第33話 ギガトン!
クラーケンを討伐したカサネたち一行は、港町で一泊をしてから、十二分に癒えた体力で町の外れを目指した。
港町を囲むようにある森の、エルフの里とは中央の街道を挟んだ反対の方向である。迷いそうな鬱蒼とした木々の間を、記憶と獣道を頼りに進んで行けば、開けたところに出た。
「あれが、『水の柱』なのね……」
ドでかい湖の中央に鎮座する館を見て、エステルが体を強張らせた。
「それにしても、なんだってあんなところに建てたのかしら」
「きっと、水浴びしたかったんだよ!」
キアラの疑問に、ソーニャがわあいと手を挙げる。
そのまま駆け出してざぶんと行ってしまいそうな首根っこを獲っ捕まえて、カサネは答えた。
「昔権力を持っていた旧貴族の別荘らしいからな。資金があればあんなところにも館を建てられるんだっていう力の誇示だろう」
「実用性はまるで無視とは、ちょっと趣味が悪いわね」
「だから旧貴族なんでしょ」
そう言って、キアラとエステルは苦笑した。
「で、どうやって向こうに行けばいいのかしら」
「ソーニャ、飛ぶー!」
「だめー」
エステルお姉ちゃんにほっぺたをむにむにされて、ソーニャの駄々はふがふがと封じられた。
「道はこっちだ」
カサネは湖畔をぐるっと迂回するようにしながら、また森へと入って行った。
そこには遺跡のように積まれた地下通路の入り口があった。
入口の階段こそ道が細いが、そこさえ抜ければ、少し広い道に出る。
「へえ、中はこういう風になっているのね」
地下通路の中を、エステルがしげしげと眺めて言った。
壁画の隣で同じポーズをとって遊ぶソーニャは元気そうである。
そんな彼女たちを尻目に、キアラが耳打ちしてきた。
「(これも、見て来たの?)」
「(そんなところだ)」
肩を竦める。
「(けれど、あの時の貴方の口ぶりからすれば、ツナミのことは予想外だったと)」
「(ああ。俺の記憶に、奴が女だったというものはないよ)」
「(成程ね。さすがにすべてが予定調和とはいかないにしても、そういう変化があると大変そうね)」
気遣うように相好を崩す彼女の瞳は、優しい色をしていた。
それに少し、カサネは胸を撫で下ろす。あの夜、流れにまかせて自分の秘密を明かしてしまったのは拙いかと思ったが、その相手が頭の回るキアラであったのは重畳か。
今後相談に乗ってもらうことができるかもしれないと思うと、肩の荷がわずかに軽くなったように思う。
「(知っていることは伝えるさ。この地下通路だって――)」
「あー! カサネお兄ちゃんとキアラお姉ちゃんがナイショ話してる!」
カサネが言いかけた言葉は、ずるいずるいと風船のように頬を膨らませたソーニャによって遮られてしまった。
「あら、バレちゃった」
「言い方よ」
わざとらしく声色を艶やかにして「また後でね」なんて囁かれるものだから、ちょっとドキッとした。が、そんな余韻も当然かまってモードのソーニャによって遮られてしまう。
「あまり走り回るなよ? この先は罠があったりするんだからな」
「はーい!」
解っていなさそうな足取りで、ソーニャがいそいそと歩く。
やがて、ひとつの部屋のような空間に出た。その中央の台座には、まるで美術館の展示品のように、大きなコインが載せられている。
「何かしら。巨大なルソフィルマ?」
刻まれている印章に、エステルが首を傾げる。
「それはギガトンフィルマ。めちゃくちゃ価値のあるものだけど、もちろん罠だから取ろうとなんてするな――よ?」
言いながら、カサネは足下の床が消失したような感覚に気付いた。
「ご、ごめんなさい」
眼前では「やばっ……」という表情のまま固まっているエステルと、コインに手をかけて表情を引きつらせているソーニャがいる。
…………えっ?
「「「わあああああああああっ!?」」」
落とし穴に落ちたカサネたちは、一人難を逃れていたキアラの助けを借りてどうにか這いあがった。
「いいか、今後館に着くまで何も触るな?」
「でもあれ飛べば取れそう――」
「さ・わ・る・な・よ?」
「ごめんなさい……」
どうにか気を取り直し、次に進む。
次の広間では、正面に続く道と、左右に凹んだ壁がある。
キアラは部屋の中央から凹みを観察している。
「別れ道……という割には妙な構造ね」
「別れ道で合ってるよ。両側が回転扉になっていて、正面の扉を開ける鍵のヒントを探すんだ」
「成程、謎解きね。答えは?」
「変わっていなければ知ってる。だから向こうに行く必要は――」
「みぎへまいりまーす!」
「おおおおおおい!?」
ソーニャがぴょんと台座に乗り、装置を起動させてしまった。止めようとおいかけたエステルまでもが壁の向こうへと消えていく――のを、辛うじてキアラが【瞬雷】で引っ張りあげた。
「人の話は最後まで聞こうな?」
「…………ごめんなさい」
とはいえ子供の好奇心を止めることはできないのかもしれないと観念したカサネは、そのちっこい体を抱きかかえると、今度こそ先に進もうと歩き出した。
中央の扉の前には、石が出っ張ったボタンのようなものが九つ並んでいた。
「これは左から一、そして九までの番号が振られていて、特定の順番で押せば開く仕掛けだ」
カサネは腕まくりをしてボタンを押す。
「4、8、6、4!」
「…………開かないわね」
「あっるぇー?」
カサネは目を瞬かせた。
この番号はいわゆる『固定パスワード』である。過去一度として変わったことがない。当然、RTA走者にとっては記憶していて当然の――
「っ!?」
その時カサネに電流が走った。
脳裏を過った直感を、おそるおそる試す。
「8、4、6、2……」
入力すると、カチャリと小気味いい音がして、扉が浮いた。
「開いたわね」
「くそう、くそう……」
しかし開けば官軍。進めるのならどうということはないと、カサネは顔を上げた。
扉を押し開くと、そこは館の中に続いている。
そして、真っ先に目に飛び込んでくるのが、部屋の中央に鎮座する巨大な豚の魔人の彫像である。
「カサネ、あれは……?」
「あれは魔人ギガトントンだ。さっきのギガトンフィルマや、別れ道の先にある財宝を取ってしまうと、奴が起動してしまうんだよ」
奴もキラーベアーと同じ『討伐ボス』に分類される強敵である。
「だからギガトンフィルマに手を出しちゃいけなかったんですね。まあ、今の俺らには関係ないんだけどな!」
さあ先に進もうと踏み出すと、裾を引っ張られて止められてしまった。
「どうした?」
「カサネ、あれ……動いてる」
「はっ……?」
エステルの指先を追ってカサネが振り返ると、魔人の銅像が腕を振りかぶっているところだった。
『ギガトント――――――ン!!!』
「うそ……だろ……?」
洋館に鳴り響く雄叫びに、カサネは頬を引きつらせた。
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