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2章 バルザイ戦争開戦。その2 瀬名るい『瑠璃色スピードスター』(下)

――瀬名さんは魔法少女になった時から『バルザイ戦争』に参加していたわけですが、最初から大きな戦争に巻き込まれていると理解していたんですか?


瀬名 魔法少女になったきっかけは「『ネクロノミコン騎士団』に奪われた大切な宝石を奪い返すのに協力して欲しい」って、伝道師カテキスタのクッキーに言われたのが最初です。

『ネクロノミコン騎士団』が悪いことしてるのは知っていたので「協力するよ」と言ったんですけど、こんな大規模な戦いになるとは思ってませんでした。


──最初は魔法庁の存在も知らなかったそうですね。


瀬名 知らなかったです。

 だから、何をするにしてもすぐピンチになっちゃって(笑)。

 超ピンチって時に『魔セン』(『国立魔法研究センター』の略)に所属してる魔法少女が助けに来てくれたんですよ。そうそう、当時はまだ『魔セン』だったんですよ。私が所属して2ヵ月後に『魔法庁』に昇格したのを覚えてますから。


──来てくれたのは誰だったのでしょうか?


瀬名 『サンシャイン・スリー』の澁澤すくねとさんと秋山朔美さん。2人は北海道エリアのエースで埼玉なんかにいないんですけど、研修でたまたまこっちに来てて。

 澁澤すくねさんは優しかったけど、秋山朔美さんはイメージ通り凄く怖かった(笑)。「魔力の使い方が全然なってない」なんて噂の氷点下の目で言われたから、それだけで泣いちゃいそうになっちゃって。話せばいい人でしたけどね。


――『魔法庁』は『バルザイ戦争』の序盤から組織立った対応ができてたんですか?


瀬名 う~ん。小学生だったからそういうのはよくわかんなかったですね。でも感じとしては『エリア』別に魔法少女を配置してるだけだったんじゃないかな? 

『魔法庁』に昇格して、にの~さんが来てから……じゃなくて二宮さんが来てから、有機的っていうんですか? 必要のない場所には配置しないけど、日本のどこにでも駆け付けられる体制を作る、っていうのができるようになった気はしました。


──瀬名さんは日本中を移動して回ったそうですね。


瀬名 はい。あたしが得意なのは高速空中移動魔法で、誰もよりも早く目的地に着けるから、あっちこっちに応援に行きました。さっきも言ったことと被るんですけど、二宮さんが来る前って、けっこうデタラメなことが多かった気がします。

 空振りだったり、物凄く強い化物がいて、話と全然違う~、という感じで(笑)。

 でも、それで鍛えられたっていうのもありますけどね。


――エースとしての自覚が出たのはいつ頃ですか?


瀬名 炯子さんが大阪ドームで凄い戦いをしたのを見てからです。

 あの戦いで炯子さんはしばらく戦線離脱しましたよね。あたしがその穴を埋めなきゃいけないって強く思ったんです。

 そのことを二宮さんに言ったら、真樹沢湖さんのとこで修行をして来いって言われて。


「次回で紹介する『双影の巫女』こと真樹沢湖は『バルザイ戦争』の影の主役というべき魔法少女である」


──そこではどんな修行を?


瀬名 とにかく飛ぶように言われました。

 あたしは止まっちゃいけないって。

 攻撃する時も防御する時も、とにかく飛び続けるんだって。


──具体的には?


瀬名 あたしって最速だとマッハ1くらいで飛行できるんです。

 風圧が凄いから前面に風除けの防御魔法を展開させないとダメで、それとGに耐えるための重力魔法も。

 飛行魔法、防御魔法、重力魔法。この3つを常時展開しないとマッハ1は出ないんです。常時3つというのは当時のあたしの限界。だから攻撃する時は、スピードを落として、重力魔法を停止して攻撃魔法を打っていたんです。

 だけど、銃弾と一緒で魔法も発射速度が速いほど破壊力が増します。慣性の法則は魔法にも適応されますから、マッハ1で攻撃魔法を打てば、とりあえずどんな魔法でも初速にマッハ1が加算されるわけです。これは大きなアドバンテージです。


──そういった内容は真樹沢湖さんが考えたんですか?


瀬名 真樹沢湖さんが考えたのを自分なりにアレンジして、という感じですね。

 真樹沢湖さんが考えてくれたのは2つの攻撃パターンです。

 まず一つは、スピードを落とさずに、攻撃する瞬間だけ重力魔法を停止する、という方法です。

 旋回さえしなければ重力魔法はそんなに必要ないから。でも実際の戦闘では旋回しながら攻撃魔法を敵に打ち込むことがどうしても必要で。そこは気合でカバー(笑)。

 首を捻挫しちゃったり肋骨が折れちゃったりもしましたけど。

 肋骨が折れる時は体の中から、バキバキバキって凄い音がするんです。うひゃ、折れてる折れてる、って焦っちゃいました(笑)。

 それと内出血も多かったな。内出血っておもしろいんですよ。


──おもしろいんですか?


