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第22話 イカはいかが?

 エステルとソーニャがそれぞれの部門を制したことで、晴れて(?)勇者のパーティは守られた。

 これで良かったのだろうか、そんなカサネの一抹の疑問は、外に出た時に頬を撫でてきた潮風が溶かしていく。風に導かれるように振り仰げば、灯台がこちらを見下ろしている。その雄大な佇まいの前では些末な事だろう。



「(仲間……欲しかったな)」



 海の白波に想いを馳せる。



「あ、いたいた!」



 声に振り返れば、アルマがこちらへ駆けてくる。

 彼女は屈みこんで鞄を下ろすと、折りたたまれた槍を取り出した。



「はい、貴女にこれを」

「ソーニャにくれるの?」



 わあい、と喜び勇んだソーニャが三節槍を受け取ると、とたんに槍はふにゃんと垂れ、バラバラになってしまった。



「わわ、こわれた!?」

「ふふっ、違うわ」



 アルマは唇に指を当て、からかうように笑った。



「魔力を込めてみて」



 彼女に促され、ソーニャがうんと唸ると、バラバラのパーツが一瞬で真っ直ぐな柄に戻り、一本の槍になる。



「これは『ドラゴンテイル』と呼ばれる、竜の尾の骨を使った武器なの。魔力の込め方ひとつで、直槍になったり鞭のようにもなる、変幻自在の百節槍。以前、遺跡探索で見つけたものだから、正真正銘の伝説武器よ」

「そんなすごいの、ソーニャがもらっていいの?」

「もちろん。私では手に余るけれど、貴女ならきっと使いこなせるわ。槍を壊したお詫びも兼ねて、受け取ってくれるかしら?」

「わあ、ありがとう!」



 ソーニャは礼を言い、アルマと握手を交わした。



「ふにゃーん、ぴきーん、ふにゃーん、ぴきーん!」



 すぐさまドラゴンテイルで手遊びをはじめた姿に、アルマは感心したように目を見開く。



「ほんとう、吸収力が段違いだわ……すごい」



 興味深く観察している背中に、カサネは思い切って声をかけてみた。



「アルマさん」

「うん? 何かしら、勇者さん」

「カサネで良い。頼みがあるんだが、俺たちの仲間になってくれないか?」

「勿体ないお誘いだけれど……ごめんなさい。私が大会に出たのは、経験を積んで次のダンジョン探索に繋げるためだったの。だから勇者パーティに入るつもりはなかったのよ」



 どこか想像していた答えだったが、実際に言われてみると、クるものがある。

 ましてアルマのように艶やかな華の雰囲気を香らせる美女から断られると、まるで告白を断られたようなショックもあった。



「そんな顔しないで。色男が台無し」



 俯いた額を指先に起こされる。



「もし、どこかで出会うことがあれば、その時はご一緒させてもらうわ。ソーニャちゃんと共闘する、ってのも楽しそうだし」



 じゃあね、と身を翻す背中に、ソーニャが「またねー!」と手を振った。



「あらら。フラれちゃったねえ、カサネ?」

「うるへー」



 エステルの冷やかしに、カサネは唇を尖らせた。

 だいたいお前らが全力で勝ちに行ったんだろうが。こちとら氷魔法とか初耳なんだぞ。











 かくして数時間後、氷魔法と伝説武器『ドラゴンテイル』を得たカサネ一行は、船の上にいた。



「ひゃー、ざぶーん!」

「落ちるなよー」

「はーい!」



 縁によじのぼって飛び跳ねているソーニャに声をかけて、舳先で夜風を受けていたエステルの下へ向かう。



「髪、痛むぞ」

「もう。せっかくの貴重な経験なんだから、水を差さないでよ」



 くすくすと喉を鳴らして、彼女は風に目を細めた。



「そういえばさ」

「ん?」

「ソーニャを探しに行った時、カサネ、凄い魔法を使っていたじゃない。私だってアレ、知らなかったんだけど?」

「あー……修行したんだよ」

「え、どんなどんな?」

「内緒」

「えー、聞きたい!」



 追いかけてくる上目遣いから、カサネはじゃれ合うように逃げ回った。

 何百と命を落とし、何十と魔王に挑み、今もなお続く修行。それを話すには、少しばかり勇気が要るから。



「いつか、話すよ。その時が来たら聞いてくれないか」

「ん、そっか」



 楽しみにしてる、とエステルがはにかむ。

 そんな穏やかな星の夜の航海。それは唐突に終わりを迎えることとなる。



「何か来るぞ! 総員退避、退避ぃー!」



 プロフォンド商会の船員が血相を変えて叫ぶ。



「(――来たか!)」



 カサネは船の前方に目をやった。予測可能、回避不能の負けイベントである。

 にわかに大きく海が噴き上がったかと思うと、その根元から無数の触手が蠢き出でる。やがて噴出した潮が引き、月の光を受けて鈍くてらつく紅白の巨大魔物が姿を現した。



『ゲゾオオオオ!!』

「クラーケンだ!!」



 誰かが叫んだ。

 半身が烏賊、半身が蛸の怪物が腕を払うだけで、マストが折れ、船体が削り取られる。



「ちょいやー!」



 そのうち一本の触手を、ソーニャがドラゴンテイルで打ち返した。



「待てソーニャ、無駄――」



 カサネはそこで言い淀んだ。無駄なのか? 本当に?

 世の中には、序盤の町で延々とレベリングを繰り返し、負けイベントに勝利するという企画の動画もある。

 俺の『再走』を積んだTAS、エステルの氷魔法、ソーニャのドラゴンテイル。これまでとは異なるピースが揃っている。


 ……行ってみるか!



「――超動せよ、【Terminate(ターミネイト・)-|Accelerationアクセラレーション・-System(システム)】!」



 しかし、



『イカアアア! タコゴルァアアア!』



 真上から叩きつけられたクラーケンの攻撃によって甲板(あしば)が大破し、カサネたちは海の中へと真っ逆さまに落ちてしまった。



「(チクショウ、即死技打たれて終わるタイプの負けイベントだったか……)」



 エステルとソーニャ、そして船員たちの悲鳴が飛び交う中、カサネは最早慣れた感覚で渦に呑み込まれるのだった。

※   ※   ※   ※   ※

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