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第23話 エルフの雷弓師

「とーりゃあー!」

「ぐっふぅ!?」



 腹に何かが突き刺さった感覚に、カサネは悶え起きた。



「お兄ちゃん起きて、起きて、おーきーてー!」

「起きてる……ぐふっ、起き……てるから……ソーニャ、やめ……」



 びったんびったんと頬を往復する手のひらを、どうにか捕まえて止めさせる。ビンタの衝撃で散る星せいで、夜空がいやに眩しく白んで見えた。



「あ、起きた! エステルお姉ちゃん、カサネお兄ちゃんが起きたよ!」



 腫れぼったい目で全裸の襲撃者の姿を追いかけると、集めた薪に炎魔法を放ち、火を起こしている下着姿のエステルがいた。



「ああ……地獄から天国に変わった……」

「何言ってんのよ」



 報告を受けてこちらにやってきたエステルから苦笑気味に手を差し伸べられ、カサネはそれを取って体を起こす。

 目の前は海、背後は鬱蒼とした森。カサネはぐるっと視界を一周させ、きちんと目的の地へ流されていることを確認する。



「ソーニャが獲ってくれた魚を焼くところなのだけれど、食べる?」

「ああ、もらうよ」



 答えると、エステルは手頃な枝で魚を刺し、火にかけた。



「私たち、流されてしまったみたいね。どこなのかしら、ここ……」

「大陸を渡ったみたいだな。ほら、あっちに小さく見えるのがキアロマーレだ」



 指し示すと、エステルは両手を双眼鏡のようにして目を凝らす。



「陸地らしいものは辛うじて見えるけれど……暗くて駄目ね」

「ダメね!」



 真似っこをしてうーんと背伸びをしていたソーニャも同意した。

 無理も無いだろう。一周目のカサネも、キアロマーレが向こうにあると正確に把握できたのは、日が昇ってからのことだ。

 どっぷりと濡れた服を絞り、乾かしながら魚にありつく。海水という天然の塩気で味付けされた新鮮な味は、心休まるようだった。



「これからどうしましょうか。周囲を探索するにも、暗いままだと動きづらいわね」



 食べ終えた串を拡げた葉っぱの上に置きながら、エステルが眉尻を下ろす。

 そんな時、ソーニャがあっと声を上げた。



「お兄ちゃんお姉ちゃん、向こうから何か来る!」

「(……来たか)」



 森の奥に点々と灯る松明の赤を、カサネは出迎えようと服に袖を通す。

 しかし、



「そこの痴れ者、止まりなさい!」

「……へ?」



 よく聞き知った声からの、聞いたことないセリフに戸惑っていると、カサネの足下に、これまたよく見知った雷の矢が突き刺さった。

 混乱しながらもカサネは、迎撃態勢を取ろうと構えたエステルとソーニャを手で制す。



「私たちの里で、狼藉を働かせるわけには行かないわ」



 怒気を孕んだことで一層クールな声色で現れたのは、長いアクアブルーの髪をした、大人びたエルフの少女。



「いや、俺は狼藉だなんて」

「今まさに服を脱いで襲いかかろうとしている人が、よく言うわね」

「逆、逆! キア……そっちが来るのが見えたから、服を着ようとしてたの!」

「まさか、既に事後……!?」

「どうしてそうなる!?」



 怒りか、はたまた羞恥か。顔を真っ赤にしながら霊弓に雷をつがえたエルフの少女は、その切っ先をこちらへ向けてくる。



「死せよ変態……っ、【稲妻魔法(ライトニング)】!」



 放たれた矢は、すんでのところでソーニャが撃ち落としてくれた。











「ごめんなさい、早とちりだったのね……」



 エステルとソーニャが説得をしてくれ、ようやくこちらが遭難者であると把握してくれたエルフは、睫毛の長い切れ長の目を伏せ、深く頭を下げた。



「私はキアラメンテ。キアラでいいわ」

「カサネだ。よろしく」



 握手を交わす。普段はひんやりとしているキアラの手が、今日は少し熱っぽかった。



「海はクラーケンが出ているというのに、貴方たちはどうして航海なんて?」

「俺が勇者だからだよ。魔王を倒すために旅をしている」

「勇者……ね」



 キアラの目がきりりと細まり、眼光を深めさせた。



「悪いけれど、信じるに値しないわ。さっき話してくれた、奴隷だったその子を保護したという話も、自分の商品として私腹……いえ、私欲を肥やすためかしら?」

「ちょっと、カサネはそんなことしないわよ!」

「そうだそうだー!」

「どうかしら。ぺタロ、フォリヤ。当初の予定通り、彼らを連行するわよ」

「「はっ」」



 同行していた二人のエルフから、カサネたちは後ろ手に拘束されてしまう。



「……ちょ、ちょっと!」

「ソーニャ悪いことしてないよ?」



 エステルたちが戸惑っている中、カサネはキアラを視線を向けた。



「理由を聞いても?」



 訊ねると、キアラはその整った顔立ちを苦々しく歪ませた。



「クラーケンの出現によって物資が滞り、下衆な人間たちが私たちの同胞を狙っているの。その手口の一つとして、先日の勇者出立の報せを利用した誘拐犯を、既にゴマンと見ているわ」

「……だそうだ。二人とも、落ち着け。誤解を解くためにも付いていこう」



 カサネはエステルたちに声をかけ、大人しくキアラに連行されることにした。

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