第17話 開会式
件の武道館は、街外れにある埠頭にあった。灯台からほど近いところに建てられたそれは、長い間潮風に耐えて来たのだろう、歴史ある趣を感じさせる。
「けっこう集まっているんだな」
既に館内に集まっていた選手たちを眺めながら、カサネが呟いた時だった。
「あなたが勇者様ですね、勇者様でしょう!? こちらの実況席へどうぞ!!」
唐突に現れた、ついさっきも見た気がする顔の少女から、有無を言わせぬ勢いで腕を引っ張られる。
「おまっ、さっきの!」
「え~、何のことですかあ?」
「だいたいどうして俺が勇者だって知って――」
抵抗しながら喚くと、号外新聞配達少女はさっと耳元に口を寄せる。
「うちの商会でフィルマセント見せといてよう言いますわ」
「(そういうことか……っ!?)」
カサネは眉間を指で揉んだ。ディニス王め、あんたのせいで要らんイベントが増えてるぞこのやろう。
彼女の言う『うちの商会』とは、先ほどカサネが取引した老店主のいるところだろう。
老店主の正体は、金を出せば船を出してくれる豪商だ。本来なら町で情報を集め、取引を行い、夜に港へ行くことではじめて、あの老店主こそがその豪商であることが判明するのだが。
それにしてもいつの間に大会まで手配したのか。だからこその豪商なのだろうが、その手腕には恐れ入る。
カサネは抵抗を止め、大人しく案内された席に座った。どうせ夕方までチャートは進ませられないのだ。スキップ不可のムービーを見る気持ちで観戦と洒落込もうじゃないか。
高座になっている実況席から眼窩を見渡すと、ちょうどそれぞれの部門の集合地点に移動しようとしているエステルたちと目が合った。彼女らはこちらに手を振り、握り拳を突き出すと、案内係の下へと別れていく。
新聞少女がバッと立ち上がり、両手を拡げて大声を上げた。
「お集まりの皆さま、大変お待たせいたしました! 本日の司会進行を務めます、プロフォンド商会のシン・ブンです!!」
「(こいつマジで新聞って名前なのかよ!?)」
思わず椅子から転げ落ちそうになった。さらに、あの老店主の率いる商会がプロフォンドという名前であることも初めて知った。元の世界に戻ったらワザ〇プに書き込むか。
「そしてこちらの実況席に御座しますのは、我らが勇者! カサネ・ツイキ様!」
「ええと、どうも……」
シンに紹介され、頭を下げると、どこかで爆発でもしたかと思うような歓声が巻き起こった。
武道館を揺るがすカサネコールに、カサネは固唾を飲む。
「(なんか、変な感じだ……)」
冒険の中では、わざわざ自分が勇者だと喧伝して回るわけでもない。町に入っても人知れず振る舞い、人のいない危険なダンジョンに踏み込み、人が逃げ去った後でボスと立ち回るだけである。
そんな自分が、勇者として認識されている。悪い気はしないが。
「(……少し、怖いな)」
これが責任というものなのかもしれないと思うと、握る拳に力が入る。
シンが「それでは本大会の流れを説明いたします!」と言うと、コールはすっと鳴りを潜めた。そして選手たちの顔が精悍に引き締まる。
本気だ。物見遊山で観戦することなど失礼であると、カサネは悟った。
「ちょうど参加者は両部門とも十人ということで、予選は五人ずつに分けた集団戦をしていただきます。そこで勝ち残った者同士が、決勝戦で一騎打ちとなります。
まずは魔術部門から! 皆さん、健闘を祈ります!」
シンが拳を突き上げると、会場が再び大きく揺れた。
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