第27話 最後の朝餐
小鳥のさえずりでカサネは意識をもたげた。
「(そうか、あの後倒れて……)」
部屋に差し込んでくる朝の陽射しが眩しく、中々目を開けられないまま体を起こす。そこではたと、違和感に動きを止める。
「…………掛け布団が、薄い?」
別段待遇に不満があったわけではない。部屋に運んで寝かせてくれただけでも御の字だとは思う。
だがしかし。これはカサネにとって非常に重要な問題だった。
鼻で朝の空気を吸い込んでみるも、里で使っている香は同じもののため、判断材料にはできなかった。
刺すような眩しさに抗い、思い切って瞼を開いてみる。
「……ああ」
カサネは愕然と、再び布団に身を投げた。
「(ここ、キアラの部屋じゃねえ!!)」
見たことのある部屋の構図に、自分が『再走ガチャ』に敗北したことを知った。
悔しさに頭を抱え、蹲る。
これまでにも何度か、カリーナを救出する戦いに於いて【TAS】を用いたことがあった。そうして自分がぶっ倒れると、今のように里の家で寝かせてもらうという流れになる……のだが、運が良ければキアラの部屋で目覚めることができるのだ。
しかし今カサネがいるのは、長老の家に設けられた客間である。キアラ以外の若い女性エルフたちの家ですらない、爆死も爆死、大爆死の寝覚めだった。
「一体何が条件なんだ……俺はどこでミスをしてしまったんだ……」
現実から目を背けるように枕に顔を埋め、転げ回る。だがエルフの里の性質上滅多に使われないという枕からは、ふんだんに染み込んだ香の匂いと、自分の髪の臭いしかしない。
キアラの髪の匂いが、しない!(※彼は勇者です。)
「リアルなRTAの特権が……特権があ!」
誰もがゲームで一度はやるだろう、ヒロインの部屋の探索。鏡台でAボタン、ベッドでAボタン、クローゼットでAボタン! スボミーインでのマ〇ィの部屋! ピ〇チ姫のXXX!!
それを実際に生活感の感じられる空間で堪能することが出来るのが、この長く苦しい戦いでの心のオアシスなのに!(※彼は勇者です。)
不貞腐れて布団にくるまり直すと、突然、外から爆発のような音と振動が伝わってきた。
「何だなんだ!?」
「肉を火で炙るだけで、どうして爆発するのよ!?」
「そっちこそ、自信満々に鍋を持ってきた割には焦げてるじゃない!」
「う、上の無事なところだけ食べてもらえばいいでしょう!」
「私のだってそうですー! 外側削れば良い感じにローストされてますぅ!」
「ソーニャもできた!」
「………………うわあ」
カサネは頬が引き攣るのを感じていた。今の会話だけで全てを察してしまった。
世の大きい同輩は、どうして『メシマズヒロイン』なんてものを作り上げてしまったのだろうか。完璧な美少女に介在する欠点? だから愛着が湧く?
ウン、ソウダネ。ソンナコトシナクテモ彼女タチハカワイイヨ。
「ソーニャ、そろそろカサネを起こしてきてくれる?」
「はーい!」
「ひいっ!?」
カサネは恐れ慄き、音を立てないようにかつ迅速に布団から抜け出すと、一目散に部屋から抜け出した。
「あ、お兄ちゃん起きてた!」
しかしまわりこまれてしまった!
「いぃぃぃやぁぁぁだぁぁぁぁぁぁ!!」
「ごっはん♪ ごっはん♪」
ソーニャにずるずると引きずられ、抵抗空しく、カサネは広場へと出廷を強いられてしまった。
「「さあ、召し上がれ♡」」
「やがれ!」
ご丁寧に用意された長机の上に、エステルたちの笑顔でおまじないがかけられた三枚の木皿が並べられる。
一つはピータンでも刻んだのかと疑うほどに芯まで黒化しかけている肉を使った野菜炒め(らしきもの)。もう一つはイカ墨パスタのソースだけでも出されたのかと疑うほどに淀んだ色をした山菜シチュー(らしきもの)。
そして最後に、疑う余地もないそのままの姿がデンと鎮座したゴリンの実。
「ワーオイシソウダナー」
彼女たちの気持ちはありがたいのだ。彼女たちの笑顔も最高に可愛いのだ。ただ、机の上のナニカは彼女たちが作ったものだが彼女たちそのものではないから愛せないだけなのだ。きっと。
一先ずスプーンを手に取る。エステルたちのやり切った顔の向こうでは、カリーナが申し訳なさそうに口パクで「止められませんでした、頑張ってください!」と伝えてくれる。
手前に目を戻せば、エステルたちの期待の眼差し。これは自分みたいな男にだって解る。つまるところ、一番最初にどの混沌に手を付けてくれるのか、待っているのだ。
「(ええい、覚悟を決めろ、俺!)」
カサネはごくりと唾を飲み、鼻での呼吸を止めた。
勝負は一瞬――詠唱。
「いただきます!」
スプーンを野菜炒めに突っ込み、それをシチューにくぐらせるようにしながら口へと直行、コンマ数秒の間に左手で掴んだゴリンの実へと噛り付く!
だが直後にカサネは判断を誤ったことに気付いた。混沌は混沌だけで処理しなければならなかった。下手にゴリンの実の清涼感などを混ぜてしまったが最後、形容し難い異臭が爽やかな汁気に乗って鼻腔へと膨らんできてしまったのだ。
「…………美味ひぃ……れ……ふ」
「ちょっとカサネ!?」
「お兄ちゃーん!?」
「誰か、誰か救護班を! 早く!」
ああ、これはきっと、キアラの部屋で目覚めようなどと邪な心を抱いた自分への罰なのだろう。ブラックアウトする意識の中で、カサネはひた猛省した。
次に意識が戻った時、そこにはカリーナが作ってくれた健全な朝食と、土下座をするエステルたちの姿があったのだった。
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