そして二人は辿り着く
そこからはほとんど休みも無く歩き詰めだった。
どこをどう進んだかは良く覚えていない。
何度となく車がひしめき合う道路を渡り、混み合う駅前を横目にしてきた。
そして、ようやく地元で一番大きいショッピングモールにたどり着く。
ここを見ると戻ってきたと思える。地元のシンボルマークだ。
夕暮れに照らされて白い建物が輝いて見える。
眩しさに少しだけ目を細めた。
普段はそこそこ人通りの多い道なのに、今は私と青葉しかいない。
「学校の方へ避難するように指示があったみたいだな」
青葉が言いながら携帯の画面を見せてくる。
そこにはおばさん、青葉のお母さんからのメッセージが表示されている。
『小学校に避難することになりました。もし帰ってくるならこちらに来てください』
それは暗に帰ってくるようにと言っているように見えた。
「青葉」
「俺は行かない」
私ですらそう感じたのだから、当人である青葉は尚更だろう。
しかし、それがわかっていてもその意思は変わらない。
私の両親も一緒にいるのだろうか。ふとそう思う。
挨拶ぐらいはするべきなのかもしれない。
同時にそんな風に思った。
「凪はどうしたい?」
「私も、いいよ」
けれど青葉に訊かれて答えたのは真逆のこと。
「そう、か?」
それに青葉は目を丸くした。
もしかしたら私が会いに行きたいと言う事を想定していたのかもしれない。
それとも――。
「じゃあ、こっちだ」
青葉はまるで逃げられなくするように私の手を取った。
「うん」
元からそのつもりもないので私は大人しくその後をついて行く。
そうして向かったのはコンクリートで舗装されたT字路の向こう。空間を裂くようにぽっかりと開いた山道だった。
地元の人が良く使う散歩道なので地面は軽く均されている。
けれど、薄暮の時間に入るには少し勇気のいる場所だ。
「行くぞ」
青葉は迷うこと無くその道へと進んでいく。
握る手に力が籠もったのを感じた。
青葉も怖がっているのかと思ったが、すぐに思い直す。私の手が震えているから、安心できるようにそうしたのだ。
不思議なものでそう思うと段々と恐怖心も薄れてくる。
徐々に勾配がきつくなってくる道に恐怖を感じる暇も無くなってきたからかもしれないけれど。
迫る薄闇。ざわめく木々。変わらない景色。いつの間にか離れた手。
終わりが見えない山道と離れていく背中に焦燥感が募る。
それに突き動かされるように少し足を速めた時だった。
「わっ……!」
地面から顔を出した大きめの石に乗り上げてしまい、バランスを崩す。
そして堪えることも出来ずそのまま倒れた。
「凪!」
私の短い叫びを聞きつけた青葉が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「立てるか?」
差し出された手に掴まって、支えに立ち上がろうと足に力を込める。
「いっ……」
すると鋭い痛みがくるぶしの辺りを走った。
どうやら足を捻ったらしい。
「凪、乗れ」
青葉は咄嗟に私に背を向けて言う。
「でも」
「頼む。どうしても、凪を連れていきたいんだ」
普段なら絶対に言わないような懇願。あまりに真剣だったから、それを拒否することは出来なかった。
「わかった」
大人しくその背中に体を預ける。
「よし、行くぞ」
青葉は私を背負うと舗装されていない山道を再び歩き出した。
しっかりとした足取り。人一人背負っているとは思えない速度で彼は歩く。
私は安心して、全部青葉に任せていれば良い。
それになぜだか泣きそうになった。
必死に前へと進み続けるその姿に、願う。
どうか、どうか、もう少しだけ――。