第35話 『隙』
ギガトントンの熱光線を天井へと逸らした攻撃に、カサネは振り返る。
そこには、見覚えのある美しい黒髪の女性がいた。
「どうやら間に合ったみたいね?」
「アルマ!」
「おねーちゃん!」
飛び上がるソーニャに軽く手を振りながら、アルマは颯爽と歩いてくる。
「どうしてここに?」
「話は、あのガーディアンを突破してからよ」
そう言って、アルマはウィンクをした。
「余裕そうだな?」
「ふふっ……」
カサネの問いには答えず、妖艶に相好を崩すだけだった。
そんなアルマに、砲撃を終えたギガトントンが地団太を踏む。
『んもう、外してしまったじゃありませんか! ふざけんじゃねぇよお前これどうしてくれんだよ!』
ひとしきり館を揺らしてから、ギガトントンは何かに気付いたように動きを止め、立てた指をこちらに向けた『ひーふーみー』と数を数える。
『やだ……一人増えてるっ!?』
飛び跳ねてから、その増えた一人をじいっと見つめて、
『あらやだ見たことのある超セクスィーなおにゃのこ!』
「驚いた。私のこと憶えているのね」
『ええまあ。十年前のことくらい、わたしにとっては些末な時間ですからね』
その答えに、アルマはふうん、と鼻を鳴らす。
「それなら、その時のことも覚えてくれているわね?」
『当たり前じゃないですかーやだー! 黒髪ロングの清楚幼女だったお前の事が好きだったんだよ! よくもあの時ぁ逃げてくれたなオルルァン!?』
言葉の後半からドスを利かせたような声に変貌したギガトントンは、アルマ目がけて腕を振り上げた。
「はい大正解」
にっこりと笑んで、アルマはマントを払った。両腕の袖から放たれた鎖分銅が蛇のように床を滑り、ギガトントンの足下から飛び上がる。
「【影華鏡】――【蔓縛鎖】!!」
鎖分銅の影が分裂し、ギガトントンの体に巻きつくと、ぎりぎりと強い力で縛り付けた。
『ンアッー! やめろォ!』
もだもだと抵抗しながら、ギガトントンが叫んだ。
『なーんて。憶えていると言ったでしょう? 所詮はスキル。すぐに打ち破ってやりますよ』
「そうね。私の鎖は耐久性に欠けるもの、あの時も、逃げ出す隙を作るので精いっぱいだった」
『そうでしょうともそうでしょうとも! それじゃあ、あの時のちかえしをたっぷりとさせて貰おうじゃないか!』
ギガトントンが勝ち誇ったように笑う。
そして、アルマも勝利を確信したように頬を緩ませた。
「今回はあの時とは違うのよ、豚さん」
『はい?』
「あの時は逃げるためだったけれど……今私がスキルを撃ったのは、勝つための隙を作るためのものなの」
『えっ、それは……』
ギガトントンが戸惑いの声を出す。
アルマが首だけ振り返り、こちらに視線を向けた。
「聞いて頂戴。まずはソーニャちゃん!」
「あい!」
「貴女のドラゴンテイルこそが、奴を倒す鍵となるわ。奴に攻撃が当たる瞬間に魔力を込めることで、鞭のようにしなり、内側まで届く攻撃が可能になるの。攻撃のタイミングは教えるから、それまで練習していて!」
ソーニャは頷き、ドラゴンテイルをふにゃふにゃにしたり一繋ぎにしたりと、動きながら反復練習を始める。
「カサネとエステルさんは魔法をお願い。奴を炎魔法で十分に熱してから、急激に冷却すれば、その構造はわずかに脆くなる。その一瞬が、奴を倒すチャンスになる」
「わかった。エステル、俺が強化のサポートをする!」
「ええ、丸焼きにしてやるわ! 【火炎柱】!」
「詠唱【魔力増幅】!」
エステルの放った炎を、【TAS】の力で増幅していく。
『アツゥイ!』
全身を炎に焼かれながら、ギガトントンは身を捩った。
十分に熱されたことで、激昂状態の奴の体がさらに赤みを帯びていく。
「今っ、冷やして!」
アルマの掛け声に、エステルが指輪を投げるように外し、左手を伸ばして指を突っ込んだ。
「【氷結界】」
「詠唱【魔力増幅】!」
『ブヒィィィ! ンギモヂィィィ!!』
急激に冷却され、一瞬で赤色が引いた。焼け付いたパイプのような鈍色になったギガトントンは、動きもぎこちなくなっている。
「さあ、ソーニャちゃん!」
「ちょりゃああああっ!!」
ソーニャが飛び上がり、びろんびろんに垂れたドラゴンテイルを振り上げる。
『まずいですよ! なーんてねアゲイン!』
ギガトントンはほくそ笑み、鎖を引きちぎって拳を構えた。
「まずい、奴の拘束が解かれた!」
『ぶひひ、炎魔法と氷魔法で、消滅までの時間を早めたようですねえ! 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!』
ソーニャに向かって拳が放たれる。
しかし、それは雷の矢によって弾かれた。
「私を忘れていないかしら?」
『なん……だと……』
ギガトントンの目が見開く。
その脳天から背中にかけて、ソーニャのドラゴンテイルが叩きつけられた。打ち付けられる瞬間に魔力を込めることで、インパクトが奴の正中線をなぞるように一周する。
『ぶ、ぶひ……』
ぴしっと音がし、奴の体にひびが入った。
『ぶっちっぱ!』
断末魔とともに、ギガトントンの体は瓦礫のように崩れ落ちた。
『スパダ様……今、わたしもそちらへ逝きます……』
消滅していく中で、顔の半分だけが呟く。
その視線が、カサネに向けられた。
『勇者さん……いえ、自称勇者さん……』
「何故言い直した……?」
『ま、多少はね?』
最後までふざけた態度のギガトントンは、最後に一瞬だけ、真摯な瞳をした。
『コラッジョの真の力を引き出せなければ、この先勝てませんよ』
「何……?」
カサネは怪訝に眉を潜めた。何故ならこれまで何度も、宝剣コラッジョなくしても魔王討伐まで歩を進めて来たからだ。何度も、何度も。
それが、勝てないだと?
『スパダ様は「勇気を持つことで、剣は応える」と仰っていま――』
「おい、待ってくれギガトントン!」
言葉の途中で光の粒となった奴に、カサネは手を伸ばす。しかし、握った拳さえも、空しく光はすり抜けてしまう。
「(また、勇気か……)」
財宝を守護せし豚のガーディアンが消えた広間で、カサネは立ち尽くすのだった。
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