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The Tír na nÓg 〜ティル・ナ・ノーグ〜  作者: 佐藤つかさ
序章
5/222

1-5

 問題は3つある。

 

 ひとつ、爆弾がある。

 もうひとつ、どこにあるのか分からない。

 最後に、それはいつ爆発してもおかしくない。

 

 3万人の民がそろって天国に入学するのも時間の問題だ。それだけは絶対に阻止しなくてはならない。


「…………」

 リベルテは汗をにじませる。

 仕込みはいつ動き出すだろうか、と。

 

「ペンダント」

 不意にノアが話しかけてきた。指で胸元とリベルテを交互に指しながら続ける。

「ペンダントはかけているのか? 天馬騎士団の証を」

 

「…………」

 リベルテは無言のまま、胸元からペンダント引っ張り出す。

 鎖の先にぶら下がっているのは、銀を削り出した装飾品。自らの尾を喰らう(ウロボロス)の輪。上に王冠。左右に翼。輪の中心にはペガサスの衣装が彫られた盾が飾られている。

 騎士の証として、ティルナノーグ領主から(たまわ)る逸品だ。

 その証を、リベルテは相手の前に掲げてみせた。

 

「素晴らしい。天馬騎士団の騎士になれるのは二十歳前後。わずか十四歳で騎士になれた君は才智溢れる若者なのだろうね」

 実に満足げにノアはうなずく。そして言った。

「クリコムは持っているか?」

 

 リベルテは、もう一つ首に提げていたネックレスも胸元から引っ張り出した。

 鎖にくっついているのは銀ではなく水晶。空のような色を放つ宝石は、光の当て方で若葉の色に似た煌めきを見せてくれる。

 クリコム。正確にはクリスタル通信機(コム)

 水晶の共振作用により、お互い遠い場所にいても会話ができる魔導具である。

 

「通信は切ってるのかい?」

「もちろん」

 格好に似つかわしくない可愛らしい声でリベルテは答える。

 

「便利な時代になった。そう考えるようになったのは、歳を取ったからかな」

 痩せ細った肩をすくめてノアは苦笑してみせた。

「人の声を電気信号に変えて空中に飛ばす。相手のクリコムに届けば、電気信号は再び声に戻されてメッセージが届くんだ」

 そういうことだ。例えば、はるか離れた彼方に別のクリコムを持った人物がいるとしよう。リベルテが話しかければ、その人物に届くというわけだ。もちろん逆も然りである。

 

 不意に、ノアに隣を見たまえと促される。

 リベルテが視線を向けると、そこには机があった。置かれているのは、囚人部屋には似つかわしくない豪華な時計。

「こう見えて私は模範囚でね。ある程度の便宜が図られているんだ」

 時計といえば貴族だけが持てる高級品だ。それをどうしてノアは持っている?

 

「良いものを見せよう」

 剣のグリップに似たようなものをノアは握っていた。似たようなものと表現したのは、グリップしかなかったからだ。ついているのは刃ではなく、小さなスイッチ。

 そのスイッチを親指で押してみせる。

 すると、信じられないことが起こった。

 時計が、歌い出したのだ。

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