エピローグ 魔王討伐
カサネは飛び上がり、禍々しいデーモンの大男――魔王マリーツィア目がけて剣を振り下ろした。
「トドメだ、【多元斬】!!」
上から下から、右から左から。次元の狭間から何人もの『カサネ』が現れ、カサネと共に斬撃を放つ。
「が、はっ……」
耐えきれずにマリーツィアは膝を突き、そのまま前のめりに崩れ落ちた。
「見事だ勇者よ……良い、一撃であった」
人間の力を讃える魔王の言葉に、カサネは剣を鞘に納めながら答える。
「ったりめえだ。何十周分もの重みが乗ってるんだからよ!」
魔王を打ち倒した刹那、視界が仄明るい光に覆い尽くされたかと思うと、次の瞬間には、カサネは空に浮かぶ神殿のような空間にいた。
まったく相変わらず、仲間と勝利を喜び合う時間も、別れを惜しむ時間もない。慈悲なき『タイマーストップ』である。
この空間で唯一の建造物である祭壇の前に、長い銀髪の男が立っている。
カサネは自信たっぷりに歩幅を大きくしながら、男へと歩み寄った。。
「今度こそどうだ神様ヤロー! 元の世界に帰してもらうぞ!」
勝ち誇るが、しかし、男は静かに首を横に振った。
「いいや、残念ながら一日超過している」
「ちっ……また『再走』かよ」
肩を落とすと、神が苦笑してきやがったので、睨み返す。
いつも思うが、この男はまるで神とは思えないほどに引き締まった体つきをしている。カサネが『少年向けファンタジーの登場人物』なら、神は『青年向けファンタジーの登場人物』というべきか。
女子ウケしそうな優男顔と細マッチョ具合が憎々しい。もげろ。
「見てろ。次で本当に終わらせてやるからよ」
「ほう、すごい自信だな。初めの頃は、実物の魔物を前にして、童のように喚いていた其方が」
「うるせえ慣れたわ。んでもって、慣れた超えていい加減飽きたんだよ。同じ敵、同じチャート、同じ攻略……! 趣味で走りたくて記録突き詰めるならまだしも、無理矢理走らされてるんだからな」
何が100日で魔王を倒せだよ。吐き捨てると、腐れ神ヤローはくつくつと喉を鳴らした。
「ならばゆっくり走ればよかろうよ。『チャート』の模索のために、そうした回もあっただろう」
「今更ンなことできるか。俺は帰るんだ」
「何故、そんなに帰りたいのだ」
「『一周目』の前に言った通りだよ。俺は『フィルマメント・サーガ』の記録を更新したんだ。早く生き返って、配信のアーカイブをアップしねえと正式に認められないんだよ。一応自動アップロードにはしているが、そのまま動画を上げたんじゃあ、俺の死体が映ってるせいでBANされかねねえ」
本当に向こうの時間は止まっているんだろうな?と訊ねると、神ヤローはキザったらしく「安心したまえ」などとほざいた。
「そろそろ王の間へ送ろう。健闘を祈る」
「チッ、祈るくらいなら101日に伸ばせ」
「それはできぬ相談だ」
「絶対そのスカした面を崩してやる。覚えてやがれ100日後! いいや、99日後にな!」
再び視界を埋めていく光の向こうへと、カサネは中指を立てた。
カサネがいなくなったところで、神はが独り言ちた。
「仕方ない。私の封印に関わることだから期限は譲れぬが……せめて、望み通り楽しい冒険にしてやろうではないか」
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