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2章 バルザイ戦争開戦。その1 二宮慶一郎(上)

 茨城県小美玉市の航空自衛隊百里基地から自動車で20分ほど走ると、周囲をニラ畑に取り囲まれた建物が見えてくる。


『魔法庁』の『多目的魔法研究センター』である。


『魔法庁』に在籍する魔法少女達と彼女達を支える人々がここに勤めている。『バルザイ戦争』後、敷地は拡大され、今も拡張工事が進められている。


 36歳の二宮慶一郎はその名前からわかるように魔法少女ではない。男である。

 彼は魔法少女研究の第一人者であり『バルザイ戦争』の時は現場の指揮者でもあった。


『バルザイ戦争』で彼の果たした役割は大きい。


『バルザイ戦争』を中心として何かを語ろうとすれば、彼を外すことはできないと判断したのだ。


 日本を震撼させた『バルザイ戦争』とは何だったのか?

 彼の目から見た魔法少女とはいったいどのような存在なのか?


 インタビューは敷地内にある研究所のロビーで行なわれた。


二宮 あんたはサディストかな?


(熊を思わせる体型の二宮は、眠たそうな声で唐突に言った)


――そのような嗜好は持っていませんが。


二宮 嘘だね。

 あんたの企画書を読ませてもらったけどさ、ん~とインタビュー予定者のリストに上がっている名前は……。

『サンシャイン・ピンク』。

『エンジェリックピーチ』。

『焔霧の魔女』。

『マジックプリンセス』。

『瑠璃色スピードスター』。

『ブラックウィッチ』。

 うちのエースの『瑠璃色スピードスター』を除けば、みんな不幸な過去を持ってる連中ばっかりだ。なんだよ、これは?


――『バルザイ戦争』に関わった人々は多かれ少なかれ、そういった過去を持っているのはないでしょうか?


二宮 そうだけどさ、それを克服して幸せな生活をしてる魔法少女の方が多いよ?

 なんで克服できないような過去を持ってる魔法少女ばっかり選んだわけ?

 それって変じゃない?

 意図があるよね? その意図を聞いてみたいな。


――『黒魔術大感染期ブラックマジックパンデミック』から『バルザイ戦争』に活躍した代表的な魔法少女を選んだら、たまたまそうなってしまっただけです。


二宮 代表的って言うけどさ~。いや、まぁ、確かに代表的ではあるよ。

 でも、それを選んだのは渡辺さんの主観なわけでしょ?

 俺が選ぶなら半分以上は入れ替えるけどね。例えば『スケルツォピエロ』の熊倉ゆみが抜けてるのはなんでなの? 彼女は話すの割と得意だし、いいと思うんだけとね。


──それは自分なりに全体のバランスを考えてのことです。


二宮 本当は魔法少女のトラウマをほじくりかえすのが好きなんじゃないの?

 過去の辛い経験を思い出して身じろぐ少女見ると、股間が疼いてはぁはぁしちゃうんじゃないの?


(二宮は挑発的な眼差しを向ける)


――そのような嗜好は絶対にありません。確かに辛い過去を思い出させたかもしれませんが、こちらからそれを無理強いしたことは一度もありません。


二宮 ふ~ん、進んで口を開いてくれたってわけだ。


(間)。


二宮 ねぇ、渡辺さん。もっと自分のこと真剣に考えたほうがいいんじゃないか?


――どういう意味ですか?


二宮 だって魔法少女って普通はインタビューなんかに応じないもんだよ。

 変身前の姿ならなおさらね。

 変身前の姿をさらすのって、彼女らにとって結構な負担なんだよ。だって、普段は隠してるわけだからね。下品な例えになるけどさ、普通の人に裸になってくれませんか? と頼むとの一緒の行為だよ。

 それなのにこの企画書を読んだだけで、みんなあんたに協力する気になるんだ。これって変じゃない?


――協力していただいていることには感謝していますが。


二宮 いや、そうじゃなくてさ。あ~、もうまどろっこしいな。

 あ! なるほどな。あんたインタビューのプロだもんな。俺の口からなんでもかんでも言わせるのが商売だもん。その鈍そうな話術もアレだ、俺に全部喋らせるテクなわけだ。


――そういうつもりはありません。そろそろ本題に入らせていただいてよろしいですか?


二宮 まっ、別にいいけどさ。あんたは新手の伝道師カテキスタかもしれないな。


――僕はただのフリーライターです。冗談はそのくらいにしましょう。


二宮 はいはい。

 で、え~っと、俺に聞きたいのは『ネクロノミコン騎士団』についてだっけ? 


――そもそも『ネクロノミコン騎士団』はどうして、日本で事件を起こしたとお考えですか?


二宮 それは諸説あって明確な答えはないんだけどね。それはあんたも知ってるでしょう?


──二宮さんのお考えを教えていただけませんか?


二宮 う~ん……。戦争って突き詰めて考えれば物資の奪い合いだよね? 食い物と資源に満たされた状態で、戦争をしよう、ってことにはあんまりならないよね。何かが足りないから戦争って起こるよね?


――つまり奪うべき資源が日本にあると?


