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2章 バルザイ戦争開戦。その1 二宮慶一郎(下)

二宮慶一郎インタビュー(上)からの続き。


──魔法少女の数が減ってる?


二宮 そう。魔法少女の数が減ってる。これはオカルトの話じゃなくて、統計でちゃんと出てる。

 どこかの誰かが覚醒前の少女を殺しまくってるとかじゃなければ『ネクロノミコン騎士団』の壊滅によって、悪が減ったから善も減ったと考えるのが妥当……かもしれない。

 あ~、あのさ。試しに魔法少女を全員、我々の意思で殺してみたらどうなるんだろうね? それで答えが出るような気がするんだよね。


――殺す? 何の例えでしょうか?


二宮 何の例えでもなく、そのままの意味だよ。

 殺すんだ。


──……? 殺すと答えが出るとは?


二宮 愛と勇気と正義の象徴たる存在をみんなで殺すんだ。

 バンバン拳銃で撃ってしまえばいいさ。騙して一列に並ばせて機関銃で一掃というのもいいかもしれないね。

 それとももっと猟奇的な殺し方がいいかな?

 うまいこと騙して魔法少女同士を戦わせるというのもいいかもしれないね。


――そういう話はいいですから。それでどのような答えが出るんですか?


二宮 そうやって殺したら、悪の組織はもう二度と現れないんじゃないかと俺は思うけどね。だってその時の我々は、悪そのものだもん。悪の組織はもう必要ないよ。

 そしたら我々を倒す、より強力な魔法少女が現れるのかな?


――今の発言は掲載してもいいんですか?


二宮 いいよ。魔法の研究なんかしてる科学者はマッドっぽい方がみんなの期待通りだろう?

 それにさ、見てみたくない?

 いじらしく健気な可愛い少女達がさ、守るはずだった人々に裏切られて惨殺されていくとこ。サディステックな渡辺さんなら、そういうことを想像しちゃうことあるでしょ? 俺は見てみたいな~。


――そういうことを考えたことはありません。


二宮 嘘だね。

 知ってるかな? 北方祐介ってフランス文学に傾倒してる高名な作家が書いてたよ。

『僕の中の魔法少女は聖女であり娼婦である』って。これほど、魔法少女に対する僕らの希望と欲望をストレートに表現した言葉はないと思うんだよ。

 ったく、みんな変態だぜ。嬉しくなっちゃうよね?

 我々にどういう価値を見出して、魔法少女達は戦ってくれるんだろうね?


――……そういったことを考えて、魔法少女を支援することができるんですか?


二宮 はっは~、怒っちゃったかな?

 こんなもんはただの妄想さ。ウチの魔法少女を傷つける奴がいたら、俺はそいつを殺したいと思うよ。

 全力で彼女らを守るのが自分の仕事だと思ってるし、それをやっているつもりだし、他人にそれをやっていると認められているから、今の立場にいるんだとも思ってるよ。


――守りながら、殺したいという妄想を抱いている?


二宮 誰だってそうだと思うよ。変な事を言ってるかな?

 大切なものを守りたいけど、派手に壊されるとこも見てみたいもんだろ?

 ただの一般論だよ。もちろん、優先されるのは守りたいって気持ち。

 理屈や理由がどうあれ、異世界から悪の組織が来るなら、俺達は戦わないといけないんだ。そしてこっちは大人なのに、少女達に頼らなきゃいけない。支援することしかできない。

 この歯がゆさっていうのは相当なもんだぜ?


――それはそうでしょうね。


二宮 そうでしょうねって、本当にわかって頷いた?


──わかってはいるつもりですが。


二宮 紫堂炯子に会ったんでしょ?

 彼女が右肩を下げてるのに気づいた?

 コブ茶を飲む時、右利きなのに左手を使ってるのには?

 腕時計のつけ方で右利きか左利きかくらいわかっただろ?


――気づきませんでした。


二宮 『バルザイ戦争』の中期だ。

『ネクロノミコン騎士団』が『アウラニイス』って黒い魔獣を投入したんだ。まぁ、でけぇ犬みたいなもんだな。初期の『ネクロノミコン騎士団』の攻撃は散発的っていうかな、ある特定の町に数体の魔物を送り込んで人々を襲わせるだけだったんだ。

 それ以上のことはしなかった。

 それなのに奴らが大阪市の西区に投入した『アウラニイス』の数は300。規模がでかいから、こっちのMWⅠL(多世界探知機)がビンビン反応してくれた。おかげで、市民の避難誘導は手早くできたけどね。


──それは『大阪ドーム事件』の話ですか?


二宮 そう。紫堂炯子こと『マジックプリンセス』が滅茶苦茶になった事件。


「大阪ドーム事件とは『マジックプリンセス』こと紫堂炯子が300体の化物に1人で立ち向かい勝利した事件である。大阪ドームは屋根が破れるなど大きく破損し、現在は屋外球場として使用されている」


――なぜ『マジックプリンセス』が1人で立ち向かうことになったんですか?


