第28話 勇者の意味
騒ぎを聞きつけてやってきた長老の一喝により、混沌とした朝食は『ご飯は当番制』と定めたことで終息した。
しかしこればかりはどうしようもないと、カサネは部屋で荷造りをしながら頭を抱えていた。ゲーム『フィルマメント・サーガ』において彼女たちがメシマズと設定されている以上、どれほどの練習を重ねてもそれは覆らないのである。
「(ただ……もしかしたら)」
今回は違うかもしれない、という予感もあった。本来好感度システムのない当ゲームでの、今回の『再走』の彼女たちの振る舞い。
カサネは頬に手を当て、頭痛のせいで朧気になってしまった感触を思い出す。
あの帰り道も、これまでにカサネとキアラのみで救出に向かうことはあったが、キアラからキスをされることはなかった。
「(駄目だ、そんな期待をしたところでどうなる!?)」
首を振る。彼女たちは確かに可愛い。現実世界ではとてもお目にかかることのできない美少女ばかりではある。
「(考えるな。エステルたちはあくまで『駒』なんだ)」
ことRTAにおいては、わざと仲間を犠牲にしたり、HPがゼロのままで進行をすることもままある。そしてそれは、このリアルRTAにおいても同じだった。
出来ないことといえば、全滅をしてダンジョン外や町に戻る、いわゆる『デスルーラ』のみ。これだけはカサネの戦闘不能=再走を余儀なくされるため、やったところで意味がない。
その代わり、無慈悲に彼女たちを盾役に使ったりすることは、今までの『再走』でも行ってきた。
「――ッ!」
脳裏にエステルたちの凄惨な今際の姿が浮かび、頭を押さえる。
それでも、俺は――
慚愧の念を振り払うように、カサネは荷物を掲げて立ち上がった。
広場に出ると、既にエステルたちは準備を終えて集まっていた。里のみんなも見送りに来てくれている。
それにカサネは安堵した。これがいつもの光景。大丈夫、このままならきっと帰れる。
見送りの人だかりの中から、ぱっとカリーナが駆けて出る。
「お姉ちゃん、頑張ってね」
「ええ、ありがとうカリーナ」
「みんなに迷惑かけちゃ駄目だよ? 風邪引かないでね? 歯磨きするんだよ? 手紙書いてね?」
「もう、お母さんじゃないんだから」
苦笑しながら、キアラが妹との抱擁を交わす。
カサネたちがそれを微笑ましく見守っていると、ふと、長老がやってきて、こちらに声をかけてくる。
「カサネよ。キアラを頼むぞ」
「はい」
返事をすると、長老はほっとしたように頷き、杖を額の前へと掲げた。
「勇者は一人ではなれん。勇者の『勇』とは、勇ましさのことではない。誰よりも己を、そして仲間を信じる勇気を持つことこそが肝要じゃ」
「仲間を信じる勇気……」
カサネの脳裏を、またさっきのフラッシュバックが襲う。
長老からこんなことを言われたことはなかった。だのにどうして今なのか。
まるで長老が、俺がこれから彼女たちに強いるだろうことを見透かしているようで――
「カサネ!」
「――っ」
ハッと我に返って顔を上げると、キアラが戻ってくるところだった。
「待たせてごめんなさいね。いつでも行けるわ」
「あ、ああ。じゃあ、行こう!」
努めて元気に宣言して不安を飛ばし、カサネは里を後にした。決して長老の言葉から逃げるわけではないのだと、胸の内で自分に言い聞かせながら。
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