二宮 そこで意見が分かれるんだけどね。

 くだらない個人のプライドが理由で始まっちゃった戦争も世の何かはあるわけだからね。でもまぁ、自分も相手も満たされた状態だと、戦争は発生しづらい。

 だから『ネクロノミコン騎士団』は何かに飢えていたから攻めて来た、ということにしよう。

 とりあえず資源を狙ったと仮定しようか。

 まず除外されるのは宇宙に普遍的にある物質だよね?

 例えば、鉄とか水素とか、そんなものを奪いに日本に……というかわざわざ異世界に来る必要はない。

 まぁ、異世界がどうなってるかわからないから、本当はアルミやメタンが欲しいとか、そういう理由だったのかもしれないけどさ。

 でも、彼らが鉱山を開発したり、気体を収集していた、なんて目撃例はないわけだ。

 つまり、そういう資源を求めて攻め込んできた可能性は低いね。


――では、何でしょうか?


二宮 それがわかんないから困ってるんだけど。

 でも……一番、可能性が高いのは心じゃないかね。


――心ですか。


二宮 例えば、え~っと渡辺さんがインタビューした中だと……。

『サンシャイン・ピンク』と『エンジェリックピーチ』に『霧焔の魔女』は露骨に精神攻撃されてるよね?

 そこらへんの共通点から見てさ、他者の精神をなんらかのパワーに変える力を持っていて、それを集めに来ている、っていうのがスマートな考え方じゃないかな?

 そう考えると、彼らが普通の人じゃなくて、魔法少女を真っ先に攻撃する理由もわかるよね? 魔法少女っていうのは総じて、精神力の強い少女がなるものだからさ。

 もしくは、魔力を求めているのかもしれない。そっちの方がスマートかな?


――二宮さんはその意見を支持している?


二宮 難しいな。……半分だね。

 ただ、俺はもうちょっと根源的な話かなと思ってる。人間の歴史ってなんだろうね?


――それこそ多様な意見があると思います。


二宮 二元論、知ってるよね?

 体と心。

 陰と陽。

 カオスとコスモ。

 アートマンとブラフマン。

 意識と無意識。

 善と悪。

 人間の歴史ってさ、善が悪を駆逐してきた歴史だよね。


――そうでしょうか? 今でも悪と定義される行動が数多く行なわれていると思いますが。


二宮 それはそうだけどね。

 でもちょっと考えてごらんよ。

 例えば、殺人数はどうだい?

 汚職の数は?

 餓死する人の数は?

 伝染病で死ぬ人の数は?

 早死にする人の数は?

 奴隷の数は?

 別に何世紀でもいいんだが現代と16世紀を比べたら増えてると思う? 減ってると思う?


――……おそらく減っていると思います。


二宮 そう減っている。

 いや、減っているというのは相対的な意味でね。人口は増えてるから、伝染病で死ぬ人の数は増えてるだろうけど%としては減ってる。

 16世紀の平均寿命はだいたい15歳くらいなんだぜ。まっ、これは乳幼児の死亡率が高いからなんだけど。いや、死が悪いことだとは言えないけどね。

 ん~。例えば、言論の自由なんかはどうかな? 規制規制で酷いもんだけど、言論で死刑になる国って昔よりは減ってるんじゃないかな?

 とにかくここ100年だけでも悪はかなり減っているんだ。


──善悪は物の見方に左右されるのでは?


二宮 うん。それはわかる。

 でもさ、理不尽な殺人を悪としない文化ってあまりないんじゃない? 理不尽な殺人は今だってたくさん発生してるよ。でも、全体的傾向としては減ってるんじゃないかな?


――それが『ネクロノミコン騎士団』とどう関係あるんですか?


二宮 バランスが崩れてるんじゃないかな? それを修正するために悪の組織が現れた、というわけだ。

『ネクロノミコン騎士団』が他の悪の組織に比べて巨大だったのは、単純に善の象徴である魔法少女が増えすぎたからかもしれないね。


――待ってください。善と悪というのは人間が生み出した概念ですよね? ということは我々の悪を求める想いが『ネクロノミコン騎士団』を生み出したと?


二宮 ちょっと滅茶苦茶かもしれないけど、そういうことを俺は考えてるわけだ。現代社会ってバランスが善に傾き過ぎているのかもしれない。


――それは科学的に説明できることなんですか?


二宮 科学的と来たか(笑)。

 心理学と量子力学の合体技で証明しようとしてるけど……。ただね、心理学も量子力学も一歩間違えるだけでオカルトの領域だからね。どうも俺はオカルトの領域に迷い込んでるな、ってことは自覚してるよ。


――つまり科学的な説明はできないと思われているんですか?


二宮 んなこと俺だって知らんよ。ぶっちゃけた話がまだわかんないんだよ。こういう仮説を並べて、ああでもない、こうでもない、と言い合うだけでね。


(二宮は僕を手で制して黙考する)


二宮 ここまで言っていいのかわからないけど……。『バルザイ戦争』以降、魔法少女に覚醒する少女の数は減ってるんだ。


 二宮慶一郎インタビュー(下)に続く。

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