あの日の記憶 NO.1
試練の記憶
あの日、世界は突然変わった。
本当に突然のことであった。何の前触れもなく変わった。
世界中にモンスターが現れ、町が大混乱に陥ったのは想像に容易いだろう。
死者及び行方不明者、推定十億人越え
負傷者、計測不能
世界中の人々はこれを『パンドラ』と呼んだ。
日を追うごとに増えていく被害、モンスターに対する恐怖。
人々は歴史の転換点にいると思うようになった。さながら恐竜が突如として絶滅したあの時のように。
そんな状況だったにもかかわらず私は一人、家でじっとしていた。ちなみに両親は仕事に行っていたが、この騒動のせいで帰ってこれなくなってしまったらしい。
無論、いくら、自分の身に起きたことに動揺していた私でも外での出来事は知っている。ネットにはモンスターに関する情報であふれかえっていたし、ベランダからはるか上空を飛んでいる空飛ぶ爬虫類も目撃したりした。
昼頃に気づいたが避難指示も出ていた。
だけど私は避難しなかった。
理由は私の見た目である。今こそ慣れによるものなのか角が生えていたりしても別段何も起きないが、あの日――モンスターに対する恐怖で埋め尽くされ、モンスターについてまだ何もわかっていないあの時にもし、角付きの人間が現れたらどうなるか。何も起こらないわけがない。実際に私と似たような人々の多くはあの日にモンスターではなく同胞の手によって殺されたそうだ。師匠がそう言ってた。
あの時の私が妙に冷静で本当によかった。でなければ今頃死んでいたかもしれない。前述したこともそうなのだが、私の避難先がモンスターにより壊滅的な被害がもたらされたのである。耐震性はあっても対モンスター性はないのだから(むしろあってたまるか)
そして、あれから二日間、私は生き延びていた。家にこもり、可能な限り息をひそめ続けた。というか、そうせざる負えなかった。外には大量のモンスター。倒壊音と一緒に聞こえた人々の叫び声もいつの間にか聞こえなくなっていた。
ちなみに、私以外の周りの住民はみんな死んでしまったことを知るのはもう少し後の話。
……改めて思うけど悲惨すぎる。
『剣と魔法のファンタジー』ってなんかもっとこう……困難がありつつも希望で溢れてるものじゃないの?
今のところどっちかというと『銃と悲愴のファンタジー』なんて言った方がまだしっくりくるよ。
ファンタジーよりかはホラーゲームの世界観だよ、これ。
いやね、モンスターの中にはかわいい奴もいるよ。スライムとかラビコーンとかさ。スライムとか人間が大好きで大きなゲル状の体の中に入れて窒息死させた後に酸でどろどろに溶かす……かわいくないな。
ラビコーンも人間が大好きで目が合うと走って来る。ちなみに勢いと角が鋭すぎるせいで抱きしめようとすると死ぬけどね。だから『陸地のダツ』なんて呼ばれてる。かわいくない……。
むしろ見た目が可愛いから余計にたちが悪い気がする。
現実は残酷だ。
さて、あの日の話に戻すと奇跡的に生き延び続けた私の悪運もとうとうついた。家が破壊されて瓦礫の下敷きになってしまった。抜け出せなかった。そしてモンスターに見つかった。
今でもあの時のことを思い出すと悪寒と吐き気がする。
モンスターは私を食べようとその巨大な口を開く。モンスターの生ぬるい息が吹きかかる。臭かった。うん、すっごい血生臭かった。一瞬、私から死の恐怖を忘れさせるくらいには。
モンスターは強制的に走馬灯から現実に私を引き戻させた。でも、それだけだった。
次に目を開けたときには吹き飛ばされたモンスターと木刀を持った師匠だった。ここで、さわやかな顔で「助けに来たよ」って言われたら乙女心に刺さっただろうけど師匠は良くも悪くも
「……」
今と変わらず狐のお面をつけながら無言で私を一瞥だけして、モンスターと相対した。
師匠は相手が察せることは基本話さない。だから多分この時も、『助けに来たのは分かるだろ?』みたいな感じで一言も発さなかったんだと思う。でも、被害者を安心させるような声かけは必要だと思う。特に師匠の見た目だと初見じゃ敵か味方か分からんからさ。
……いや、やっぱり不要だったかもしれない。
師匠は強かった。迫りくる巨大なモンスターたちを頼りなさげな木刀一本で返り討ちにした。ほとんど一方的にモンスターを屠る師匠の背中はとても頼もしかった。それで十分だと思う。
いつのまにかモンスターの叫び声が聞こえなくなっていた。師匠が『制圧完了』とか言ってたから多分ここら一帯のモンスターを全部倒したんだと思う。
……あの軍隊で討伐しないといけないようなモンスターたちをたった一人で。
その後、師匠はそっと私を救出してくれた。幸い大きなけがはなく軽い打撲と擦り傷だけだった。そして師匠は初めてしゃべった。
「……大丈夫か?」
仮面のせいで表情はよく分からなかったけどとてもやさしい声だったことは覚えている。それと、その言葉を聞いて私は号泣したのも覚えている。
「ウゥゥ……」
私は師匠に縋り付きながら泣いた。今思い返せば、いくら命の恩人とはいえ見知らぬ、まして男性に私は何てことしてるんだ……
恥ずかしさで死にそう。
まあ、不幸中の幸いか周りには倒壊した建物とモンスターの死骸だけ、まさしく死屍累々を体現したような場所で誰にも見られてないのが救いだった。
それと相手が師匠なのがまた救いだった。泣きじゃくる私に対し嫌なそぶりを全く見せず、誠意をもって受け止めてくれた。何か色々声掛けしてくれたらしいが私は覚えていない。
そして一緒に暮らすようになって、後に「忘れてやる」と言ってくれた。師匠は誰にもこのことを話さないと約束してくれた。ちなみにその出来事について話された(掘り起こされた)時の私は当然恥ずかしさのあまりに悶絶して死にたくなった。なんも言わずに墓まで持って行ってくれよと思ったのは内緒。師匠は良くも悪くも真面目なのである。
これが私のあの日の記憶。そして、師匠たちとの出会いであった。
Q.それじゃあ一話の師匠のスマホは何?
A.その辺の言及はもう少し後にあります。実際これ以外にも矛盾が結構あると思いますが、意図的な物が多いですので……ご安心ください?
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