スタートライン①
やっと、やっとだ。
やっと、ここまで来た。
コンビニの店長になるという夢に手が届いた。
いよいよその日が!!
忘れもしない。
俺、鈴木 秀次は
下唇を軽くかみ、武者震いが収まらずにいた。
高校生1年の時から始めた思い出深いバイトだった。
これといって誇れる取り柄はなくクラスでも目立たない陰キャラの俺は目立つのが大嫌いだった。クラスのやつにしられたくないから、バイト先も家の近くのコンビニを避けてわざわざ自転車で30分もかけて通っていた。
家の近所で、知り合いにも会いたくなかったからだった。
初めての履歴書は何枚も書き直して、店での面接はあまりの緊張感で何も覚えていない。唯一覚えているのは店長がたわいもない話でリラックスさせてくれたことだ。
同期の3人の中でも人一倍覚えが悪くて要領が悪かった俺。
レジ打ちを間違えては「兄ちゃん多い分にはいいけど、おつり足りないよ」と、笑って許してくれたオバチャン達。
常連客とも少しづつ会話ができるようになってきた。同僚とも仕事の愚痴をいいあったり仕事の楽しみ方などもみつけることができるようになり、人嫌いの自分が仲間達や接客から少しずつ人に慣れていった頃でもある。
店長がもの覚えが悪い僕に、何回も根気よく教えてくれたことも長く続いた理由の1つだ。
初めての給料は両親に旅行のプレゼントをした。
目を丸くして喜んでくれた。
自分で稼いだお金は格別だった。
もちろんいいことばかりでもなかった。クレームの多い客の対応やタバコの銘柄がなかなか覚えられなくって愚痴られたり、お昼にレジの前で並ばれると緊張してミスが多くなり怒られたり。
そのうえ宅急便の手配や公共料金支払いなどetc・・どんどん覚えることは増えていき責任感は増すばかりで業務が半端ないくらいに多い。
それでも1、2年と経つうち「兄ちゃん頑張っているじゃない。すぐ辞めると思っていたけど頑張ってるね」と常連客から励まされたり、出来ることが増えていくたびに自信になっていった。
卒業前に、店長が軽い口調で「卒業しても、このままうちで働かないか? 正社員として」「えっ、・・・いいんですか?」そう、僕は学校生活が日常的であるように週5回のコンビニバイトもあたりまえになっていった。正社員になると給与は良くなるし賞与もつく。
両親にも相談はしたが「3年間頑張って来たんだから、自分で決めなさい」と言ってくれた。
いろいろネットで調べたりして、仕事量の割に安月給だとかいろいろマイナス面はあったが僕に自信をつけてくれ、変えてくれた仕事を続けて行こうと決心した。
正社員になってから4年が経った。
アルバイトやパートを仕切る立場になってきてますます自信がついた。
そしてある日、本社から呼び出しがあった。
その後
「かっ、母さん俺。新店舗の店長にきまったんだ」 勢いにまかせて電話口でまくしたてる。
「えっ、ほ、本当?」なんだか、信じられない様子である。テレビでよく見るあのシーンである。どんな表情をしたらいいのか分からないといった感じ。
やっと言葉を絞り出す。
「よかったねおめでとう。今まで頑張ったかいがあったね。今日はご馳走にしないとね」と電話口で泣き出しそうな声は忘れられない。
自分の担当の地区までは少し、距離があったので免許を取ることにした。その期間は、学生に戻った感覚で楽しく過ごした。
仕事の合間に通ったので、比較的同じ先生にあたることが多く。言われたのが「秀次君は、運転のセンスがある」だ。初めて言われた時はピントはこなかったが、褒められているのには違いないのだから悪い気はしなかった。しかも、先生からだ。
仮免許からはほとんど、科目を落とすことなくストレートに実地試験も受かった。
その時の自分へのプレゼントがこの白いすばる。なんか月もかけてネットで調べて、何度も実際店舗に出掛けていっては営業担当者に話を聞いて納得して手に入れた車。
新しい車に新品の初心者マークが、違和感なく貼られている。
そしていよいよ新しい職場へ向かう。
初出勤前に、何度かドライブを兼ねて家族で出かけていた。遅刻は、避けたいので時間も余裕をもって出かける。
初日の身だしなみを鏡で何度もチェックして車に乗り込む。
7年間、通った道は目をつぶっても通えるぐらいになっていた。もちろん、そんなことはしないが。一時停止を無視してついついスピードを出てしまった。まあ、今の時間帯は静かで誰もいない。
ドスンと、何かにぶつかった鈍い音がした。なんだ?
(なんだろ? まあ木の枝か何かだろう。ここは、いつもそんなものが落ちているから、気にせずそこからほぼ20分は直進で行けるので意気揚々と車を走らせる。
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その時、白いスバルが、一時停止を無視してすごいスピードで、走ってきた。「危ないなあ。こんな狭い道を」と、誰にでもなく呟いていた時。
ドスンと、何かにぶつかった鈍い音がした。なんだ?白いスバルが去った時。キャンキャンと、悲鳴のよう
な声が響いた…。




