第24話 避けられなかった決闘
エルフの里へは、二つの行き方がある。
一つは、迷いの森を右往左往しながら、何日もかけて偶然奥深くへと辿り着くこと。そしてもう一つは、里に住むエルフの力を借りて魔力の結界を通過することだ。
キアラが生い茂る枝葉のアーチをくぐるようにすると、ほんの少し酔ったように視界が回った後、カサネたちは彼女らの里にいた。
民族的な篝火に照らされた、暗い夜道を進む。
キアラに連れられたのは、その中でも大きな家だった。
茅葺屋根の敷居を跨げば、部屋の中央に囲炉裏のように鎮座する香炉がある。この部屋全体が祭壇と化しているのだ。
「長老、連れてきました」
「うぬ」
奥に座していた老エルフが、垂れた眉をわずかに持ち上げた。
その双眸がカサネを捉える。かつて大魔女として名を馳せたらしいことは聞いたことがあったが、隠居してなお衰えない眼光には、未だに冷や汗が背中に滲む。
「……こやつは勇者で相違ない」
「長老!?」
あっさりと出された見解に、カサネはほっと胸を撫で下ろした。
一方、キアラは不服そうに跪く。
「長老の目を疑っているわけではありませんが、納得はできません」
「ふむ。……のう、勇者よ。その身を示すものはあるか?」
カサネはない、と答えかけて、ふと思い出した。
「この金貨袋には、王家の刻印がされたルソフィルマがある。それと、俺の持つ剣はフェリーチェ王女から下賜された宝剣コラッジョです」
「じゃろうな。コラッジョは儂も目にしたことがある」
思わぬ援護射撃に、カサネは心の中でガッツポーズをした。
本来ならここで、身分を証明するものを所持していない勇者は、キアラの納得を得られずじまいになる。その結果、ならば実力で示すしかないと、彼女と一戦を交えることになるのだ。
プレイヤーへ新キャラの性能をお披露目することを兼ねたプチボス戦である。
もしかしたら、避けられるかもしれない。
「くっ……だったら何故砂浜でそれを言わないの!」
「キアラが真面目だからだよ」
「なっ!?」
カサネは即答した。少し頭が固いところはあるが、その真面目なところには助けられてきた。
「あの場で見せたところで、盗品の疑いが拭えない。俺を疑うのだって、万が一にも里に危険が及ばないよう気を張っているからだろう?」
「何よ、見透かしたように……生意気ね!」
「(お、出た。生意気ね!)」
ちょっと嬉しくなる。魔術大会と剣術大会とで挫かれた調子が、少し戻って来た気がした。
しかし、このまま押し切らせてくれるほど、キアラは柔らかくなかった。
「その軽い態度……やっぱり信用できないわ」
赤らめた顔を咳払いで鎮めると、弓を召喚して勢いよく立ち上がる。
「私と勝負しなさい! 勝てば、貴方を勇者だと認めてあげる」
「やっぱ避けられないのソレ!?」
「やっぱり口八丁で逃れようとしていたのね」
「いやそうじゃなくてさ! あーもう!」
お宅のエルフさん頭固すぎやしませんかねと、カサネが長老へ視線で縋ると、彼女は「たまには息抜きも必要じゃろう」などと達観したように頷いてくれやがった。余興扱いかよ。
途端にやんややんやと周囲のエルフたちも野次を飛ばし始めてしまう。ついでにエステルとソーニャもそわそわと楽しそうに加勢している。後で憶えていろお前ら。
仕方なくカサネは、表の広場に出てキアラと向かい合った。
長老の付き人が放り投げた石が、地に落ちたのが合図だ。
「すぐに化けの皮を剥いであげるわ――【稲妻魔法】!」
「――超動せよ、【Terminate-|Acceleration-System】!」
素早く次の矢がつがえられる、文字通り疾風迅雷の如き早撃ちを横っ飛びで躱しながら、カサネは【TAS】を起動した。
「詠唱【魔法複写】」
視界の数列を抽出、変換、再構築。
俺が指定するコードは『0x16cb24b:0019』!
「――【火炎柱】!」
中央の井桁組から聖火の力を借り、追撃してくる雷を押し流す。
爆ぜる大地、巻き上がる土煙。視界を眩ませられれば――
「無駄よ、【瞬雷】!」
炎から雷が突っ込んできた。雷を両足に纏ったキアラが、高速果断にぶち抜いてきたのだ。
「(そう、お前はそうするんだ)」
カサネは後方に身を投げ、雷矢の切っ先をスレスレで躱しながら、【魔法複写】のチートがオンにされたままのコードを組み替える。
俺が指定するコードは『0x16cb284:002B』。
狙いを定めたカサネと、宙を舞いながらも既に二の矢をつがえているキアラとの、視線が交錯した。
「「【稲妻魔法】!!」」
流星が降り注ぎ、そして打ち上がる。
「きゃああっ!?」
カサネは【六四式:空間跳躍】で難を逃れたが、不意打ちの稲妻魔法をカウンターされたキアラは、避けきれずに墜落した。
「俺の勝ちだな」
「くっ……まだよ」
よろよろと立ち上がったキアラの目から、闘志は消えていない。
「いや、それまでじゃ」
「長老……」
「お前はどちらかが斃れるまでやるつもりか、キアラメンテ。小僧の力は十分理解できたじゃろう」
「それは……はい」
観念したように目を閉じ、睫毛を揺らす。
ややあってキアラは、こちらへ向き直った。
「認めるわ、貴方を」
「ありがとう」
改めて手を握り交わそうとしたその時、里に一人のエルフが、ボロボロの体で転がり込んできた。
「報告! 三番隊、不審者の捕縛に失敗! カリーナさんが、連れ去られました……っ!」
「カリーナが!?」
申し訳ありませんと地に頭を擦り付けるエルフに、キアラが身を強張らせる。
※ ※ ※ ※ ※
お読みいただきありがとうございます!
よろしければ少し下にあるいいねボタンを押していただけると励みになります!
次回もお楽しみください!
※ ※ ※ ※ ※




