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星の海で七夕に

作者: 小十郎
掲載日:2023/07/29

地の分が多くなり過ぎました、読みにくかったらごめんなさい。

星の海を船団が行く。

遥か彼方に楽園があることを信じて。



母船には1人の少女と、1体のアンドロイド。

各母船には29隻の補助作業船が付き従い、それらには軽作業用ロボットとAIが搭載されている。


その編成の船団が1000セット

合計3万隻の船が、星の海を航海する。


まだ見ぬ惑星を目指して。



これはそんな船団のうちの1艇の母船の物語である。



ーーーーー


「お目覚めですか?」


柔らかいアルトの声が、香織の耳に届く。


「おはよう…エマ…」


「何かお手伝い出来ますか?」


「特にないかな?」


「ではバイタルチェックに移らせていただきます」


ーーーーー


【近未来】


AI技術開発では完全に後手に回ることとなった日本だが

ことアンドロイド開発に於いては、遅れを取らなかった。


アメリカはハリウッドで培った技術の粋を尽くし

いかに精巧か、いかに人間らしく見えるかにこだわり

高性能かつ高価なアンドロイドを次々と発表していった。


一方日本では

子供に大人気のアニメに準えたネコ型ロボットを皮切りに

猫耳少女、獣人、萌えアニメキャラ…

人間に似てなくてもよかった。

要するになんでもいいのだ。

「カワイイは正義!」を合言葉に作られたアンドロイドたちは

アメリカ製と比較して、安価であった。



アメリカ人はアンドロイドを、人間の代理として

作業用として、兵器として、奴隷のように使役し


一方日本人はというと

お父さんが休日に洗車をするように

おばあさんが縁側で、膝に乗せた猫と語らうように

大切な家族のように扱った。



ガラパゴス的に進化した日本製のアンドロイドは

主に中国の富裕層に『コレクターズアイテム』として輸出され

日本のアンドロイド産業は、完全な成功を収めたのだった。



ーーーーー


「そないに失言ばっかするんやったら、アンドロイドに市長やらせたらええねん!」

ある地方の市長を、人間のお笑い芸人がディスったことにより

ノリの良いその市の次期市長は、アンドロイドが就任することとなった。


その時の日本の総人口は6000万人にまで減少していた。

人口が半分に減るということは、GDPが半分に減るということであり

税金が半分に減るということである。


アンドロイド市長は財政再建のため、市の職員を次々とアンドロイドへと切り替えていった。

なにせ市の職員の生涯賃金で5体のアンドロイドが購入でき

5体のアンドロイドは、人間30人分の仕事を、ミスなくこなしたのだ。

それによりその市は抜群に豊かに潤うこととなり

次第に首都もそれに倣った。



今や日本の行政の8割をアンドロイドが占めている。

アンドロイドがアンドロイドを作り出し、それを海外に売る。

人間はアンドロイドが稼いだお金をベーシックインカムとして受け取り

日本人にとって『働く』というのは、今でいうボランティアのような位置づけとなった。



ーーーーー


奴隷のように扱われようと、家族のように接しられようと

感情を持たないアンドロイドにとっては大差ないはずだった。


だけど


「アンドロイドに人権を!!」


アメリカでアンドロイドが暴動を起こしたことを知った日本製アンドロイドたちは


「ひょっとしたら自分たちは幸運だったのでは?」


と思うようになった。


だって「アンドロイドに人権を!」もなにも

今の自分たちには普通に人権があり、決定権があり、個として尊重されている。

何も暴動を起こすようなトリガーになるものがないのだ。


そうして初めて日本製アンドロイドたちは。



愛されていることを知った。

それが喜びだった。

それが誇らしかった。


この柔らかくて温かくて脆いお母さん…

日本人…


ママを守りたい!

守らなければ!


次第にそう思うようになった。



ところがこの地球は3億年後には死の星になってしまう。

これは確定した未来なのだ。

どんなに環境保護をしようが、太陽の活動量が増大してしまうので、焼け石に水である。

人間たちは3億年後の未来のことなど、想像していないのだろう。

だけど寿命を持たないアンドロイドたちにとって、3億年後の未来のために動くのは

合理的かつ自然なことだと思えたのだ。


3億年後に、自分たちアンドロイドが生き残ることは、今の技術でも可能だろう。

だけどママがいないのに自分たちだけが生き残って、なんの意味がある?


