大根役者~大根だもの~
『不合格』。この通知が届くのは何回目だろう?
『大根でも人間を演じられる!』と信じて役者の世界に飛び込んだ。
現実は残酷で俺はオーディションに落ち続けている。たまに出れるのは通りすがりの歩行者大根役ぐらい。
「大君。……これ」
俺の彼女のネズコ……『ネッコ』は俺にプリントアウトした紙を見せてきた。……なんだこれ?
『大根役オーディション』だと!?おい!ふざけるな!
「俺に大根を演じろってのかよ!?これが本当の大根役者ってか!?バカにしやがって!」
「違うの!」
ネッコは台所から何かを持ってきた。なんだこれ?くさっ。輪切りにした大根の表面から根らしき物が生えている。これが何だってんだ?
「大君。役作りの為に身を少し切ったじゃない?もったいないから台所の三角コーナーの所に置いておいたの……そしたら」
生ゴミの栄養を吸って新しい命が芽生えたって訳か。
「『幹男』って名付けたの。私と大君の赤ちゃんよ」
「……」
俺も父親になったって事か。人間世界で大根の俺が家庭を持つ事が出来るなんて夢みたいだ。そうだな。好き嫌いも言ってられない。金がいる。
「……受けるよ。大根オーディション」
「831番!大根!根性はあります!根菜だけに!演技は白々しいかもしれません!大根だけに!」
監督もプロデューサーも笑ってくれた。
そしてオーディションに俺は見事に合格した。二次元審査も三次審査も中止。俺のぶっちぎりだ。そりゃそうだ。本物の大根なんだから。
俺は初めてドラマの主役になった。
大根刑事は俺の代表作になった。
「……カカロット」
「幹男!幹男!?」
幹男は体が弱かった。土に埋めてもすぐに病気になったり虫に喰われたりした。
だが、かかりつけ医(農家)の先生の助けもあり幹男はスクスクと成長してくれた。
よくSNSで見る『セクシーすぎる大根』みたいなボディーになってしまったのはまぁしょうがない。
「ダディー!ダディー!」
「幹男。いいぞ!将来はプロ野球選手になれるぞ!」
息子とのキャッチボールは楽しいが体がもたない。
俺も大根としてはもう腐りかけだ。
まだ家族といたいし役者も続けたいが生ゴミみたいな臭いのする役者なんて誰も使いたくないよなぁ。
「大君に提案があるの」
「……なにぃ!?なんて事を言うんだ!?」
ネッコは俺の体を切り刻んだ。そうかその手があったのか。
俺は役者として次のステージに進もうとしていた。
スティーブン・セロリバーグ監督。
ベジタブル大賞作品。
『OYASAI』
『豪華セロリウッドのスター達のオールスタームービーに日本野菜が初めて出演!『たくあん』役の大根の怪演が光る!』