5. Q.奥さんその肉どこで買ったんですか A.近所のダンジョンですよ
タイトル長い
ダンジョンを出ると空はすでにオレンジ色に染まっていた。
閑静な住宅街を夢と希望でいっぱいなビニール袋を両手に持って家へと向かう。
……なーんてかわいく言ってみたけど実際は夢(鶏肉)で希望(豚肉)である。どう考えても可愛らしい少女の鞄の中身じゃない。デート帰りの女子の荷物じゃない! 職質されたらどうしよ。
Q.奥さん、その肉どうしたんですか?
A.近所のダンジョンですよ
ウフフ……って笑い事じゃないな。どう考えても面倒ごとに繋がる。
「今日の夕飯はなににしようかなぁ~」
そんなことを考えている私に対し、神奈は鼻歌交じりに上機嫌に歩く。夕日に照らされた真っ赤な髪は照り輝いている。
そんな彼女の髪をぼんやり見つめながら歩いていると振り向いた彼女と目が合った。少女は嬉しそうに笑う。
「さっきの神奈、かわいかった」
彼女の背中に向かって私はいつの間にかそんなことを口にしていた。
「私はいつもかわいいでしょうが」
口ではそう言っているが目に見えて上機嫌になっている。両手に持つ牡丹(豚肉)はブランコのように動く。
なんてことのない日常の景色。あの日の前後で変わることのない。
あの日を乗り越え、人々はようやく気付かされた。こんな景色がとても貴重であることに。だから私は……
「試煉!」
神奈が私の名前を呼んでこちらを向く。目が合うと、彼女は破顔する。
「デートに付き合ってくれてありがと」
私はすぐには何も返さずに、立ち止まった彼女に追いつくと私は彼女の手を取り跪く。
「今日は私が最後までエスコートしてあげる」
彼女はまた嬉しそうに笑う。私もつられて笑ってしまう。
幸せなひと時でした。しかし、代償もありました。
神奈は小悪魔みたいな笑みを浮かべると私に両手を差し出す。
「それじゃあ、このお肉持って」
「ちょっと待ってよ神奈!」
「私をエスコートしてくれるんでしょ? デートは家に帰るまでがデートだからね。ほら、がんばれがんばれ」
先を行く神奈は身軽な動きで駆けていく。私を待つ気など毛頭もないようである。この鬼め!(お前が鬼だろ)
私は心の中で神奈の前で二度とあんなことはしないと何度目か分からないが誓った。
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私達の家は町からやや離れた山の麓にあった。日もすっかり落ち、街灯の光も当てにならない田舎道を歩き続けようやく家に到着した。
「「ただいま~」」
私達が勢い良く扉を開けると
「おかえり!」
我が家の癒し枠その1こと焔がばたばたと奥の方から走って来る。
「お土産は?」
そう尋ねる彼に私達はビニール袋を置く。焔はすぐさま袋の中を覗くと「お肉だ~!」とエメラルドの瞳を輝かせる。そんな無邪気な10歳の少年を見ているとなんだかほっこりした。
「運ぼうか?」
「いいの?重たいよ?」
私の心配をよそに焔は「よいしょ!」っと言って袋を四つまとめて持ち上げそのまま奥へと走って行った。いやー助かるよほんと。よくできた弟だ。
ただ、一つ気がかりなのは
あれ、全部で30㎏はくだらないんだけどなぁ……
「ダンジョンに行ってたのか……」
水無月は焔が持ってきたビニール袋を見てため息をつく。
「全く……これの種類の判別するこっちの身にもなってくれ」
もしかしたらきちんと分けてくれているのではないかという淡い希望を持ちながら袋の中を見る。手羽と豚足が同じ袋に入ってるのを見て彼はすぐに覚悟を決めた。
さて、私たち二人は家着に着替えた後にキッチンに向かうとテーブルの上には見事に部位ごとに分けられた肉の塊たち。さすがは師匠、何でもできる。
……何でもできすぎな気もするが
「今日は焼肉ね!」
「焼肉!?」
そんな私をよそに勝手に盛り上がる後輩たち。焔と神奈は手を取り合って鼻歌交じりによくわからないタップダンスを踊り始める。
「妹が迷惑をかけたな」
そんな二人を口元をほころばせながら見ていると後ろから師匠が声をかける。
「いいですよ。私も結局楽しみましたし」
別に神奈のことを気にしているわけではないと淀みなく答えると師匠はしばらく沈黙した後
「……何度も言うが、困ったことがあったら相談しろ。私はあの子だけを優遇したりはしたくない」
師匠はそれだけ言うと立ち上がってどこかへ行こうとした。
「どちらへ?」
「肉を焼くなら外の方がいいだろう?準備をしてくる」
「B・B・Q!?」
話を聞いていたのだろうか、焔は師匠のそばに駆け寄り、目を輝かせる。
「まあ、そうなるな」
「僕も手伝うよ!」
彼がその場でジャンプしながらアピールをすると師匠はそっと焔の頭の上に手を置き、「ありがとう」と言ってオレンジ色の髪ををわしゃわしゃとする。
無邪気な少年は嬉しそうに、どこか照れ臭そうに笑った。
私は一人っ子だったからかこういう兄弟や姉妹をうらやましく思ってた。
えっ?それじゃあ、彼らは何だって?
