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第16話 優勝賞品『勇者の腕』

 ぶつ切りにした身をあっさりとした塩だけでじっくり焼き上げたコチの串焼きは、噛むとふわっと歯が沈み、それでいて弾力があり、絶品であった。


「んー! プリップリのコリッコリ!」

「おいひー!」



 新鮮な魚の美味しさに、エステルとソーニャが踵を踏み鳴らして喜んでいる。



「へえ、こんな薄い塩加減でも十分なくらい美味いんだな」



 それはカサネも同じだった。あっという間に最後の一切れとなってしまった串を名残惜しそうに眺める。

 白身魚の料理なんて、母親が作ってくれた煮つけか、ファーストフードでのフライしか記憶にない。どちらも醤油やタルタルソースでしっかり味付がされているから、そうでもしないと味気がないものとばかり思い込んでいた。

 最後の一口に舌鼓を打ちながら、カサネは心の中で詫びる。



「(父さん、ごめん)」



 回転寿司でえんがわばかり頼むあなたを、これまでバカだと思っていました。元の世界に戻った折には、ぜひとも寿司をご馳走させてください。

 思わず湧いた望郷の念に涙腺が緩みそうになるのを、空いた串とともにゴミ箱へ投げ入れる。


 空を見上げれば、まだ真っ昼間。



「さて、夜まで時間もあるし、このまま食べ歩きでもしようか?」



 お釣りの銀貨によってたっぷり膨らんだ袋を掲げると、女性陣が色めき立った。



「やたっ、食べるー!」

「私、入り口の方にあった、魚のから揚げが食べてみたい……!」

「お、それ俺も気になってた。めっちゃいい匂いしてたよな!」



 そうと決まれば善は急げとばかりに、カサネたちが歩き出そうとしたところで、人混みを縫うように風が吹いた。



「号外っ! 号外号外ぃー! 号外だよー!」



 元気な声が走り抜けていったドップラー効果の余韻に乗り、風に巻かれた紙がひらひらと落ちてくる。

 それを両手でぱしん! とソーニャがキャッチして、覗き込む。



「ゆ、ゆーしゃ……きた、きて、くる、くる、ぱー?」

勇者(だれ)の頭がくるくるぱーだって?」



 読めない文字にうんうんと唸りながらも決してこちらに回さない彼女に苦笑しながら、カサネはその肩越しに紙を覗き込む。

 ええと、何々……



――勇者来航! 己が力を彼に示せ!!


「…………は?」



 いったん視線を外して、また戻す。しかし字面は変わらなかった。



「なぁにこれー」

「勇者って、カサネのことよね……?」

「だと思う、んだけど……」



 号外新聞によれば、王都を出立した勇者がこの港町に来ているらしい情報を受けた漁業組合が、急遽大会を催すことにしたらしい。



「『魔術大会・剣術大会の二部門にて開催いたします。腕に自身のある方はぜひ奮ってご参加を』……?」

「『優勝賞品は金一封。さらに勇者様に認めてもらえれば、彼の「右腕」「左腕」として歴史に名を刻むチャンスも!』……?」


「「って、えええええっ!?」」



 カサネとエステルは驚愕に仰け反った。



「いやいやいやいや、俺なんにも聞いてないんだけど!」



 というかこんなイベント知らねえし。次の仲間と合うのだってここじゃねえし!

 カサネは頭を抱えた。港町でのイベントが順調に進んだかと思えばこれかよ。



「場所は町外れの武道館。午の刻にて受付、羊の刻を以て開始……すぐじゃない!」

「『勇者様、どうか来てください』だって!」



 ソーニャが教えてくれた、新聞の右下に小さく書かれた詐欺のようなやり口の文言に、カサネの頭はさらに重く垂れていく。



「これ多分サブイベントだろ……? ぶっちしちゃ駄目かなあ……」



 でも日が沈むまでの半日、やることがないのも事実。

 せめて観戦だけでもしとくかなあ。……ん、待てよ?

 うんうんと垂れ流しにする中で、カサネはふと気が付いた。



「大会の優勝者を本当に引き込んでしまえばいいんじゃないか……?」



 そうだ。何も不測のイベントというのはデメリットばかりじゃないんだ。

 カサネは拳をぎゅっと握り締め、天に突き上げるようにして立ち上がる。



「やったな二人とも、仲間が増えるぞ!」

「「それは駄目!」」

「……へっ?」



 二人に詰め寄られ、カサネはたじたじと縮こまる。



「どこの馬の骨かもわからない人に、カサネの『右腕』なんて名乗らせるわけないじゃない」

「『左腕』なんてないじゃなーい!」



 前者はともかく、後者は意味を解ってないだろうというツッコミを入れたくなるが、二人からの圧が許してくれない。一応言っておくけどさ、あるよ、左腕。



「私が魔術部門で――」

「じゃあソーニャが剣術部門で――」

「「勝てばいいんでしょ!?」」

「あっれぇー……」



 どうしてこうなった。というか今『じゃあ』って言ったろ。聞こえたぞ。


「カサネの腕は渡さないんだから!」

「だから!」

「あっれえー?」



 混乱に陥って固まってしまった体を再びソーニャに担ぎ上げられながら、カサネは目を瞬かせるのだった。

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