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15.忘却③(サマーブリージア王女視点)

全ての授業が終わり、夕暮れに染まる教室。


「それでは本日の授業は終了です。みなさん気をつけて帰ってくださいね〜。

私も気をつけて帰ります〜。」


「ふぅ」

支度をし、帰ろうと席を立った彼女の手を、私は引き留めた。


過ぎ去っていく生徒(クラスメイト)たち。


私と彼女だけが、その教室に残った。

立ちかけていた彼女は、席に座り直した。


「どうしたの?」


私は椅子を持ってきて、座った。

「...今日の昼前の歴史の授業、どうだった?」


「うん、楽しかったよ、とってもためになった!

それがどうかしたの?」

彼女は笑って言った。


「紋章の話、あったよね?」


「...うん、私たちは元からよく知ってたことだったけど、改めて実感したよね。

王族としての...責務...っていうのかな」

途中まで明るく言っていたミルクシェ=ルカルゴ=ムーニャリウムだったが、トーンが下がり、今は少し考えるような仕草になっていた。


「って言っても、第一王女のサマーちゃんと比べたら、王位継承権のない私の責任なんて大したことないよね...」

自虐的なことを言って苦笑いする彼女に、私は言った。


「シエル」


「シエル!?」

ミルクシェ=ルカルゴ=ムーニャリウムは思わず周りを見回した。


「それって、私のこと...?」


私は頷いて、そして言った。

「...紋章は4つ。風、鳥、月...。

シエル。秘匿された最後のひとつは、一体何の紋章だったと思う?」


「...うーん......何だろうね」

シエルは露骨に視線を遠くに向け、何か考え事をしていた。

やっぱり彼女にも、何か思い当たる節があるようだった。


「でも、どうしてそれを私に訊こうと思ったの?」


「...違和感を感じたことはない?

あったはずのものが、知っていたはずのこと、考えていた、思っていたはずのものが突然世界から消えてしまったような強烈な違和感を。」


「それも特に、に-」

私がそう言いかけると、シエルは珍しく強くかぶせてきた。


「西。...西の禁足地に行ってみたいって、思ったことはあるよ。」


「...!」


シエルは続けた。


「私、臆病で、勇気なんかなくて。

勉強するのは楽しいけど、実際にその場所に行ってみようとか、実験してみようとか、そんな素敵な好奇心なんかなくて...。


なのに、それなのに...あの西の...禁足地のことがすごく気になってた。


冒険も、怖いのも、嫌なはずなのに、それでも行かなくちゃいけない、何かを取り戻さなきゃいけないって思っちゃうくらい。

あの場所に、前は何かがあったような、ものすごくそんな気がして。


こ、これって、強烈な違和感...だよね?」


彼女が正直に話してくれて、私は少し笑顔で頷いた。

彼女は続けた。


「今日の授業でも、4つ目の紋章って何だったんだろう?

あそこにあったのは、一体何の国だったんだろうって...私は本当は、何か知っていたような...でもそんなこと知ってるはずがなくて...ずっとモヤモヤしてて...!」


そして私に問いかけた。

「サマーちゃんも、そ、そうなの?」


「うん。」


やっぱりあの場所には何かある...。


「シエル、今日うちに泊まりに来ない?2人きりでゆっくり話したい」


「えっ!?」


「...」

しばしの沈黙。

ダメか...?


「もちろん!サマーちゃんのお部屋、どんな風なんだろう楽しみだなあ...!」

シエルは笑顔でそう言った。


「じゃあパジャマを持ってこないとだね!ついでにお母さまにも伝えておこうっと。」

直後、彼女の周りから吹き抜けていく突風を感じた。


窓のしまった教室でなんで...?


「今のは?」


「霊魂にお願いしたの。私のパジャマや歯ブラシを持ってきて、ついでに母にもサマーちゃんのところに泊まるって伝えておいてって。」


「それってもしかして、魔法?」


そう言うと、彼女はびっくりした顔をした。

だけどすぐに返事がきた。


「ううん、これはね、操霊術だよ」


「操霊術?」


... ... ...


私とシエルは、ウィンディライン城(うち)にある禁書庫に潜入した。

普段はとてもじゃないと入れないが、操霊術のおかげで見張りの兵士をうまく交わして、本を持ち出すことができた。


私の部屋に戻るやいなや、2人で持ってきた本を片っ端からみてみることにした。

しかし正直、あまり目当ての内容は見当たらなかった。


そんな時...


「あっこれ...ねえサマーちゃん、このページ、もしかして...!」


「ん」


彼女が指差している場所を見る。

それは各国の国宝である"紋章の入った武具"について記述されているページだった。


月の国

宝盾 騎士の瞳(ファーレス・アイン)


「シエルは国宝、見たことある?」

「ううん、見たことない...サマーちゃんは?」

「私はあるよ」

「ええー、私も今度見せてもらおうかな...」


風の国

宝鞭 風来の大蛇(ウィンド・ウィンド)


鳥の国

妖刀 鬼火の足音(アブリビオン)


そして...


花の国

宝剣 祝福の花束(ブーケ・ド・グラース)


「...あった」

「あった...ね...!」


花の国...その響きは元から知っていたかのようにしっくりきた。


「は、花...花の国...。やっぱり私、知ってる気がする」

シエルの言葉に、私は頷いた。


だけど外は真っ暗で、もう遅い時間だった。


「...もう寝ようか」


「そ、そうだね」


...


「今日はありがとう」


「ううん、こっちこそ」

シエルは言った。


「禁書庫に忍び込んでここまで戻ってくるのも怖かったけど楽しかったし、

何よりサマーちゃんと仲良くなれてよか痛っ!?」


彼女のおでこに、何かが上から落ちてきた。


私はそれを手に取った。

「鍵...」


「サマーちゃんの?」

「うん」

「何の鍵?」


「大事なものを入れる箱の鍵」


「だ、大事なもの...!どんなものをしまってるの?」


「.........」


「サマーちゃん?」


「.........Zzz」


「...ふふっ、おやすみなさい。」


... ... ...


...早朝。


シエルが起きる前に目が覚めた私は、鍵を手に取った。


鍵を回して、金庫を開けた。


「...!」


そこにあったのは、手紙だった。


手紙。


私が"彼"に宛てた手紙。


彼に送った手紙と同じ内容を書き写しておいた"予備"の手紙だった。


それを見て。


私は思い出した。

忘れていた彼のことを。


私はそのまま、涙が流れたまま、笑った。

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