A.もともとはただの赤の他人です。
今はざっくりいえば仕事仲間……が一番しっくりくるかな。
私たちはモンスター討伐の仕事をしている。今日のカエルも依頼を受けて討伐しに行っていた。
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あの日の後、世界各地に現れるようになったモンスターは行政の力だけで駆除できるようなものではなかった。大都市も壊滅的な被害がもたらされている状況でぶっちゃけ小さな都市や優先度の低いものは後回しにされていた。実際、私の住んでいた町も都市から少し離れた場所にあったためか、行政の助けは来なかった。
そこで立ち上がったのが師匠のような超人的な能力を早くに開花させていた人たちである。
彼ら全員人並外れた能力を持っている。中には師匠のように一軍隊に匹敵する化け物もいる。
ちなみに師匠は戦闘状態のガウと戯れながら一方的にフルボッコにできます。この鬼め!(お前がoni……)
少し話がそれたが、それで私がモンスターに襲われそうになっていたところを師匠に助けてもらった。そして私は師匠に保護されている。
補足だが多分両親は生きている。ただし、私が関西に対し二人は関東なので直接会えない。東海道とか主要な道路の大半は崩壊、海にはいまだにモンスターがいっぱい。空にはもちろんトカゲ。……ということで各都市が物理的に孤立している。
ネットが通じるかは条件による。というかガス、電気がやばい。二次災害警戒で原子力はストップ。火力は輸入がストップ。ダムは崩壊多数。それ以前に電線があちこちで途切れている。なので連絡も取れなかった。
郵便? 動いてるわけねえだろ!
現代から現代文明をほぼ封印し、代わりにファンタジーに支配された世界。
チート? ハーレム? 無双?
そんなものは幻想だ。
実際は明日があるかもわからない世界。
……こんな世界なんてクソくらえだ。
「試煉! お肉持ってきてくれない?」
神奈が私を呼ぶ声で我に返る。見れば神奈と焔が野菜やら食器やらいろいろ持って立っていた。
私は慌てて机の上のビニール袋を持って二人に追いつく。
「悪い、考え事をしていた」
私は何も問題ないと笑って見せた。けれども、神奈は少し心配そうな顔をする。
「仕事が終わってから変だよ? 大丈夫?」
それから少し間をおいて「私でよければ相談に乗るよ」とウインクする。嬉しかった。だから……
「神奈に彼氏ができるかどうか心配してた」
嘘をついた。
「試煉ちゃんも彼氏いないでしょうが!」
神奈がほっぺを膨らませる。
「ところがどっこい、かつていたんですよ」
「ホワッ!?」
「さてさて、神奈ちゃんはいたんですか~?」
帰りの仕返しとばかりに小悪魔みたいな笑みを浮かべる。神奈はむすっとしながらそっぽを向いて
「心配して損した」
と先程よりも頬を膨らましながらすねた。その顔があまりにもフグみたいだったから私と焔はクスリと笑ってしまった。すると神奈はますます怒る。
……なんてことのない日常。ありきたりな日常。
こんなくだらない毎日がいつまでも続けばいいのに……
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初めまして碧カミライ(旧青イズナ)です!
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次々回予告
住居侵入及び器物損害及び殺人未遂