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第20話 剣術大会(前)――竜化禁止

 剣術大会の準備のため、コート清掃をしている商会の人たちを横目に、カサネは観覧席に向かっていた。

 今や『勇者』よりも注目を集めている、群衆の視線の向こうへと近づいていく。



「エステルお疲れ様。すごかっ……たな……」



 異常な光景に、思わず語尾がしぼんでいく。

 魔術大会の優勝者様は、会場で売り子をしていた弁当屋のおっさんを一人捕まえて傍に置き、がっつがっつと弁当をかっ食らっていた。



「あ、おかえりー」

「ただいま……めっちゃ食うじゃん」



 傍らには、既に五つほど空の容器が積まれている。海の幸をふんだんに使用したボリュームたっぷりの弁当は、一人分でも男のカサネが躊躇するくらいの量であるのにだ。



「だって、お腹に魔道具がいるから、氷魔法を使うとお腹減るんだもん」

「そんな、妊婦じゃねえんだから……」

「あ、想像した? 未来見えた? 安心してね。体の内側に埋め込んであるだけだから、子供が出来ても悪影響はないんだって」

「ああ、そう……」



 そういうことを訊いているんじゃないのだが。



「ソーニャも! ソーニャも食べる!」

「じゃあおじさん、そっちの海鮮竜田揚げ弁当を二つくださいな」

「くださいな!」

「はいよ! お姉ちゃんたちべっぴんだから、お代は一つ分で構わねえや!」



 二人の美少女におねだりされたことが嬉しいのか、売り子のおじさんはでれでれしながら番重から弁当を二つ取り出した。



「俺の分はねえのかいお姉ちゃんや」

「わーいいただきまーす!」

「聞いちゃいねえ……」



 カサネの嘆きをよそに、ソーニャがいそいそと箸を割り、何の魚か判らないが美味そうなことだけは十分伝わるほっかほかの竜田揚げに噛り付こ――うとした時、会場のスタッフから伝達があった。



「間もなく剣術大会を開始します。選手の方はコートにお集まりください! 間もなく……」

「(がーん)」



 悲愴に揺れる瞳がカサネに縋って来た。そういう時だけは俺が眼中に入るのなお前。



「その一口くらい齧っちゃえよ。それは俺が食うから」

「(ぬーん)もくもく」



 てめえふざけんじゃねえよという目がカサネを睨んできた。ちゃっかり一口は食ってるのなお前。



「安心しろって。ちゃんと後で新しい、ほっかほかのやつ買おうな?」

「ほんと!? ぜったいだからね! やくそくだよ!」

「はいはい。そういうわけで、おっちゃん、良いかな?」

「あいよ! 一度店に戻って、用意してくるよ」



 おじさんの了承を得たソーニャは目を輝かせてぴょんと立ち上がると、一度慌てて座り直し、手を合わせてごちそうさまでしたを言ってから、また立ち上がった。

 手を打ち合わせて、槍を召喚する。ウーノ村の木材に、キラーベアーの爪を加工して取り付けた即席武器(オーダーメイド)だ。



「行ってきまーす!」



 観覧席から飛び降りていく背中を見送り、カサネも弁当を拾い上げて実況席に戻る。齧った断面と、醤油・にんにくの香ばしい匂い……マグロかなにかだろうか。



「うっま……」



 一つ口に放り込めば、じゅわっと旨味のある脂が口に溢れた。

 既に食事を終えたらしいシンは、空の弁当箱を端によけて立ち上がった



「さーて、これより剣術大会の予選第一ブロックを行います! なんとこちらにも、既に勇者と旅をしている者がいるぞ!! その名も、ソーニャ選手! 竜人の少女だあああ!!」

