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2章 バルザイ戦争開戦。その2 瀬名るい『瑠璃色スピードスター』(上)

 5年前。埼玉県入間市の茶業公園で小学5年生だった瀬名るいはハムスター型の伝道師カテキスタと出会い、魔法少女『瑠璃色スピードスター』として覚醒した。


 5年前。それは『バルザイ戦争』の始まった元化14年である。

 結果としての話だが、彼女は戦争のために生まれた魔法少女だと言っていい。


 魔法庁のエースとして活躍することになる彼女の覚醒がなければ、バルザイ戦争の終結までの時間はかなり長引いただろうと言われている。


 ニラ畑に囲まれた『多目的魔法研究センター』の敷地内に魔法少女達の通う小中高一貫の小さな学校『魔礼学園』と『なでしこ』寮がある。

 諸事情で親元を離れ、ここで生活する魔法少女が19名在籍している。

 高校1年生の瀬名るいもその1人だ。

 授業終了後、西日のさす学内の食堂でこのインタビューは行なわれた。


 彼女たちが生活している場の空気を伝えるため、今回のインタビューの冒頭部分に関しては、あえてノイズ的な発言を残すことにした。


瀬名 今日はよろしくお願いしますっ! 

 飲み物も出せなくてスミマセン。

 この時間の食堂って、ガスも電気も落としちゃってるから、お茶やコーヒーを出せないんですよ。


──もしかして、この時間は学内の電気は使えないんですか?


瀬名 いえ、ここだけです。なんでかっていうと……。ほら、壁とか凄い厚いし、窓もガラスも防弾で、シャッターが下りるようになってまよすね。何かあった時にこの建物が防衛拠点になるからなんです。

 電気系の魔法からの攻撃を防ぐために落としてるんです。

 電気が通った状態だと、そこから侵入してくる化物がいますから。

 夏場にここにこもることになったら最悪だなっていつも思うんですけど。きっとサウナにいる方がマシ(笑)。

 あっ、えっと……今日はよろしくお願いします!


(瀬名るいは、はきはきと挨拶をすると、どこかギクシャクとした仕草で顔を近づけてきた)


瀬名 ……あの~、あたしって物忘れが激しくて……。もしかして、渡辺さんと前にお会いしたことありました?


――いえ、初対面です。


瀬名 ですよね。スミマセン。なんか雰囲気がなんかこう、あたしの身近な人達に近いような気がして。あ、そうだ! にの~さん、に変なこと言われませんでした?


――にの~さん、とは?


瀬名 あ、スミマセン。主任の二宮さん。あたしより先にインタビューしたんですよね? あの人、すぐに変態ぶるから、みんな困ってるんですよ。

 本当はいい人なんですけどね~。あの人は偽悪的っていうか……。

 そういうのがカッコイイと勘違いしてる痛いとこがあるんですよね。しかも、そういうとこを可愛いとまで思われたがってる雰囲気もあって(笑)。

 そういうのよくないと思うんですよ。


高河 あ~、瀬名ちゃん男の人に顔を近づけてる!


雁 本当だ! 本当だ! エッチだ! るいちゃんまたエッチになっちゃってんじゃん!


「食堂に入ってきたのは高河純と雁うめの2人だ。どちらも13歳の中学1年生。2人組で活動する『ゴエーテイアズ』という魔法少女だ」


瀬名 うるさいっ! またって言うな! あたしはエッチになんかなったことない! 入って来たらダメだって言ったでしょ!


高河 ねっ? ねっ? 瀬名ちゃんにキスされませんでした?


瀬名 なっ! 何を言ってるの! しょ、初対面の渡辺さんにそんなことするわけないじゃない!


雁 だって、だって! るいちゃん、外部の男の人に会うのすっごい久しぶりだって言って、朝からそわそわしてたじゃん!


高河 そうそう。緊張のあまりわけわかんなくなって、マリオンちゃんにキスしちゃったことあったからさ~。あれの再現になるんじゃないかって……。


雁 そう! またそういうことしちゃうんじゃないかって不安になって、様子を見に来てあげたんじゃん!


高河 そういうことになったら止めなきゃって! 私達の優しさだよ、瀬名ちゃん!


瀬名 出て行け! すみやかに出て行かないとぉ!


高河 うわっ?! 瀬名ちゃん、手がバチバチ言ってるよ? で、電撃をためてる?!


雁 と、と、年下相手に大人気なさすぎじゃん? しかもお客さんの前で!


高河 そんなんだから、マリオンちゃんにふられるんだ!


雁 そうだぁ!


瀬名 ……うううっ! あわわわっ! ……くうぅぅぅぅぅ! び、り、び、り、したいのかぁ!


高河 したくない! したくない!


雁 渡辺さん! 貞操に気をつけて!


瀬名 余計なこと言わないで、とっとと出て行きなさいッ!


(2人はバタバタと食堂から出て行く)


瀬名 はぁはぁはぁっ。あっ、す、スミマセン。あの2人はちょっと元気すぎるもので。


――マリオンちゃんというのは『マリオン・リー』さんのことですか?