瀬名 おもしろいんですよ(笑)。わき腹の内出血を放っておくと、重力に引っ張られて皮膚の下で血が移動して次の日にはお尻のとこが赤くなってるんです。あれれ~? こんなとこ怪我してないはずなのに……? と最初は不思議でした(笑)。傷跡が移動する、変な魔法をかけられたのかと思いました。

 あ、話がそれちゃいましたね。

 もう一つの攻撃法は、上空から敵に向かって急降下しながら飛行魔法、重力魔法を停止。その分、前面の防御魔法を超多重展開して、自分を弾丸にして、敵にぶつかっていくという攻撃方法です。これは巨大な敵に有効でした。


――どちらも危険を伴う攻撃法だと思いますが。


瀬名 そんなことないですよ。だって近距離をマッハ1で飛ぶモノを正確に攻撃するのって難しいですもん。

 止まってる方が全然危ないです。


――バカバカしい質問かもしれませんが、瀬名さんが戦い続ける理由って何ですか?


瀬名 え?

 ……んと、それは本当にバカバカしい質問です(笑)。


(彼女は大きく胸を張った)


瀬名 だって、あたしは戦闘系の魔法少女です。あたしが戦わなかったらみんなが困っちゃうじゃないですか。


――でも戦うのが怖かったり、嫌になったりはしないんですか? 骨が折れたり、内出血するのは嫌じゃないんですか?


瀬名 それは怖いし、嫌だけど……。

 名前は出しませんけど……。

 炯子さんの『大阪ドーム事件』ってモニターで見れたんですよ。

 そんなの見たくないって言う人もいました。だけど、二宮さんが見ることを強制したんです。見ているうちに泣き崩れて、もう戦いたくないって言い出す魔法少女もいました。戦うのが怖いって、死ぬのが怖いって。


――それは当然の反応のような気がします。


瀬名 そうですか? その気持ちがあたしにはよくわかんなくて。


――わからない?


瀬名 わかる気はするんですけど、感情の部分ではわからない。

 理解が追いつかないと言えばいいんですかね?

 死ぬのは絶対に嫌だし怖いけど……。

 あたし達って大勢の人達の笑顔を守るために戦っているわけじゃないですか。その結果が死だとしてもそれは受け入れて当然なんじゃないかなって。


――当然でしょうか? 瀬名さんは自分自身の笑顔を守りたいとは思わないんですか?


瀬名 それはいつも守ってます! みんなが笑顔だったらあたしも笑顔だもん! みんなの笑顔が欲しくて、あたしが笑顔でいるために戦ってるんです。

 ……『大阪ドーム事件』の時、戦いたくないなんて言い出す魔法少女を見て、みんな私と同じ考えじゃないんだってわかって、凄くショックでした。

 だから余計にあたしがエースになるしかないって思ったのかもしれない。


――瀬名さんのように考えるのは理想なのかもしれませんが、その考えはどこか危うい気もします。


瀬名 そういえば『ブックマスター』の菊地キタさんにも当時、同じこと繰り返し言われましたね(笑)。5年もたったのに同じこと言われるなんてあたしってやっぱりバカなのかも(苦笑)。

 ……言っておきますけど、あたしは死ぬ気なんか微塵もなくて。

 むしろ自分だけは死なないってどこかで思ってるところがあります。

 だからその……。マリオンちゃんにも言われたんです。「死に対する想像力が欠如してるから危ないことするんだ」って。「そんな危険な人を好きになったら、私は不安で毎日死ぬような思いをすることになる」って。

 ……でも、あたしが危険なことしなかったら他の人が危険なことするだけですよ。

 結局、誰かが危険なことするんですから、それがあたしでもいいんじゃないかな、って。


――もしかしたら、そうなのかもしれませんが……。


瀬名 あたしは大丈夫。絶対に死なない。みんなの笑顔さえあればどんなピンチだって、絶対に平気なんです!


 瀬名るいは紫堂炯子とはまた違う危うさを漂わせていた。


 現在、彼女の出動回数は落ちている。後進の育成のためと、将来の大学受験に向けての勉強時間の確保のため、そういった方針を魔法庁が立てているのだという。


 国立大学に入学できれば学費全額免除だが、私立大学の場合は半額免除なので国立大学に行かないとまずい、と瀬名るいは笑いながら言っていた。

(後日、二宮慶一郎に聞いたのだが、私立大学入学でも別の名目で支援金が出るのでほぼ全額免除になるのだそうだ)


 瀬名るいは、今は強力な魔力を持っている。しかし、ほぼ間違いなく数年のうちに魔力は低下を始めることになるのだ。

 魔法少女として生きてきた少女達のその後の人生を考えて、魔法庁では少女達への教育に力を入れようとしている。


 瀬名るいが魔力を失った時にどのような人生を送るのかに不安を覚えるのは僕だけではない、ということなのだろう。


 インタビュア/渡辺僚一

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