「はーい!」



 名前を呼ばれ、ソーニャがぶんぶんと手を振る。



「確認なのですがカサネ様、ソーニャ選手の竜化契約はどなたが……?」

「俺がしているよ」

「自立竜化のできる年齢では……?」

「ないな」

「それは重畳。問題ナシですね!」



 シンは頷くと、手元のメモを拾い上げた。



「剣術部門では、得物(ぶき)を用いての攻撃のみが許可されます。『剣技スキル』は可、『魔法スキル』や竜化、発破や毒等の道具使用は禁止です!」

「はーい!」



 またもぶんぶんと手を振るソーニャに、「元気なお返事ですね」とシンや観客席から温かい微笑みが漏れた。

 そんな、どこか不安の残る空気のまま、審判がやってくる。



「それでは、剣術部門予選第一ブロック、試合、開始ィィィ――――――ッッ!!」



 刹那。穏やかな空気は殺気で八つ裂きにされた。


 竜の(まなこ)をカッと見開いて斬り込んだ一番槍が()()の選手を喰らう。



「――っ!?」



 手ごたえが足りないことに気付いたソーニャは、すぐさま振り返りざまの二の太刀を薙いだ。


 ギンッ!


 槍の穂先は、黒髪の女性選手が逆手に構えられたダガーと一合し、火花を散らした。



「さすが竜人。腕が痺れちゃうくらいに惚れ惚れする膂力――ね!」



 妖艶な流し目から、ダガーの主がダガーを投擲する。



「よわっ、とと……ありゃっ!?」



 ソーニャは飛び退いて躱したが、いつの間に足に巻き疲れていた鎖分銅によって重心を奪われてしまう。



「ふんぬっ!」



 槍の柄を床に叩きつけ、棒高跳びのように反動で跳躍。右手のダガーは投げられた、左手の鎖分銅も使用済み。がら空きの敵の懐へと潜り込む。

 しかし、その眼前には細剣のような先端が向けられていて――



「わわっ!?」



 慌てて体を捻ることで串刺しは回避することができたが、ソーニャはきりもみしながら床に突っ込むこととなった。



「凄まじい攻防だー! 竜人の一撃を受け止めただけでなく、その身を地に伏せさせたのは、アルマ・アルコバレーノ選手! ぼんきゅっぼん! ミステリアスな紫の瞳からの流し目は反則級のセクシーだ!」

「実況するとこそこでいいんすかね……」



 カサネは苦言を呈した。内心では同意するが。


 アルマと呼ばれた女性選手は、シンの賛辞もどこ吹く風だった。慣れた様子の微笑み一つで受け流すと、右手の籠手に仕込んでいたらしいレイピアを再び出し、ソーニャに飛びかかった。


 鎖を引かれ、体の自由を奪われた上での強襲。

 対するソーニャは小柄な体をぐるんと回すように跳ねた。引っ張られる力を受け入れながら、遠心力を加えて槍を振り抜く。

 レイピアの針が根元から折れ、くるくると宙を舞う。



「折ったもんね!」

「ふふっ、別にいいわよ?」



 アルマはくすくすと笑うと、()()振り上げた。



「ええっ!?」

「お・か・え・し」



 目にも止まらぬ一閃が槍を叩き切った。それも、穂先のちょうど根元部分をである。

 棍棒と化した柄だけでソーニャが反撃するが、どこから出したのか、またも現れた左手のダガーに受け止められて、半ば折れるように切断された。



「アルマ選手、ソーニャ選手の槍を解体したぁ!?」

「狙う場所が的確過ぎる。武器を熟知しているな……」

「そもそもどこから武器を出したんだアルマ選手! おっぱいか、そのおっぱいの間か!?」



 オトナな美人を前に、セクハラ魔人と化したシンの実況が迫る。しかし、それに対するアルマの回答は意外なものだった。



「あら、よく見ていたわね。正解よ」

「……え、マジですか?」

「ええ。最後のダガーは胸から出したもの」



 会場中の――主に男性陣からのどよめくような歓声が巻き起こる中で、アルマはコートの裾をつまみ、ソーニャに向かって慇懃に一礼した。



「あたしの武器は暗器……体に幾つもの得物を持っているの。生まれながらの素質に縛られる魔法とは違う、努力によって無限に拡がる『(なな)つ武器』の妙技。お嬢ちゃんに見切れるかしら?」

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