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第26話 見たことのない私を

「テメエ、何者だ!?」



 今しがた蹴り飛ばした顔を押さえて、盗賊の一人――カシラの男が唾を吐き散らした。



「俺か? んー……なんだろうな」

「ああ!?」

「俺は勇者であり、テメエらに()()()()()()()()()上に、今回は大切な仲間にに乱暴働かれてはらわた煮えくりかえっている男だよ!!」



 カサネはブチ切れていた。



「一体どういうチャートの変更があってこうなってんだよチクショウが」

「意味分からねえこと言ってんじゃねえ、野郎ども、囲め!」



 カシラが号令をかけると、部屋中に散っていた男たちが戦闘態勢を取る。



「こいつが誰であろうと、一人だ! 構うたねえ、嬲り殺せ!」

「「「「「ひゃああっはー!!」」」」」



 汚い息で二酸化炭素濃度を高くされる中、カサネは男たちの顔をぐるりと見回して言った。



「俺は、一人じゃねえよ」

「……何?」

詠唱(チート・オン)――」



 起動すると、カサネの体がくんっと残像を残してブレた。

 ブレて、ブレて、ブレて、ブレて……残像たちは実像となる。



「な、なんだこいつら……!?」



 分裂したカサネに、男たちが驚愕の声を上げる。



「何って、俺だよ」



 今までテメエらを()()()()()()()()俺だ。それぞれ持つ武器も違えば、よく見るとその顔つきも違う。余裕が見えていたり、切羽詰まっていたり……お、懐かしい、船のオールを武器にしている俺もいる。あれは何周目のことだったろうか。



「喰らえ――【多元斬パラレル・ディメンション・ブレイク】!」



 カサネが剣を払うと、カサネたちは一斉に男たちを薙ぎ倒した。

 奴らの一掃を確認すると、カサネは【TAS】を閉じた。今日はエルフの森の突貫を行ったせいか、酷使した頭が既に痛み始めている。



「怪我はないか?」



 カリーナの状態を確認して、その肩に自分の上着をそっとかけてやる。



「キアラは少し我慢しててくれ」

「え、ええ……」



 茫然としているキアラに声をかけて、カサネは男たちの服を脱がせ、それをロープ代わりに拘束して回った。

 あとは里の人に回収してもらえばいいだろう。



「それで、だ」



 振り返り、キアラに近づく。すると彼女は、ぎゅっと目を瞑って首を縮こめた。



「疑ったりしてごめんなさい! 『針雷(パラリッジ)』のことも、その……!」

「あン? あー……んなことどうでもいい」



 カサネは一蹴した。別に自分など、【TAS】を使えばなんとでもカバーができる。

 それよりも、キアラの方が心配だった。傍目にもわかるくらいにがたがたと震えが収まっていないくせに。

 奴らを倒した時、お前が()()()真っ先にカリーナのところに行くのは知ってる。今だって本当はすぐにでも寄り添ってやりたい中、腰が抜けて動けないくせに。



「無事で良かった。間に合って良かった」



 キアラの肩を抱き締める。今回ばかりは本当に肝が冷えた。お前が男たちに押さえつけられているのを見た時、頭がどうにかなってしまいそうだった。



「……痛いわ」

「うるせえ」



 彼女の髪の、お香の香りに鼻を埋める。生きてる。大丈夫、変則チャートを乗り切れている。


 どれくらいそうしていただろうか。キアラの震えは止まったが、まだ立てそうにないらしかった。

 カサネはこっそり歯を食いしばり、【TAS】を起動して自分の力を増幅させると、キアラとカリーナ、二人をそれぞれ腕に抱えて帰ることにした。



「ありがとう」



 恐怖から解放されたカリーナが寝息を立て始めた頃、不意にキアラが呟くように言った。



「すごく強いのね。カッコよかった」

「カッコいい? そうでもないさ」



 カサネは苦笑した。



「俺はあそこで何度も死んでるんだから」

「……どういうこと?」

「言葉の通りだよ。さっき召喚した『俺たち』は、それをどうにかこうにか乗り越えてこれた、過去の俺なんだ」



 それが【TAS】に秘められた、『再走することで強くなる』力だった。

 同じ場所で、同じ敵相手に戦うのなら、ああやって過去の分身を作り出せるのだ。一つ難点を上げるとすれば、今よりもずっと動きの鈍い、未熟な自分を見せつけられてこっ恥ずかしいことくらいだろうか。



「積み重ねだよ。最初のことは今でもよく憶えてる。どうにもならなくって、ぎゃーぎゃー泣きわめきながら殺されたんだ」

「よく、理解が追い付いていないのだけれど。それでも貴方は立ち上がったから、今があるんでしょう?」

「そういうこと」



 覗き込んでくる瞳に、カサネは笑って返す。



「だからさ、お前も気に病むなよ」

「慰めてくれるんだ?」

「お前は真面目過ぎるところがあるからな」

「生意気。『過去の私』を見て来たから、そうやって私のこと見透かしたように言うのね」



 唇をすぼませながらいじけたように言うと、キアラは、ふと何かを思いついたように目を輝かせた。



「じゃあ、今から私がしようとしていることも知ってるの?」

「わかるか。こんなチャートは初めて――」

「ちゅっ」



 突然頬へ押し当てられた柔らかな感触に、カサネは言葉を失った。



「お、お前……」

「決めた。カサネが見たことのない私をたくさん見せ付けたげる。どうやら私は、あなたの旅についていくのが確定しているみたいだし?」

「お、おう……」



 悪戯な囁き声に、カサネは【TAS】を維持することでいっぱいいっぱいだった。



 キアラメンテ・シンティランテ。後に【雷の大賢者(ブラシオ・シニストロ)】と称される、雷弓使いが仲間になった瞬間である。

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