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第11話 食べる奴隷

 少女を抱え上げたカサネは、村一番の看板娘(47)が大人気の店へと足を運んだ。

 昼は食堂、夜は酒場へと切り替えて経営を続ける、飯の美味い店である。


 さすがにやつれた少女を抱えていたものだから、入店の際には怪訝な顔をされるが、他の客の中に奴隷商とのことを証言してくれた者がいて、免れることができる。

 角の宴会用テーブルに通され、暫く待つと、看板娘とその娘さんの二人がかりで次から次へと大量の料理を運び込んできた。



「はい、お待ち! 何があったか聞かないけれど、たーんと召し上がれ!」



 野菜炒めを始め、肉、魚、と目移りしそうだ。炒飯もシンプルなものから、卵たっぷりのもの、青菜を混ぜたものまで、よくまあこの短時間で作り上げたものだ。

 ちらりと厨房の方を見ると、旦那と息子さんがぐっと親指を立ててくる。



「ありがとう、おば――お姉さん。今日も綺麗だねえ!」



 他の客の真似をして声をかけると、看板娘(47)は「いつもだよ!」と叫んで返してくれる。にわかに他の客席から「ちげえよロッソさん、今のはローザちゃんに言ったんだろ!」と声が上がり、またも「なんだって!?あんたの今日のお代は倍にするからね!」「えー、そりゃないぜー!」と応酬が続き、店内は大笑いで包まれた。

 それにつられて肩を震わせながら、カサネは、エステルと挟むように座らせた少女に声をかける。



「ほら、食べていいぞ」

「…………」



 声をかけても、少女の視線はカサネと料理とエステルとを遅々とした足取りで反復横跳びするばかりで、一向に箸を取ろうとはしない。



「箸の使い方、わからない?」

「……(ふるふる)」



 エステルの問いかけに、少女は首を振った。

 それもそのはず。竜人族が普段、魔力消費のヒトとしての姿で生きる以上、それなりに教育を受けて育つものだ。

 そして何より、彼女が箸の持ち方を知っていることは、カサネもわかっている。



「いただきます」



 先んじて手を合わせ、炒飯の皿へと手を伸ばして一口食べる。

 やはりここの飯は美味い。塩気もちょうどよく、パラパラと焼かれた米は胃の中までするっと流れてしまうようだ。



「美っっっ味え!」



 大袈裟に快哉を叫ぶと、その意図に気付いたエステルも箸を取り、手を合わせてから野菜炒めを選んだ。



「んーふー!? ちょっと何これ、今まで食べた野菜炒めの中で一番美味しい!」

「そりゃあ、お前の作った野菜炒めは黒焦げだからな」

「……かっちーん。言ったわねえ?」

「そりゃ言うわ。言っとくけど、今後は火炎弾(フレイム)を調理に使うの禁止だからな」



 じゃあ火炎柱(フレイム・ピラー)で、いや変わらねえだろ。そんな風にぎゃーぎゃーとやりながら、次々に料理をつまんでいく。



「ほらこれ、すっごく美味しいの! すんごいの!」



 語彙を崩壊させながら、エステルが煮込まれたふわふわの肉を一つ掴み上げ、少女の前へと持っていく。

 いいの、とこちらにお伺いを立ててくる視線に、カサネは微笑んで、頷いて返す。

 小さな口をおずおずと開き、肉に噛り付いて、一秒。少女の瞳に星が流れた。



「~~~~!?」

「ね? ね? 美味しいでしょ、とろっとろでしょ!?」

「(こく、こくこくこく!)」



 はちきれんばかりに首を振る。

 一度体に食料を供給したことで、少女のお腹が色めき立ち、もっとよこせと鳴り出した。



「早く食わねえと、俺が全部食っちまうぞぉー?」



 わざとらしく煽ってやると、未来を想像したらしい少女は愕然とした顔を浮かべ、ぶんぶんと首を振ってから、ようやく箸を取ってくれた。


 ぱくぱくと頬張っては、その都度瞳を輝かせて「これ、美味しい!」と報告をしてくれる姿は可愛らしく、いつしかカサネとエステルは手を止め、彼女の食との邂逅を温かく見守るのだった。

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