筆舌し難い
あの子を見たとき、私の頭頂に稲妻が落ちた。稲妻は、私の頭頂から首筋を伝い、胴を縦断して瞬く間に足先まで駆ける。足先まで至った稲妻は、びりびりとした余韻を残して、次第に地面に逃げていく。身体に残っているのは、ほのかな稲妻の残滓だけだ。されど、克明に、衝撃は心の内奥にとどまっている。
あの子を言葉で表現しよう試みても、どれも安っぽくチープで、廉価な言い種にしかならない。私の塵泥のような言葉であの子を汚したくないのだ。
神韻縹渺とした佇まいは、あの子の天稟だ。誰も汚せない。
あの子は、あの小さな一重瞼で何を見るのだろう。
あの子は、あの麦穂のような唇で何を啄むのだろうか。
頬に厳として屹立する吹き出物の何と愛らしいことか。
齢百余年の水目桜の如き肌に、黄色がまだら模様にあしらわれている。
ぷっくりと丸い鼻はピンポン玉のようで、両脇に垂れ下がる耳朶は瓢箪のようである。
あぁ、何て名状し難いのだろう。私には、あの子を言葉なんぞで表せない。
美しいなどと言い表せない。可憐でも、ましてやかわいいなどと!
私に絶望が訪れた。あの子を、あの子の凄艶を、婉然たる面持ちを言い表せないのなら、言葉なんて。もう。
彼女は言葉を捨てたのだ。
彼女は言葉の埒外にある。
だから、私は話すのやめた。
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