3. デート前半 (肉狩り)
タイトル詐欺?
いつからデートで戦わないと錯覚していた?
……あの日、世界のあちこちに突如として現れたダンジョン
中には侵入者を容赦なく殺す罠や魔物
そんなところで
「デート!デート!」
……デートをしています。どうしてこうなった?
「そういえば、どこに向かってる?」
私の前をスキップしながら歩く神奈に尋ねる。
「25階層」
「はい?」
「25階層!」
いや、聞こえてるよ。ちょっと待ってね、理解するから。
「……私、命がけのデートはしないって言ったよね?」
「大丈夫だって。愛の力は無限大だよ?」
「……???」
すまん、誰か通訳してくれ。
「仕事帰りにダンジョンの未踏破階層を探索する気?」
「ザッツライト!」
神奈は立ち止まって、親指を立ててウインクする。
私は試練に追いつくと、笑顔で軽くゲンコツする。
「ちょ、試煉ちゃん!デートDVだよ!」
こんなところに連れてきた人がそんなこと言うな!
「……私、帰っていい?」
私はそんなスリルを求めていないし。いくら友人の頼みといえどもさすがに嫌です。
あとこれ仕事帰りだよ? なんでモンスター狩りの仕事帰りに残業みたいなことをせねばならんのだ。
「一狩り行こうぜ!」
「お断りします」
「なんで!?」
神奈は予想外の反応に困惑しているようであった。普通の反応だと思うんだけどなぁ……
「さすがに危険すぎる。何の準備もしてきてないし、二人だけなんだよ」
私がはっきりそう言うと神奈は下を向いたまま動かなくなった。
この世界のダンジョンはおそらく全てあの日の後に現れた。あの日の後、世界各地で『次元の狭間』と呼ばれる亀裂が発見された。日本で有名(?)なところだとハチ公広場の前に現れた『大海の亀裂』などがある。
次元の亀裂は名前そのもので空間に亀裂みたいなものがあり、それをある方向からくぐるとダンジョンに繋がっている。
だから、おそらくここは別次元の世界。そして亀裂は『別の同じ座標軸のものを繋げる通路みたいなもの』だと師匠は言っていた。真相のほどは不明だが、師匠は断定していた。だから多分そうなのだろう。
ダンジョンそのものはRPGとかと同じでモンスターやトラップがあればお宝もある。ボスと呼ばれるモンスターがいたりいなかったりそんな感じ。
ちなみに、ゲームでよくあるステータスの概念はないのとこっちの世界の武器類はきちんと通じる。……あんまりお勧めはしないけど。
ダンジョンの仕組みとして今のところ分かっているのはこれくらい。それで今、私達がいるダンジョンは元神戸タワーのそばにできた『石路の亀裂』というところにある。幅七メートルくらいの石造りの迷路と小さな部屋が続くこのダンジョンは通路で挟み撃ちに会いやすく、罠を避けるのが難しい。おまけに一度迷うとほぼ脱出不可能という悪魔の三重奏が奏でられている。
そんなダンジョンの未開拓階層に学校帰りのJK二人がアフタヌーンティーをする感覚で行くつもりらしい。水無月! 貴様、このまま放置してていいんか!?