瀬名 あ、はい。知ってると思いますけど『魔石事件』にマリオンちゃんも関わっていて、ここで半年くらい生活していたことがあったんです。


「『ネクロノミコン騎士団』は敗北後、世界の各地に『魔石』を残していった。それは魔力を蓄積できる石で、使いようによっては核兵器なみの力を発揮するものだった」


「『魔石』を欲した鄭財閥から日本に派遣されたのが『シルバーウイッチ』マリオン・リーである。マリオン・リーは瀬名るいとの激闘に敗北した後、半年に渡って『多目的魔法研究センター』で生活していた」


瀬名 いや、あの……えっと、その……あの2人が言ってた、き、キスっていうのは、なかなかマリオンちゃんが心を開いてくれないから思い切って抱きしめたんです。

 そしたら、その……マリオンちゃんが目を閉じてじっとしてるし、唇がやわらかそうだったからついしちゃっただけで……。

 それにふられたというのは、ルームメイトにならない? と提案したら断られただけのことで、そっ、そっ、そういう意味じゃないんです!


雁 るいちゃんは女も男も好きだもんね! あの男の人ってカッコイイよね~、とかすぐ言うじゃん。


高河 バイセクシャルなんだよね?


瀬名 ぬ、す、み、ぎ、き、を! するな!


雁 ひあっ!


(高瀬るいは二人を部屋から追い払って施錠する)


(少女たちの雰囲気で当てられてやや疲労を覚えたが、彼女たちの元気な日常の姿を見て安堵していた)


瀬名 確かにあたしはマリオンちゃんに特別な感情を持ってます。マリオンちゃんが困ってるなら今すぐ助けに行きたいと思っています。

 でも、そういう気持ちと恋愛を簡単に結び付けられたら困るというか……。い、一応、言っておきますけど、あたしは男性とも女性ともお付き合いしたことはありませんから!

 というか、あたしの恋愛観を聞くのがこのインタビューの趣旨じゃありませんよね?


――話の流れで聞きますけど、どのような魔法少女がこの『魔礼学園』で生活しているんですか?


瀬名 どのような?

 ん~、いろいろあるんですけど、あたしの場合は自主的に、ですね。実家は喫茶店を経営していて家族仲も良好で、親元を離れなきゃいけない理由はないんですけど……。

 だけど、一応、関東エリアのエースなので、何かあった時にすぐ出動しないとみんなに迷惑かけちゃうから。だから、ここにいることを志願したんです。


――他の魔法少女達は自主的にではない?


瀬名 何人かは自主的ですけど。

 ……例えば、さっきの高河純と雁うめの『ゴエーテイアズ』はご両親が不安になっちゃって。


――不安ですか?


瀬名 生まれる前の話だから詳しくは知らないんですけど、昔の魔法少女ってもっと牧歌的な存在だったらしいじゃないですか。

 だけど『黒魔術大感染期』から悪の組織との戦いに巻き込まれることが多くなって。そういう娘を抱える家族の精神的負担って凄く大きいらしいんです。


「前述したが、僕が魔法少女達へのインタビューをする切っ掛けとなったのは、まさにそのような書き込みを掲示板で見たからである」


瀬名 だから、こっちに預けるってことが増えちゃったみたいです。

 そもそも『ゴエーテイアズ』は非戦闘系の魔法少女だから、何もなければ普通の毎日を過ごせてたはずなのに……。

 それなのに結界とか遠視とか感知とかの戦闘補助魔法の訓練ばっかりさせられて……可愛そうなんです。いつか、また昔みたいに魔法少女が受け入れられるようになればいいんですけどね。


「娘が魔法少女であることを隠す家庭は多いという。また魔法少女が持っている強い正義感が理由で家庭が崩壊してしまう、ということも少なくないらしい」


――『マジックプリンセス』の紫堂炯子さんはここに通ってないんですか?


瀬名 炯子さんは時々、ここの(『多目的魔法研究センター』)訓練施設に来て、訓練に参加するだけですね。学校の方が忙しいみたいだし。今は勉学が中心の生活だって前に言ってましたよ。


――瀬名さんは外部の学校に通いたいと思わないんですか?


瀬名 ……正直に言うと、たまに思います。本当にたまにですよ?

 でも、あたしはエースだから。一番最初に危険な場所に駆けつける義務があるんです。それにあたしが外に出ちゃったら……その……。別に好意を押しつけてるとかじゃなくて。

 だけど、その……事実として。絶対にそうなってしまうという話として……。

 あたしがいなくなったら、炯子さんがここで寝泊りすると思うんです。

 関東エリアであたしの代わりができるのって炯子さんだけだから。炯子さんってあたしよりずっとずっと大変な目にあったから、その分、自由な生活をして欲しいなって思うんです。

 あっ、これはその……あたしの正直な気持ち。

 好意を押し付けてるとか、そういうことじゃないんです。


──ここでの生活は不便ではありませんか?


瀬名 ちょっとはそういうとこありますけど、みんな親切で優しいし。

 それにここだけの話なんですけど、軍とこっち(魔法庁)で共通の慰問窓口があるんですけど、有名芸能人の慰問優先順位はこの施設が一番上(笑)。窓口の方から誰を見たいですか? って希望を聞いてくれることもあって、それが割と通っちゃったりするんです。

 だから無料でライブとか沢山見れて、それはラッキーだなって思います。

 サインとかもらえますし、握手できますし、お土産とかくれるし(笑)。

 

 瀬名るいインタビュー(下)に続く。

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