒険者を利用したこの『錬金術』を止められたことはない。何故なら、そういうシステムだからだ。


 それが今は、勇者の悪名を懸念したヒロインから、止められている。



――一目で、よろしいのですか?

――違うよ。こっち。



 柔らかな熱たちが脳裏をよぎった。



「(やっぱり、おかしい)」



 そもそも『フィルマメント・サーガ』には、好感度のシステムがないのだ。かの有名な『幼馴染を選ぶか、富豪の娘を選ぶか』といった分岐もない。


 どうしたものか。


 考えあぐねていると、不意に、背後で扉が開く音がした。

 こちら側へ開く扉のため、カサネは慌ててそれを避ける。



「――やはりこちらにいらっしゃいましたか、カサネ様」

「アルコさん?」



 入店してきたのは、城に仕えるメイドだった。王城でフェリーチェに声をかけずに通り過ぎ、彼女が転んだルートの方で、手当てのために呼ぶことになるのが彼女である。



「装備のご購入はまだでしたでしょうか」

「えっ? ええ、はい」

「それは重畳。間に合って良かったです」



 彼女は両手で抱えていた、細長いものを包む布を解きながら、口を開いた。



「こちらは、フェリーチェ王女からでございます。王女の私室に飾られていたものですが、カサネ様がお使いになった方が有意義だと」



 包みが取り覗かれ、そこに残っていたのは、目を見張るような輝きを放つ一振りだった。

 手渡されたそれの鞘を、そっと抜いてみる。素人目にも、鉄の目がきめ細かいことがわかる。



「……宝剣コラッジョか」



 店主の声が、驚いたようにやや上ずった。



「ええ、さすがの審美眼ですね。フェデルタ」

「……フン」



 アルコが発したのは、店主の名前だろうか。気にはなったが、一瞬走った殺気のような緊張感を察したカサネは、口を噤むことにした。



「ありがとうございます。王女様に、心から感謝致しますとお伝えください」

「あら、そのような堅苦しいお言葉でよろしいので?」

「ええと……はい?」



 言葉の意図を掴みあぐねていると、アルコはくすくすと喉を鳴らして「冗談です」と笑った。



「……棍棒と、木の盾はどうする?」



 おもむろに、店主が口を開く。



「……置いていくなら買い取ろう。五十フィルマでどうだ」

「ひ、ひのきの棒が、私の全財産より高い……」



 エステルの体がふらついた。

 その様子に、店主の口元がわずかに緩む。



「……良き剣を見せてくれた礼だ」



 表情の変化の割に声色は変わらず、彼は淡々と告げると、カウンターに五枚の銀貨を置いた。

 カサネはありがたく銀貨を受け取り、ひのきの棒となべのフタを差し出す。


 改めて、手元の剣を観察する。

 宝剣コラッジョ。持ちうる知識に一切該当しない剣。

 だが、握ってみた柄は、不思議と手に馴染んだ。



「(今回のチャートは、やっぱり何かおかしい)」



 とはいえ、ここまで目立ったロスはなく、予定のラインすれすれのところにいる。

 不安要素となるか、起爆剤となるか。



「ご武運を」



 そう言ってお辞儀をしたアルコに頭を下げ返し、カサネはひとまず『裏武器屋』を後にすることにした。

※   ※   ※   ※   ※

お読みいただきありがとうございます!

よろしければ少し下にあるいいねボタンを押していただけると励みになります!

次回もお楽しみください!

※   ※   ※   ※   ※

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