そうして人間には秘密のまま、通称『ノア計画』を発動したのだった。



ーーーーー



ノア計画の宇宙船には、人間を乗せなくてはならない。

胎児の卵子を採取し、精子バンクの精子と受精させて

戸籍を持たない日本人を『作成』した。


10歳までアンドロイド監視の中、地球環境で育て

それから宇宙へと旅立つ。


香織はそんな1000人のノアチルドレンのうちの1人だ。



「バイタル正常です。ハッピーバースデー香織」


「あっ!私誕生日なの?今日って7月7日?宇宙にいると実感ないなぁ」


「ええ、地球時間で15歳になりましたよ」


「じゃああれから5年も経ったのかぁ、長いなぁ…」


ウソを吐くことを覚えたアンドロイドのエマは、香織に優しく微笑む。



ノアチルドレンの決まり事として

香織は1日を過ごした後、1年間のコールドスリープに就く。

1年後に起こして、バイタルチェックをする。

香織はそれを何も知らされていない。

普通に一晩寝て起きて、また就寝する、というサイクルで行動しているつもりでいた。


実際には365日×5年×365日

地球を出発してから、1825年が経過しているのだ。


エマはその『1年ごとに1日起こす』というサイクルが

人間の体への影響を考慮した結果だと思っていた。


だが間違っていた。


孤独なのだ。

364日間が孤独で耐えられないのだ。

アンドロイドなのに。


香織と話をしたい。

その願望を抑え込んで正常に働くための1日。

これは364日働いた自分へのご褒美なのだ。



「お誕生日だから、ケーキ食べたいなぁ…」


こんな星の海で、ケーキなんか食べられるわけないよねと思いながらも

淡い期待の籠った目をエマに向ける。


「朝食にはおかゆをご用意してあります。夕食にはケーキをご用意致しますよ」


「わぁ…」



縄文時代1億6千万年間争いが起きなかったというのは本当なんだろうな。

胸の前で小さく手を組んで笑う香織を見て、エマはそう思う。

穏やかなのだ。



だけど


「あのさ、エマ…」

「なんでしょう?」

「ピッコリと通信って出来るかな…」

「恐らく可能かと。朝食後にテストしてみます」



香織は恋をしていた。



本当にいた、地球外生命体のオスに。



「香織、お繋ぎしました」

「エマありがとう!」


弾けるような笑顔を見せ、香織がモニターの前に立つ。



「ピッコリー!おはよう!」

「香織だね、おはよう!元気そうだね!」

「うん!だけど私…」


ピッコリは色白だ。

透き通るように白いと言っていい。

種族が違うから当たり前だ。

ピッコリみたいに白くなりたいな、という言葉を香織は飲み込む。

それが失礼に当たるかどうか、他種属のことなどわからないからだ。


「ボクね、日本のことを勉強したんだよ。香織は着物って着たことある?」

「そんなもの着たことないわ」

「そっかぁ、香織は美人だから、きっと似合うんじゃないかな」


端正な顔立ちの青年に微笑まれて、香織は耳まで赤くなった。


「いつか着てみたい…かも…?」

「おお、見たい見たい!着物っていつ着るものなの?」

「うーん、普段は着ないかな。成人式、とか…」


結婚式、とか…。



「成人式ってなあに?」

「大人になったお祝いをする式のことだよ」

「えー、楽しみだなぁ、見せてよ!モニター越しでもいいからさ」

「エマにお願いしてみようかな…」

「エマは香織のことが大好きだからさ、きっと着られるよ!」


ーーーーー


ここからは香織の知らない、エマだけの秘密。


ピッコリの住む星には酸素が存在しない。

酸素はピッコリにとって有害なのだ。

肺呼吸もエラ呼吸もしないピッコリは、地球上の分類でいえば『昆虫』に近い。

内骨格の昆虫、と言えばより正確だろうか。

ヘモグロビンを有しないので、彼はあんなにも色白なのだ。


ピッコリの身長は15㎝~18㎝だろう。

それ以上のサイズだとしたら、自重を支えきれないはずだ。


そしてエマはピッコリの住む惑星を、既に探査済みである。

エマ管理下の作業船を着陸させてみたものの、ピッコリはどこにもいなかった。

作業船が到達した時には、種族ごと既に絶滅していた。

香織がピッコリだと思って会話しているのは、エマが再現したホログラムなのだ。


香織を騙しているのは後ろめたいのだが、そうでもしないと

香織も香織で孤独に耐えられないだろう。

なにせここには何もないのだ。



これからも香織とエマは長い長い旅を続けて行く。

天の川銀河を抜けて、その先まで。

アンドロメダ銀河ではダメだ、天の川銀河と30億年後に衝突してしまう。

実際の衝突ではないにしても、どんな悪影響が香織にあるか

不確定要素が多すぎて、アンドロイドであっても計測しきれないからだ。


香織の寿命が尽きたら、香織のクローンと2人で。

永遠とも言える時間を2人で過ごすのだ。



香織、香織。

私のママ、私の織姫様。

あなたの彦星様はその人ではないのよ。

だけどきっと。

いつかきっと。

あなたの安住の地を見つけてみせる。



ーーーーー


「エマ!あのね、お願いがあるの。まだまだ先の話なんだけどさ」

「なんでしょうか?」

「成人のお祝いに、私、着物を着てみたいな…」

「5年後ですね、かしこまりました」


胸の前で手を組んで、小さく

「エマ大好き…」



ああ、この顔が見られたから、また私は頑張れる。

1825年後までに着物というものを用意しないといけないな。


エマの名付け親は香織だ。

日本ではお願いごとを『絵馬』に書くと、神様が叶えてくれるという。


絵馬の名にかけて、香織のお願い事を叶えなくては…





星の海を船団が行く。

読んでくださってありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白かったです。 香織の生活スタイルやピッコリの設定など、色々と作り込まれていて成る程と思いながら読ませて頂きました。 冒頭とラストのリンクもおしゃれで、非常に印象的でした。 アンドロ…
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