「……でも、25階層の魔物もそんなに強くないよ?」
「人間、死ぬときは死ぬ。超人なんて呼ばれてるけど落とし穴の罠にかかっただけでほぼ詰みなこと分かってる?私らは結局人間なんだから……」
結局人間……そう、私達はいくら魔法の力を手に入れたとしても所詮人間なのだ。人は殴られ、切られ、焼かれれば普通に死ぬ。さすがに某冒険家みたいにコウモリのフンでは死なんけど。脆弱さはあの日の前後で別段変わってない。
だから先のフォースロッグの胃液も当たれば普通に死ぬ。簡単にやってるように見えるかもしれないが実際は命がけだ。
「……」
神奈はいよいよ俯いたまましゃべらなくなった。この子は生粋の戦闘狂……というわけではないのがまだ救いだった。考える脳も分別もある。こっちの言い分が正しいことくらい理解できている。
「神奈」
……だけど、正しさで彼女の願いを捻り潰すのは間違いだと思う。多分あの子は(血肉の踊る戦闘に)飢えている。ならば……
「今夜は焼肉にしない?」
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「「肉をよこせ~~!」」
……ということで私たちは19階層にいます。このダンジョンの19階層にはオークやコカトリスを中心に様々な肉……食料……じゃなくておいしいモンスターがいる。
「試煉!前方に豚肉を発見」
「了解!相手は戦うつもりらしい。そのまま戦闘を開始する」
豚肉……もといオークは二足歩行の巨大な豚のモンスターで体長は大きいもので四メートルを超える。動きは鈍重、ただし力を制御するリミッターが外れているのか棍棒を使った殴打は直撃すれば骨という骨を砕かれ即死。
受けようなんて考えは捨てろ。死ぬぞ。
オークとの距離はざっと二十メートル。私はすぐさま全力ダッシュして接近する。
私はあの日を境に変わった。見た目だけではなく身体能力も。だから、フォースロッグを一本釣りできた。100㎏は越えてるだろう巨大なカエルをだ。
覚醒し、さらに鍛えた私の50メートルのタイムは
今は三秒に迫ろうとしていた。
チーターの秒速が大体25~30メートル毎秒なのでざっと三分の二チーターである。
「ブゴ?」
オークは私の殴打に対し理解不能といった具合に情けない声を出す。私の速さについてこれていないのである。けれども体は僅かに揺らいだが全く致命傷ではない。さすがは界隈で筋肉ダルマなんて呼ばれるだけある。
だけど、私の攻撃はこっからが本番だ。
「連撃!」
不安定なオークの腹に間髪入れずに右ストレートで追撃する。オークは身体をくの字にする。そして……
「ボガッ!」
もう一度放たれた右ストレートでオークはノックダウン。
「爆殺!」
神奈の魔法で無事KO。……若干オーバーキルな気もするが気にしない気にしない。
「さーて、ナニガデルカナ?何が出るかな?」
神奈が後ろから歌いながら走って来る。オークの死体はしばらくそのまま固まった後、黒い液体のように溶け、肉の一部分が残った。ここら辺はなぜかゲームみたいだ。
「これはどこの部位ですか?」
「分からん。まあ、とりあえず回収しますか」
旨けりゃ、ヨシ!
ということで神奈が持ってきていたリュックからビニール袋を取り出して肉をとりあえず中に入れる。すでに中には神奈が狩ったコカトリスやらの肉が乱雑に詰められいっぱいになっていた。
Oh、ちょっとグロイな。
「だいぶ狩ったね」
私はビニール袋を神奈のリュックに戻す。
「20匹は狩っただろうね」
私は時計を確認すると間もなく5時を過ぎていた。ここに入ったのが3時なので二時間滞在していたことになる。
「そろそろ帰るか?」
「うん、私も満足。付き合ってくれてありがとう」
神奈はいじらしく笑う。童顔なこともあってかその姿は無邪気な少女そのものであった。いいな~その可愛さ、羨ましいよ。
「それじゃ帰るか」
私たち二人はダンジョンから出ることにした。
……予定変更。
私と神奈は顔を合わせて確信する。この鳴き声……この気配……間違いない。
「神奈、行くよね?」
「もちろん」
私たち二人は気配と鳴き声を頼りに迷路を右へ左へ走る。
そして、小さな部屋に出た。
そこに奴はいた。
黒い体毛。大きな角を持つ四足歩行の獣のモンスター。
名をガウ。巨大な闘牛モンスター……もとい
霜降り。
出現率(?)が低く、今回の肉狩り中も一回も遭遇しなかったこのモンスターは旨い。めっちゃ旨い。いい牛肉。
私と神奈は音もなく笑う。
今日の焼き肉は豪華なものになりそうだ。
水無月「……俺が悪い?」
???「部分的にそう」
牛さん「逃げたい……」
次回デート後半