二宮 歴史が古いせいなのかな? 関西圏って神道系の魔法少女が多いんだけど……まぁ、そんな話はどうでもいいや。

 そいつらがみんな鳥取や金沢とかの日本海側に出ちゃっててさ。後になって考えれは陽動だよね。

 その時に大阪にいた魔法少女は『ファンシーななな』と『マジックプリンセス』だけだったんだ。しかも『ファンシーななな』は非戦闘系の魔法少女なんだよ。

 だから『魔法庁』じゃなくて『さわやか魔法事務局』に所属してるんだけど、無理を言って周囲に結界を張ってもらった。

 大阪ドームに『アウラニイス』を誘導したのは彼女の功績。

 被害を抑えるのにいい判断だったよ。だけど彼女ができたのはそこまでだった。

 結界を張ったり陽動したりはできても、戦うことはできないからね。


――応援は間に合わなかったんですか?


二宮 数体の魔物とやりあったことのある魔法少女なら幾らでもいたよ。

 だけど300だぜ? そいつはもう軍隊だ。そんなもんとやりあうノウハウなんかない。

 それに、逐次投入が最悪の手段だってことくらい知ってるだろ?

 こっちも対抗できるだけの数を揃える必要があった。

 でもね『マジックプリンセス』はゾスで軍隊と戦ったことがあったんだ。彼女なら時間を稼げるかもしれない、というのがウチ(『魔法庁』)の判断だったんだ。


――つまり、時間稼ぎのために投入した?


二宮 そういうこと。それに彼女もやりたがっていた。自分しかそれができないってわかってたんだろうな。

 俺は半分以上……いや、8割方、彼女の生還はないと思った。

 俺の命令でここに待機してた『瑠璃色スピードスター』なんか「すぐに助けにいぎまずぅ!」なんて泣き叫んじゃって、思いとどまらせるのが大変だったぜ。

 それにしても、彼女は凄かったな。


──凄かったというのは?


二宮 『ファンシーななな』の遠視魔法をモニターにつなげて『マジックプリンセス』の一部始終をここで見れたんだ。斬って斬って斬って斬りまくってたね。

 彼女が自分のことを暴力だって言ってる意味、初めてわかったよ。

 ありゃ、ただの暴力だった。

 純粋な暴力だ。暴力が結晶化したら、きっとあの時に『マジックプリンセス』みたいな形になると思う。

 人間がやってるというよりも、自然災害に近いもんがあったな。


(二宮は少しの間、沈黙した)


二宮 ……こっからが大切な話なんだけどさ。

 戦いが終わった時『アウラニイス』の死体の群れの中で、彼女は瞬間移動を繰り返しながら剣を振り回し続けていたんだ。

 彼女だけ終わってなかった。

 鎧はぼろぼろの半裸で、右肩の肉をごっそり削り取られて血まみれだ。

 それなのに獣みたいな叫び声を張り上げて、血走った目で、死体の上で踊るように……。

 見えない何かと彼女は戦ってた。精神に異常をきたしているのは明らかだった。

 モニターを見てた連中は全員凍りついてたよ。

 恐かったな、アレは……。それと同じくらい美しかったな。

 ……んと、ごめん。話が長くなっちまったね。

 紫堂炯子が右肩を下げるのは、今も肉がごっそりとないからなんだよ。


――目立たないようにするために?


二宮 そういうこと。年頃の女の子だから、気になんだろうよ。んとさ、想像してみたらいいと思うよ。死体の群れの中で踊る彼女の姿をさ。

 自分は暴力だなんて本気で言っちゃう女の子の心の中をさ。

 渡辺さんはさ、そういうのにちゃんと気づいてインタビューできてるの?


――当事者ではない僕がそこまで深く理解してインタビューするのは無理だと思います。


二宮 だったらせめて彼女が右肩を下げてることくらい気づいてやってくれよ。

 いや、隠してるんだから紫堂炯子は気づいて欲しくないんだろうけどさ。だけど、大人が気づいてやんないとダメだろ。

 これだけの魔法少女に会っちゃったら、渡辺さんはもう関係者なんだよ。

 だから、その……くそっ。どうもこういうことになるとうまく言えないな。とにかく、彼女達が真っ直ぐに歩けるように気を遣えってことだよ。


――……わかりました。肝に銘じます。


二宮 ここ(『魔法庁』)にいるのは、1人残らず情けない大人だよ。だ

 からせめて、悪影響を与えないように彼女らの前じゃ立派なふりくらいしないとな。別に彼女らは、俺らを見習って情けない大人になる必要ねーんだからさ。真っ直ぐ歩けるようにさ、あんたも協力してやってくれよ。


 現在、魔法少女をバックアップする『魔法庁』の定員は2377名である。有事の際、1人の魔法少女のバックアップだけに20名以上の人員を割かねばならないため人手不足が懸念されている。


 インタビュア/渡辺僚一

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