4. デート後半 (霜降りを求めて)
デートの行き先
遊園地<肉屋<<<<ダンジョン
「逃がさないよ」
「コクコク(無言でうなづく)」
今日の夕飯は霜降りステーキに決定した。
小さな広間にいるガウはこちらを向いたまま動かない。さすがに気づいてはいる。ガウはこの階層の中だと他のモンスターとは一線を画すほど旨い……じゃなくて強い。攻撃方法は突進のみだが、オーク以上の馬鹿力を持つくせに素早い。
何度も言うが受けようとするな。死ぬぞ。
「どうする?神奈」
「ガンガン行こうぜ!」
「却下」
神奈に聞いた私がばかだった。
「当たらなければどうということはない!」
「ふざけてないで作戦考えるよ」
ガウは基本的におとなしい。だけど……
作戦は決定した。私と神奈はガウのテリトリーに入らないぎりぎりまで近づく。ガウは私を睨んだまま動かない。あくまでテリトリー内に入るまでは様子を見るつもりらしい。
「それじゃあ、3,2,1,ゴーでいくよ」
「1で爆殺?ゴーで爆殺?」
「ゴーで爆殺」
……何言ってんだろ私。
「3,2,1……」
ぎりぎり白線を踏まないようにクラウチングスタートの構える。
「GO!」
私は右足に力を込めて全速力で距離を詰める。やってることは獲物を見つけた肉食動物と大体同じである。
ガウは目を大きく見開き雄たけびを上げようとしたが
「爆殺!」
神奈の魔法によって阻止される。ガウが動揺している間に距離を詰めて右ストレートを放つ。そして、
「連撃!」
未だに体勢を立て直せていないガウの横腹に先程の二倍の衝撃を加える。しかし、決定打にはならなかったらしく大きくのけぞった後、こちらを睨む。
不味い。
私はすぐさま畳みかけようとした。
しかし、ガウは目を真っ赤にし、眦を割けんばかりに見開くとすると咆哮する。その瞬間、真っ黒な体がほのかに赤くなり鼻息も荒くなる。
「連撃!!」
連撃は魔法に似た『なにか』らしく、連続で発動するとその分だけ追加される。つまり今回は最初の三倍になる。これで本来なら仕留めきれるはずだったのだが、
「ゴッ……」
まるで鉄でも叩いたかのような音を鳴らすだけでガウにはほとんどダメージが与えられてないようであった。それよりむしろ
「いっったぁ……」
私の右腕が反動で吹き飛びかけた。与える衝撃が増える分受ける衝撃も増える。今の私の限界は連続三回目までで、四回目をしようとするとほんとに右腕がとびかねない。右腕がとばなくても骨が折れる。人間離れした戦闘民族の鬼の力をもってしても三回が限界である。
あっ、私の角とかの原因は鬼の力です。説明は……今は無理!
そして、私の右腕を代償に支払う攻撃をものともしない体、これがガウの恐ろしさである。ダメージを受けると戦闘モードに移行する。あのおとなしかった牛肉が赤いの(血)が大好きな闘牛へと変貌する。
なので、できたら先手必勝で狂暴化する前に倒したかったが失敗してしまった。
さて、こうなった場合の主な対処法は三つ。
一つはガウが疲れるまで耐久する方法。基本であり、最も地獄な方法。なぜなら、
「ゴォォッ!」
ガウが頭を下げた瞬間私は右に跳ぶ。そしてすぐに、もともと私がいた場所を巨大な弾丸が通り過ぎていった。予備動作の瞬間に避けに徹してなんとか避けられる。こんなのを何分間もやれと言うそうだ。それならまだ先程のオークとタップダンスする方がましだ。
「グ……ッッダラァァ!」
ガウは摩擦によって焼けるような音を立てながら停止した後、再びこちらを向いて突進してくる。
二つ目はあの暴れん坊の気持ちを全力で受け止めてあげる方法。
私がすぐさま左に飛んで避ける。ガウは勢いを殺しきれずに部屋の壁に衝突する。小部屋を揺らし、丈夫な石壁に小さなクレーターができる。
うん、論外。
