第25話 紫電の脚
「カリーナ!」
キアラは悲鳴のような声で叫ぶと、伝令のエルフが来た方角へと【瞬雷】で飛び出して行ってしまった。
「おい、待てよ!」
予想外の展開に、カサネは手を伸ばす。
「(ちっ、あの速さで飛び出されたら、エステルたちじゃあ追い付けねえ……)」
本来ならここで、キアラが一時加入し、四人となったパーティで救出作戦へ乗り出すのが流れである。
「(あいつを一人で行かせるわけにはいかねえな)」
困った一番隊隊長サマである。カサネは意を決し、エステルたちへと振り返った。
「エステル、ソーニャ。ここに、船の乗組員たちも連れてこられているはずだから、彼らと合流しておいてくれ。必要であれば手当なんかも手伝いを頼む!」
「う、うん。でも、どうしてそれを?」
「さっき松明の灯かりが見えたってことにしといてくれ!」
適当な嘘をぶん投げて、そのまま詠唱。
「【六四式:空間跳躍】!」
ケツワープで霊木をぶっちぎり、森を抜ける。
結界を飛んだキアラに対し、直接向かわなければならないこちらは不利。カサネは一気に最高速度目指して加速した。
「……いた!」
しばらく森を突き抜けたところで、遠くの方に紫電の光が見える。
光の方へ軌道を変えたところで、カサネの目に、紫電から別れて飛来する一条の光が飛び込んできた。
「――っ!?」
辛うじて躱したものの、バランスを崩して転倒。勢いのままに森の中を転げ飛ぶ。
「痛ってえ……」
「どうやって着いてきたの? やっぱり貴方……」
「はいストップストップ!」
頭上からかかる声に、カサネは両手を挙げながら体を起こした。
「いいか。仮に俺がお前を仕留めに来たってんなら、砂浜の時点でやってる。俺がお前の妹を攫った奴の仲間だってんなら、既に里に危害を加えているっての」
「っ……どうして、カリーナが妹だって」
「勇者様にはお見通しってな。つーかお前こそ、奴らの居場所も知らないのに飛び出して、どうするつもりだったんだよ。森じゅう駆け回るつもりだったのか? 魔力保たねえぞ」
「それは……」
図星を突かれて弓を下ろしたキアラに、こっちだと促す。
獣道を曲がったり、横切ったりと何度か繰り返すうちに、開けた場所が見えてきた。海側とは反対の、森の出口である。
「あそこだ」
カサネが、そこに建てられた簡素な小屋を指さそうとした時だった。
「【針雷】」
腕が痺れて持ち上がらない感覚に襲われたかと思うと、足腰の力も入らず、カサネは前のめりに倒れ込む。
「キアラ、お前……!」
「前言撤回よ、やっぱり認められない。今日は二番隊の方でも、プロフォンド商会を名乗る船の乗組員たちを捕縛しているわ。そして貴方達、あの連中……三方向から攻めるつもりだった?」
「違う。商会の人たちは仲間だけど、あっちは知らねえ!」
「どうかしら」
キアラは冷たく肩を竦めると、脚に雷を纏わせて行ってしまった。
最後に残した「さよなら」が木々のさえずりに溶けていく。
カサネは大きくため息を吐いて【TAS】を起動した。
「(マジで、この時点でのあいつ、頭固すぎ……!)」
だが、彼女がキアラメンテ・シンティランテであることは僥倖だった。こちらへの疑念と、妹を心配する焦燥とに苛まれつつも、冷徹にはなり切れず、俺の命を奪わずにいる。
「(そういうところだぞ、バカヤロウ)」
待ってろ、今行くからな。
キアラは雷の恩恵を受けた脚で、小屋の扉を蹴り抜いた。
「カリーナ!」
「お姉ちゃん! 助けて!」
部屋の中央で男に組み敷かれ、上半身を露わにさせられている妹が目に入った。周囲に破かれた服が散乱している。
一体何が行われようとしているのかは考える間でもなく、キアラは激昂した。
「死ね――【稲妻呪文】!」
妹に覆いかぶさっているケダモノのそっ首を穿つ一矢を――
「ひゃああはっ!」
手元から蹴り上げられた。
「ちっ、仲間が!」
横から飛び出してきたもう一人のケダモノに気を取られたキアラは、不意に後頭部に衝撃を受け、床に倒れ伏した。
「おいおい、脇も後ろもがら空きじゃねえか嬢ちゃん!」
「(くそ、抜かった……!)」
敵の数を聞いていなかったとはいえ、少なくとも、三番隊を壊滅させた敵が一人であるはずがないことは、冷静になれば判ることだった。
悔やむキアラの脚を、ケダモノが踏むように押さえつけ、髪の毛を引いて上体を起こされる。
すぐに両側からケダモノが飛びかかり、腕も拘束されてしまった。
「へへへっ。それじゃあ、その甘い甘い腋から堪能させてもらいますかねえ」
見せつけるように汚い舌を見せつけてくるケダモノから、顔を逸らす。しかし見ないようにすればするほど、生温かい息が肌を撫でてくる感覚がはっきりわかってしまう。
「【瞬――」
呪文を唱えようとするが、横っ面をぶん殴られて阻止される。苛立った指に口をこじ開けられ、舌を強く引き上げられた。
「あ、あ……」
「はひゃあはは、この女のベロ、やっわらけえ! これでシャブらせたら最高だろうな……」
「お姉ちゃん!」
「ごめ……ね……」
キアラは霞む目で、泣き叫ぶカリーナを見やる。
誰か、誰か。
「たすへへ……」
助けて、カサネ。
「――当然だ」
願った刹那、紫電の脚がキアラの舌を虐げる男の顔面を蹴り飛ばした。
「えっ……?」
脚はそのまま宙で回転し、カリーナを組み敷いている男をも床に叩きつける。
「あ……なた……」
「悪い、ちっと遅れた。お前の麻痺魔法が強力すぎたせいだかんな?」
妹を守るように立ちはだかるその姿に、とうとうキアラの目から、堪えていたものが流れた。
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