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一話

突然だが、私は後ろから迫りくる脅威から逃げている。

「お姉ちゃん! 何で逃げるの!」

妹はそう言いながら私を追いかけてくる……フリフリの白いワンピースをもって。


「なんで逃げるの! 私はただ、お姉ちゃんにこのワンピースを着てほしいだけなのに!」

「それが嫌だから逃げてるんです! 逃げられるのが嫌ならそのワンピースを早くしまってください」

 

あ、自己紹介がまだでした。私の名前は月詠つくよみ かえでです。

そして、後ろから私をものすごい速さで追いかけてくるのが妹の月詠つくよみ 香菜かなです……って自己紹介をしてる場合ではありません! 今にも香菜さんに追いつかれそうです……私、大ピンチです!


「もう少しでお姉ちゃんに追いつく……スピードアップだね」


香菜さんはそうつぶやくと走るスピードを速くした。――まずいです。運動神経抜群の香菜さんがこれ以上スピードを上げたら、運動神経皆無の私では逃げ切れません。


香菜さんがスピードを上げたので私も負けじと全力疾走をしました。――しかし、全力疾走をしている私と余裕のある香菜さんでは勝負にならず、ものの五分後につかまったのであった。


「もう! 最初から逃げられるわけがないってわかってるのに、逃げるなんてひどいよ……」

「それでも私は、その服を来たくないのです!」

私は現在、首根っこつかまれた猫のようになっていますが、手足をバタバタとさせて、最後の抵抗をしています。


「わかった。そんなにこの服が嫌なら着なくてもいいよ」

あれ? 普段なら、ここで、お姉ちゃんは捕まったんだから、お姉ちゃんに拒否権なんてないの!と言って、強制連行のはずなのですが……


「あれ? 今日は見逃してくれるのですか?」

私は自分でもわかるくらい目をキラキラさせて、香菜さんにそう聞いた。――そして、香菜さんから帰ってきた返事は期待していた私を地獄に突き落とす一言でした。


「うん! これは着なくてもいいよ! そのかわり、これからお姉ちゃんは、私の部屋で着せ替え人形だよ!」

 

ああ……私には地獄しか待ってないのですか。これなら、逃げずにワンピースを着ていればよかった。

 私と香菜さんが家に戻る間の時間、私の頭の中では、牛が連れていかれる曲がリピート再生で流れていました。


 私たちが家に着いたのは、私が香菜さんに捕まって三十分後のことだった。


「ただいま~ 脱走犯を捕まえてきました!」

 

香菜さんは、家に入るなり大きな声でそう言った。そして、その声に反応したのは、私たちの母親の月詠つくよみ 椿つばきさんと父親の月詠つくよみ あきらさんです。


「はは、楓はまた香菜に捕まったのか? いい加減あきらめたらどうだ?」

「いえ、これは私の尊厳にかかる大問題なのです。いくらお父さんに言われても譲れません!」

 

私はお父さんにそう言うと、お父さんが座っているソファーに座った。


「お姉ちゃんがどう頑張っても運動だけは負けないもんね。」


香菜さんは私の後ろに立って、私の頬をぷにぷにといじりながら、そう言った。


「香菜さんはずるいです…… 私にもその運動神経を分けてください。」

「まぁまぁ、無いものねだりをしても手に入らないよ。それに、運動が出来なくても楓にはたくさんいいところがあるんだからそれでいいじゃない。」

 

お母さんが、洗い物が終わったのか手をふきながらこっちに来た。


「そうそう、お母さんの言うとおりだよ。お姉ちゃんにはたくさんいいところがあるもんね。それに運動が出来なくても、私がお姉ちゃんを守ってあげるよ」

 

香菜さんは腕にグッと力を入れて握りこぶしを作った。


「あらあら、香菜は昔からお姉ちゃん子だったけど、今も相変わらずなのね。」

 

確かに香菜さんはずっと、お姉ちゃん子でしたね。――でもこんなにべったりになったのは小学六年生の時からだったような?


「香菜さんがお姉ちゃん子なのは知っていますが、こんなにもべったりになったのは、小学六年生の秋を過ぎたぐらいでした」

 

私がそう口にすると、少しだけ部屋の空気が変わったのが分かった。なにか気に障ることを言ってしまったのでしょうか。


「そ、そうね。確かにそのくらいの時期だった気がするわね。」

「お、おう。確かにそのぐらいの時期だったな。」

 

そういう二人もなんだか気まずそうになっています。


「お姉ちゃん、私、先、部屋に行ってるから、ゆっくりしたら来てね? 必ずだよ?」

「う、わかりました。」

 

香菜さんに返事をすると、香菜さんはうなずいて、部屋を出て行ってしまった。そして、しばらくすると、ドアの閉まる音がバタンと聞こえてきた。


「なにかいけないことでも行ってしまったのでしょうか? 明らかにさっきとは空気がちがいますけど……」

「楓はきにしなくてもいいわ。 これは香菜の問題だから。」

 

お母さんが普段とは違う雰囲気をまといながらそう言ってきた。お父さんのほうも見てみたけど、うなずくだけだった。

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