27.各国への来訪①
「サマーブリージア王女、一つ確認したいことがあります。」
あれから僕は、気を取り直して言った。
絶対に確認したいことが、確認せねばならぬことがあって-それらをみないフリをして、呑気に浮かれていられるようなタチではなかった。
「何?」
サマーブリージア王女は僕の内心を見抜いたのか、真剣な顔で聞き返した。
「フラストノワールは...滅んだ。そういう認識で合っていますか?」
「...うん。
突然なくなった。そしてみんな花の国があったこと自体を忘れて、ずっと前から西は禁足地だったってことになった。
私も最初は忘れた。けど、手紙を見て思い出した。」
「手紙?手紙とは何の手紙ですか?」
「.........ああっ!いや、気にしなくていい。」
サマーブリージア王女は後ろを向いた。
「...そうですか。」
僕は目を瞑って考えた。
そして、故郷が滅んだという現実を受け止めた。
受け入れられるほど、僕は強くも冷たくもない。
街も、民もみんな消えて...。
許し難い出来事だと、怒りと悲しみが僕の中で煮えたっている。
だが、許さないと同時に、これを現実として認識することはできる。
真理や真実として受け入れるつもりは毛頭ないが、凄惨で未完成な"現状"として受け止めることはできる。
「わかりました。」
「...」
みんな黙っていた。
「心配無用です。
くよくよと俯いたままでいる方が、もっと悲しいことになるって、僕はわかっていますから。前向きに、歩みを進めます。」
彼女は僕の顔を見て、頷いて言った。
「まずはうちに、ウィンディライン城に行こう?
きっとロゼットのことを直接見たら、うちのパパ、ウィンディライン王もきっとフラストノワールのことを思い出すはず。」
「ありがとう」
僕は感謝した。
サマーブリージア王女は微笑んだ。
トキロウとシロはくるっと振り返って森へと足を踏み出した。
「トキロウ!シロ!ありがとう、元気でなー!」
僕がそう言うと、トキロウは後ろ姿のまま手を小さく振って、シロとともに森の中へと消えていった。
「えっと、あの...」
ミルクシェ王女は、もじもじとしていた。
「どうしたんですか?」
「その格好も、素敵、だと思うのですが...服、持ってきたので、着てくだひゃい!」
彼女は思い切り噛んだ。
「服...?.........っ!?これって...!」
見覚えがあった。ありすぎた。
だってこれは...
「中央都市にある<セントラル・ブランク・アカデミー>の制服、だね。」
サマーブリージア王女は言った。
「兄の部屋にあったんです。」
「カウディア王子の部屋に...?」
「そうなんです、おかしいですよね。兄はアカデミーには入学していないから...
相当、世界が、時空が歪み出してるってこと、ですよね...。」
僕は色々と考えた。
フラストノワールがないなら、僕がいないなら、誰がアカデミーの創立者ということになっているのだろう、校長を任せたイドラさんか、それとも...件の、コニスカラメルの人間か。
後者の可能性を考えてみると、なんだか頭がぐちゃぐちゃとかき混ぜられたような気持ちになりかける。
しかし僕は、気持ちをぐちゃぐちゃとさせていると更にぐちゃぐちゃしてきてしまうものだということがわかっているので、そうやって余計な心配をして落ち込むのはやめた。
嫌なことがあるなら、物事を嫌悪し見下す高尚な自分様なんかにかまけていないで、その嫌なことを解決してしまえばいい。
世界が歪んでいるというのなら、この事態を調べ尽くして、フラストノワールを元に戻そう。
僕はミルクシェ王女から制服を受け取った。
「ありがとうございます!世界をこれ以上歪ませないためにも、急ぎます!」
急いで着替えた。
そして2人とともに、高速蒸気機関車へと乗り込んだ。
この座席に座るのは、どれくらいぶりだろう。
「...」
それから、僕とサマーブリージア王女は意味もなく、数秒見つめ合ってしまっていた。
「きょ、今日が休日で本当に良かったです!おかげで助けに来られましたからね!」
ミルクシェ王女が言った。
「うん。それにトレイン・ポスタも平日朝の通勤通学ラッシュと比べたらかなり空いてる。いつも満員・ポスタ。」
サマーブリージア王女は言った。
「そ、そうなんだ。それは大変だね。」
「でも、楽しいよ」
「ははいっ、楽しいです!」
「「ね〜」」
僕は、後ろの車窓を眺めることにした。
街の景色。
もちろん、故郷ではないけれど、見知った景色ではあったので、今にも泣き出したかったけど、2人に心配させたくなかったから泣かなかった。
むしろ、これがまた見られたことが嬉しいから、喜ぶ方に気持ちを切り替えた。
「...」
それから少しして、サマーブリージア王女の方を振り向くと-
「...っ!?」
顔が、とても近かった。
「サマーブリージア王女、近い、です...。
婚約はしたものの、婚約というのは結婚の約束であって、既に結婚したというわけではないのでして、その、ええと、心の準備が...」
するとサマーブリージア王女は僕の手に自分の手を重ねて、言った。
「長い。」
「えっ?何が...」
「サマーって呼んで。...ロゼット。シエルも、そう呼んでるから。」
サマーブリージア王女、と呼ぶのは長すぎる、ということだった。
僕は、僕なりに葛藤したのち、覚悟を決めて呼んだ。
「........サマー」
「うん、ロゼット。」
「なんだか...もやもやします。」
ミルクシェ王女はぼそっと呟いた。
「大丈夫ですか?体調が悪いのですか?」
僕は心配した。
「い、いえ、そういうわけじゃなくて...
このもやもやの心当たりはあるんです。」
「心当たり?」
「はい、あの、言いにくいのですが...
実は私、未だにフラストノワールのことを、サマーちゃんほどはっきりとは思い出せなくて...
ロゼット王子とは面識があったと思うのですが、それが引っかかってるんだと思います。」
「はい。僕たちは15歳の時、社交界で一度会っています。」
「15歳...あっ!」
ミルクシェ王女は何かに気がついたように言った。
「あの、トマトをバラの花弁みたいにした料理...って覚えありませんか!?」
「...ああ!それなら、その社交界の時に僕が作ったものです!」
「やっぱり!そうだったんですね!それだけは覚えてて...!」
ぱあっとニコニコ顔になるミルクシェ王女。
「じゃあ、あの、あの!わっ、私のこともシエルって呼んでもらって良いですか?」
「えっ!?」
驚いたのはサマーだった。
「サマーちゃんもそう呼んでます。だから良いですよね!?」
「うっ、ぐぐぐ...」
「全然良いけど...。じゃあよろしく、シエル。」
「はい!よろしく、ロゼットくん。」
ふふっと上機嫌に笑うミルクシェ王女。
そしてトレイン・ポスタはシエルの故郷、月の国ムーニャリウムに到着した。
シエルの提案で、彼女の家族であるムーニャリウム王家の方々にも、フラストノワールのことを思い出してもらったほうがいいだろうということになり、僕とサマーも同行することにした。




