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第38話 水底に沈んだ可能性

「私が仕込んだのは、毒よ」



 したり顔で微笑むアルマを、ツナミが憤怒の形相で睨みつけた。



「ふざけ……やがって……!」

「自分を通して巡回するだなんて、種明かしをしてしまうからそうなるのよ、お嬢ちゃん」


「あああ、あああ――――――ッッッ!!」



 溺れたようにもがきながら、ツナミが呪詛を吐き散らす。



「よし、今だ!」

「ええ、みんなで決めるわよ!」

「お兄ちゃん、お願い!」

「ああ行くぞ、【ソニャンド・フィオリトゥーラ】!!」



 竜化したソーニャの吠える声を合図にして、カサネたちは一斉に構えた。



「【火炎柱(フレイム・ピラー)】!」×「【華風の咆哮(ウィンディ・ロア)】!」×「【迅雷魔法(ボルテックス)】!」×「【華吹雪(フルーリー)】!」

詠唱(チート・オン)魔力増幅(マジック・ブースト)】ォ!!」



 全身全霊を込めて叫ぶ。

 迫りくるスキルに、ツナミが口が裂けんばかりに怒号を発した。



「クソ、雑魚共が……私に歯向かうなァァァ! 私は【ツナミ・ラピーダ】様なるぞ!」



 否。実際に()()()()()

 人一人など平気で食い破れるのではないかという程に大顎が開き、血走った目尻からは触覚(ヒゲ)が流れた。頭には半透明の水角が反り立ち、人魚の半身は嫋やかにたなびく尾びれへと膨らんでいく。



「これはまさか、竜化……?」

『クズの雑魚共が、水に飲まれて藻屑と消えろ!!』



 蒼竜が体をうねらせると、水面が爆発した。スキルを呑み込んだ水は、真下で渦巻く水流へとすべてもろとも引きずり込み、姿を消す。

 わずか数秒で勝機さえもが波に攫われ、カサネたちは言葉を失った。



『アハハハハハッ! 死ね、未熟な勇者風情が!』



 奴の言葉で我に返ったカサネの視界に、魔法陣から今まさに噴き出す鉄砲水が映る。



「(まずい、やられる――!)」



 ここに来て、一人目の五厄災相手に敗北するのか。このまま、おめおめと王城で目を覚ますのか。

 どうにか逃れる一手を探して思考をフル回転させる。そこでふと、視界の右端に映るローブと、左端に映る白い髪の毛が目に入った。



「(そうだ、エステルたちを盾にすれば、最悪の事態は免れる!)」



 そして、この攻撃で俺を倒したと確信している奴の隙を討つ。エステルたちは後で救出すればいい。ソーニャなどはタフだから、何とかなるだろう。

 既に蒼竜の攻撃は放たれている。善は急げと、カサネは白い髪の毛の襟元に手を伸ばそうとした。


 しかし、手が動かなかった。体が拒否をするように、指の一本さえ動いてくれないのだ。

 これは走馬灯のようなスローモーションにいるだけで、時間にして一瞬だからなのか。



「(…………違うっ!)」



 目を瞑る。その理由は、自分が一番理解していた。



「カサネエエエエエエッ!?」



 鉄砲水に撃ち抜かれたカサネは、蟻地獄のように口を空けて待ち構えていた渦潮に巻かれながら水中に沈んだ。

 どれほどもがいても、もがけばもがくほど、まるで水底から手が伸びてきたように引っ張られる感覚が強くなる。



「が……ぽっ……」



 終わりなのか。


 思い浮かぶのは、彼女たちとの思い出だった。それも『再走』の間見て来たものではなく、今回の変則チャートにおける生きた彼女たち。



――私にあって貴方にないもの……それは、彼と共に生き抜くことを誓う、覚悟よ!


「(エステル……)」



 せっかちで料理が下手で、けれど世話焼きな、灯のような優しさ。炎のような心の熱さ。



――いっぱい食べて、元気になってね!


「(ソーニャ……)」



 わんぱくで世間知らずで、けれども誰より思いやりの心を持つ、最高のムードメーカー。



――決めた。カサネが見たことのない私をたくさん見せ付けたげる。


「(キアラ……)」



 向こう見ずで意固地で、けれど常に誰かのことを考えて行動している、頼りになる参謀。



――そんな顔しないで。色男が台無し。


「(アルマ……)」



 今回の『再走』で初めて出会ったが、既に彼女は信頼のおける仲間だ。



「(死にたく、ねえなあ)」



 手を伸ばす。すでに水面の明るさはぼやけている。天井より低い位置までしか水没していないはずなのに、その高さがひどく遠く感じる。

 何故、今回の『再走』では不測の事態ばかりが起きたのか。それは何となく理解ができた。

 俺がこれまで、彼女たちを攻略のための駒としか見ていなかったからだろう。

 きっと、それを思い知らせる罰が下ったのだ。



「(死にたくねえよ……!)」



 『再走』を繰り返す程に薄れつつあった『死の重み』が、さらにカサネを水底へと沈めていく枷となる。

 エステルたちの笑顔が泡と共に離れていく。本チャートを攻略する可能性が、消えていく。


 追い縋るように伸ばした手に握っていた剣の刃が、音もなく折れた。



「(ああ――)」



 もう無理だ。再走しよう。


 そうすればきっと、また()()()()エステルたちと出会い、()()()()五厄災と戦う道に戻れるに違いない。

 落ちていく意識の中で、カサネはそんな希望(まぼろし)に目を細めた。



 それでいいのか? 本当に?

※   ※   ※   ※   ※

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