ちなみにガウはぴんぴんしてる。ありえねぇ。
それで三つ目がおそらく最も現実的なものでいったん戦闘状態を解除させる方法。ガウは対象を見失うと戦闘状態を解除する。……ただし、これも一筋縄じゃ行かない。
戦闘状態に移行したガウはテリトリー関係なしにそれこそ地獄の果てまで私らを追い回してくる。しかもトップスピードは私とほぼ同じ。ただし、ここが迷路なのと小回りが利く分、逃げきれないことはないがその後が地獄。迷宮から脱出できないdeath!(道順覚える余裕ないからね)
八方塞がり? いいや、私らにあって脳筋共にないものがあるではないか。
……
そう、脳みそである。
あいつらが進化の過程で断捨離したものの恐ろしさを見せつけてやる。
「ガラララァ!」
角を壁から引っこ抜き、いまだに激おこぷんぷん丸なガウ君の突進を避けた後、手ごろな瓦礫を入手。そしてガウが振り向くと同時にそれを目に向かって投げる。しかし、野球選手でもない私がそんな正確に投げられるわけもなく、顔面に当たって砕ける。
「さすがに無理か」
贅沢言わずにすぐに避ける準備をする。もちろん石礫なんかで怯むわけもなく馬鹿正直に突進を続ける。一見すると先程と何も変わっていないが、これを繰り返しながら私たちは着々と準備する。
そしてついにその時が来た。
もう何度目か分からない突進を避ける。ガウは急ブレーキを踏めず、顔面を壁とごっつんこさせる。
「グ……ッッダラァァぁぁ?」
いやーほんと
魔法って便利だ。
なんせ無から有を創り出せる。実に人間にぴったりだ。
人間は道具一個あればいろいろできるのだから。
私は鎖を握りながら眼下にいる私たちを見失っているガウを見る。
私達は今、天井にぶら下がっている。あらかじめ神奈の楔をうっておいたのである。ガウの突進に合わせれば音の心配もない。石礫はただの陽動。あわよくば目を瞑ったり当たればいいなぁってところである。
しばらく洗い鼻息を立てながら私達を探していたが、やがておとなしくなっていく。まさか天井に張り付いているとは思わないだろう。なんせここは建物内。空中からの奇襲なんて想定していないだろう。蜘蛛とかゴキ……あれ?悪寒が……
いや、やっぱこの話はやめよう。
ガウは敵がいなくなったと判断すると戦闘モードを解除する。おそらくあのモードは何かしらの制約があるから普段使いしないのだろう。
よし、それじゃあ決着をつけようじゃないか。
もしもし? 私試煉。今、あなたの真上にいるの。
「ファイト!」
「一発!」
私は天井から飛び降りながらガウの顔面に一撃を喰らわす。
「二発!」
大きく体勢を崩したガウにすかさず追い打ちをかける。
ここでまたもやガウが大きく仰け反り、僅かに距離が開いてしまう。再びガウは戦闘モードに移行しようとするが
「爆殺!」
今回はまだ一手残っている。
神奈の魔法により、ガウの移行は失敗する。それだけの隙があれば十分だ。
「三発!」
私の渾身の右ストレートがガウの顔面に直撃する。
「連……撃!」
ガウの体は壁にぴったりとついている。つまり力は逃げない。
連撃の二発分がガウの巨体を震わせ、ガウはどさっと倒れた。
「霜降り!霜降り」
神奈は上機嫌に歌いながらガウに死体を観察する。ガウもまた同じように黒い液体のようになる。
さて、部位はどこだろうか?
やっぱカルビ? いやロース、ハラミもいいか? いやいやタンもありだな。
そうしてドロップしたのは……
私の頭についてるのとそっくりな
角だった。
ガウの角はとても貴重で槍に使ったら無類の貫通能力を誇る。
本来はとてもうれしい一級品である。
だけど
だけど……
「……」
「……」
「私達の霜降り~~!!(泣)」
試煉、神奈「食べ物の恨み、覚えてろよ」
牛さん「もうやだ……」
次回予告
職質の恐怖