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01

もはやこの仕事に何も思わなくなった。毎日機械的にやるだけである。さくさくとこなしていく私は、この業界においてトップクラスの腕前だ。


明日の仕事の為に尋ねる人の情報を整理していた時のことだった。


「先輩、仕事していていやにならないんですか?」


最近この仕事に就いたやつから真面目な顔をして聞かれた。

こいつはまだ実践に出てはいない。データの管理や依頼の受理、主に事務的なことをやっている。


仕事がいや、ということは考えたこともなかった。

それは仕事が楽しいからではない。

“生まれつき“そういう運命だったと思ってやっているのだ。

それ以外に、私にできることなんて今更ないのだ。


ふと整理していた情報に目を向けた。


あらゆることが書かれた一枚の紙。


その紙に、どれほど価値があるのか。

その紙に、何の意味があるのか。


「そんなことは関係ない。やるべきものをやるだけだ。」


そう、そんなことは関係ない。与えれた仕事に意味などない。


頭に浮かんだ疑問を消し去るようにその紙を胸ポケットに丸めて入れた。



仕事はぱっと終わらせるに限る。

足を前に踏み出す。

そうして仕事場に近づいていく。

機械的にやるだけなのだから何の心配もない。

この道30年の私にミスなど無縁である。

だが、なぜだか今日は足を踏み出すたびに胸の奥から何か、今まで感じたことのない不思議なものがあふれ出る感覚がする。

無心でいられないなど、私はどうしたのだろうか。


カシャン。


廊下に転がっていた鈴をけってしまった。


その音に反応したのか、それとも偶然か、


「おじさん、だあれ?」


廊下の曲がり角から、男の子が顔をのぞかせた。



「ねえ、もしかして、おじさんが僕を迎えに来てくれた人?」



「そうだよ。」



その言葉の意味を、この子は知っているのだろうか。



「そっか。お父さんがね、今日の夜に僕を迎えに来る人がいて、いいところに連れて行ってくれるって言ったんだ。」



「今、君は幸せか?」



なぜこんなことをきいたのか、自分でもわからない。

小さな子供に、どんな答えを求めていたのかも。

ただ、何か自分の中にあったものの形が、さっきまでの不思議な感覚が、私にそう言わせた。



「幸せって、なあに?」



まっすぐ私を見つめた目は、子ども特有の“希望を求める”目ではなく、“すべてを受け入れる”大人の目だった。


何がこの子をそうさせたのか。


幸せが何かを知らない生活は、どんなものなのか。


私に依頼を頼んだこの子の父親は、何を考えているのか。



『仕事していていやにならないんですか?』



そうだな、この仕事は嫌だよ。

大嫌いだ。


この仕事に頼るやつも嫌いだ。


そして、それを忘れていた自分も。



「きみ、名前は?」


「名前?」


「何て呼ばれてるんだ?」


「それなら、名前は“おまえ”だよ。」


「おまえ、いいところに行きたいのか?」


「うん、いきたいよ。」


「そうか。では、私と一緒に行こうか。」



私はこの仕事を辞める。


思い出してしまったんだ。


人の命と幸せの価値を。

世の中の汚い部分を。

”希望を求める“ことのできない人がいることを。



そんな私にこの仕事ができるわけがない。


少なくとも、目の前にいるこの子には、自分のような道は歩ませたくない。


今まで何人もの人を切り汚れたこの手で、私にできることはなんだろうか。



こどもと一緒に歩き出す。

足を踏み出すたびに感じたあの感覚はもうない。


ふと、思う。

自分がこの道に来てしまった原点を。

そこにいる子供たちに希望を与えられたら、きっと私のようになる人も減るのではないか。


30年の稼ぎはほとんど手を付けずにたまっている。

それが人の命からきていると思うと今は苦しいが、そのお金が役立つだろう。


きらびやかな街の裏のさびれたスラム街。


私は支援施設を立ち上げることにした。


子供たちを集め、私は言う。


「私と一緒に、新しく人生をはじめないか。」







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今回のお題は、”人生に悩んだ暗殺者が、スラム街にいる”でした。



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