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第19話 魔術大会(後)――氷の覚悟

 魔術部門・第二ブロックの試合は、ものの数秒程度で片付いた。

 勝利したのは、カサネが目を留めた男の魔法使いである。

 彼は、試合開始の合図を聞くが早いか、右目を中二病のように手で覆うと、魔法陣を横に並べて展開した。そこから放たれた水の魔力の奔流は、未だ媒体の召喚すら間に合っていない他の魔法使いたちをまとめて押し流してしまったのだった。



「き、決まったァ――!? ブルボ・オキュラーレ選手、わずか二秒で勝負を決めてしまった! 勇者カサネ様、これをどう見ますか!」

「相手の魔道具が召喚される前に勝負を決めることは、戦法としてアリだろう。ただ……あの選手の魔道具は一体なんなんだ?」



 カサネは目を凝らした。エステルのように指輪やイヤリング、ブローチといった、アクセサリー類を象ったものを魔力放出の媒体とする魔法使いは、特に女性に多く見られる。

 ただそれでも彼ら彼女らは、『はじめに魔道具を召喚してから戦闘を開始する』というプロセスを踏む。何故なら常に魔道具を身に着けていることは、すなわち剣士が抜き身の剣を片手に町を闊歩していることに等しいからである。

 だから先の第一ブロックにおいても、エステルは試合が開始してから指輪を嵌めていた。



「ボクの魔道具は、闇の魔眼ですよ」



 ブルボは、その右目にかかる長い髪をかき上げて、澄ましたように笑う。



「闇……?」



 水じゃねえのか。カサネは思わずツッコミたくなるのをぐっと堪える。

 しかし、実況席の片割れには、そんな配慮をするつもりはなかったらしい。



「カッコつけてはいるが、闇属性の魔法は魔の血族しか扱わないシロモノ! キアロマーレ生まれキアロマーレ育ち、漁してそうな奴はだいたい友達のブルボ選手にそんなものはな~い!」



 シンの煽りに、ブルボが悲しそうな顔で抗議をするが、会場全体――キアロマーレの住人たちだろう――から黙々と頷かれたことで、翳した拳は引っ込めるしかなくなってしまった。



「(あー、かわいそうに……)」



 悪い奴ではないんだろうな、あいつ。

 周囲の空気にいたたまれなくなったブルボは、矛先を余所者の(なにもしらない)エステルへと向けて、叫ぶ。



「聞いて慄け! ボクの闇……魔道具は、この義眼なんだ。君がちんたらしているうちにボクが詠唱を終える。この勝負は貰った!」



 対するエステルも、負けじと顎を上げて挑発した。



「嫌いじゃないアイデアだけど、本当にそれでいいの? 私たち魔法使いが平時に魔道具を仕舞っているのは、もちろん魔力温存の意味もあるけれど……こちらの詠唱(ことば)一つで罪なき人を傷つけることはしませんよ、という礼儀でもあるのに」

「フン、その程度、このボクが配慮していないと思うかい? ボクが手を翳さなければ闇の魔眼は起動しないのさ」



 そう言いながら、ブルボは顔の前で手を往ったり来たりさせた。言葉通り、彼の掌が右目の前に重なった時だけ、その義眼の虹彩部分が魔法陣を描いて光っている。



「ボクの水魔法は、煉獄の劫火さえ掻き消して見せるよ」

「でも、お天道様には敵わない」



 互いに視線を合わせることなく言葉のドッジボールを躱しながら、コートの中央へ向かった。

 会場中が固唾を飲んで見守る中、審判が位置に着く。



「魔術部門決勝戦――試合、開始ィィィ――――――ッッ!!」


「【清流瀑布砲ウォーターフォール・ブラスト】」



 ブルボが手を掲げると、彼を中心に五つの魔法陣が現れ、その砲口をエステルに向けた。



「『勇者の腕』に相応しいのはボクだ! ――射出()ぇ!!」



 五条の滝が放たれた。世界最大の滝をそのまま切り取ってきたような水の壁が、エステル目がけてひっくり返される。

 魔眼だなんだとふざけている様でいて、その実力は本物である。



「『勇者の腕』、ね……」



 呟いて、エステルはルビーの指輪を()()の中指に嵌めた。

 そこから、カサネは耳と目を疑うことになる。



「【氷結界(アイス・ヴェール)】!!」



 刹那、彼女の魔道具は、その色をサファイアの青に変え、彼女の()()()()魔力を吸い上げた。

 放たれた氷の銀幕が滝を堰き止め、その触れたところから氷柱に変えていく。



「――誰が、相応しいですって?」



 服の上からでも判るほどに、丹田に魔法陣を光らせながら、氷の魔女が小首を傾げて微笑んだ。



「な、ななな……さぶっ。何が起きているんだァー!?」



 体感温度が急転直下する中、シンが肩を擦りながらも仕事を全うするべく立ち上がる。



「氷魔法、氷魔法だ! エステル選手は炎魔法の使い手ではなかったのか!? カサネ様、これは一体!?」

「い、いや……俺も知らない、んだけど?」



 これまでの幾十周、彼女が炎以外の魔法を披露したことなど一度たりとてない。それはゲームの中でも同じである。


 カサネの疑問に答えるように、エステルは服の裾をへそまでたくし上げて見せる。

 露わになった下腹部には、薄氷の水色に煌めく、氷魔法の紋章が刻まれていた。



「君はまさか……体そのものに魔道具を埋め込んだのか!?」



 ブルボが怯えたように後ずさる。



「ご名答。もっとも、本職の氷使いに比べて、魔力消費が割に合わないんだけどね」

「そりゃあそうだ。痛みと労力に対価がまるで見合っていない! それに、仮に魔道具と適合できたところで、並みの修練では初級魔法すら扱いきれないんだぞ! 何十年も前に無為と断じられているものを、何故!?」

「……何故?」



 氷の魔女は指輪を右手に嵌め直しながら、どうしてそんなことを問われるのか理解が出来ないといった風に肩を竦める。



「そんなの、()()()()()()()()()()()に決まっているでしょう。『勇者の腕』? そんな、役割として就任するような肩書に興味はないわ。私にあって貴方にないもの……それは、彼と共に生き抜くことを誓う、覚悟よ!」



 瞳の奥に焔を燃え盛らせた魔女は、手を振り払う。



「そのためならどんな苦痛でも厭わないわ。血反吐を吐くのだって大歓迎! この胸の炎は、誰にだって消させはしないんだから! ――【火炎弾(フレイム)】!」



 氷のように純粋な、それでいて炎のように滾る叫びは、氷柱と化した水魔法を粉微塵に爆ぜ砕き、ダイヤモンドダストを起こす。

 きらきらと舞い踊る結晶たちは、魔術部門の優勝者が決定したことを祝福する、天からの恵みのようで。


 それを実力で掴み寄せたエステルから、カサネはしばらく目を離せずにいた。

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