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1章 バルザイ戦争前夜。その3 大槻ゆん『焔霧の魔女』

 静岡県浜松駅から普通電車で1駅の場所に天竜川駅はある。駅から閑静な住宅地を東に向かって15分歩いた場所にあるのは、55年前に和光中学校だった建物だ。現在『魔法庁特別収容所』と名を変え、当時の姿のまま存在する。


 光文41年に高名な魔法少女の『ラケットさん』が魔法のラケットの力を使って、和光中学校で起こった火事を鎮火した。

 彼女のとった方法は異常であった。水を呼び出したり、酸素を移動させたり、といった魔法を使わずに、炎そのものを消滅させたのだ。


 つまり形を変えたり、生み出したり、移動させたりするのではなく、消す、という現代の魔法少女が絶対に起こせない魔法を使ったのだ。


 その魔法の影響で『和光小学校』は炎だけでなく、魔力も消えてしまう場所となってしまった。


 誰も魔法を使うことのできないそこは、罪を犯した魔法少女を収監するのに最適な場所となったのである。


 今までに収監された魔法少女は2名。


『ブラックウィッチ』こと須藤玲子。

『焔霧の魔女』こと大槻ゆん。


 そして2人は今もそこにいる。


 8年前の元化7年。富山県大山町の下滝中学校で、ほぼ同時に5人の魔法少女が生まれた。


 彼女達は『魔法少女同好会パリット』を結成する。

 メンバーは地魔法の原史子、水魔法の津原萬里、火魔法の大槻ゆん、風魔法の冲方ヒサエ、光魔法の川原敏江。彼女達は身の回りの出来事を魔法でよりよい方向へ変えるための活動を開始する。


 しかし、闇魔法を使う小池亜季の登場により、その方向を大きく歪められ、原史子、津原萬里、冲方ヒサエが死亡する、魔法少女史上最悪の事件を起こしてしまうことになる。


 大槻ゆんへのインタビューは『魔法庁特別収容所』の3階にある2年C組の教室で行なわれた。何度かのセキュリティーチェックの後、僕は1人で収容所に入り、指定された教室に入った。


『焔霧の魔女』は教室の窓際の一番後ろの席で頬杖をついて座っていた。驚いたことに、彼女の姿は写真や映像で見たことのある14歳のままだった。


――そこの椅子に座ってもいいでしょうか?


大槻 ボクの前の席のことを言っているならダメだ。そこに座っていいのは原史子だけだから。


――原史子さんとは『魔法少女同好会パリット』のメンバーだった原史子さんのことですか?


大槻 ボクが他の原史子のことを言うと思うの? 横もダメだ。そこは津原萬里の席。斜め前は冲方ヒサエの席だ。


――では、1つ机を挟んだここならいいでしょうか?


大槻 そこならかまわない。


――ありがとうございます。


大槻 ……くすくすっ。この女、頭がおかしくなってるな、とでも思った? 長い収監生活で気が狂ってしまったと思った?


――いえ、そんなことは思ってません。


大槻 暇なんだ。死んだ友達と一緒に学校生活をしている、なんて妄想にでもしがみつかないと時間が進まない。それだけだ。気が狂ってることくらい自覚してるから、気にしないでいい。


――『ブラックウィッチ』の須藤玲子さんと話すことはないんですか?


大槻 入監する時にチラリと姿を見ただけ。何を考えているのか知らないけど、あの女はずっと地下室にこもったままだから。……それで質問は? 渡辺さんになら何でも答えるよ。


――よろしくお願いします。どうして、肉体的に成長されていないのでしょうか?


大槻 そんなことも知らずにここに来たの? ここが特殊な空間だからだ。ここには入ってきたものを、できるだけそのままの形で保とうとする力が働いている。

 その様子だと、ラケットさんが炎を消す魔法を使ったわけじゃない、ということさえ知らないようだ。


――知りませんでした。


大槻 勉強不足だよ、渡辺さん。ラケットさんは、校舎が校舎のままであるように願っただけだ。その力で炎が消えたのであって、直接的に炎を消したわけじゃない。対象物を直接的な手段で消す魔法はない、というルールは誰にも変えられない。


――どうしてラケットさんの魔法に詳しいんですか?


大槻 こんな場所に7年間も閉じ込められたら、そのくらいのことは誰だって気づく。九字は知ってる?


――道教や陰陽道で使われる「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」の呪文のことですか?


大槻 それ。使用法はいろいろあるけど、基本的に結界を作るための呪文。九字を唱えながらこうやって……。


(彼女はピンッと伸ばした人差し指と中指で空中で縦線を引いた。続いて横線を引く。そしてまた縦線を、と空中に格子を作るように指を9回動かす)。


大槻 魔力を使ってこれをすれば、前面に対する簡易的な防御結界になる。9回というのは咄嗟にできる汎用性の高い回数であって、より強い防御を望むなら、格子の数を増やせばいい。曲線を描いて立体的な格子を作れば、簡単な結界を作ることだってできる。


――なぜ今その話をするんですか?


大槻 ふふふっ、渡辺さんは鈍い人だ。ラケットさんの持っている魔法のラケットを良く思い浮かべて欲しいな。


――魔法のラケット……。あっ。縦横に張り巡らされたガットのことですか? あれは確かに格子状です。


大槻 そういうことだ。あれは奇跡に近い魔法を発動させるラケットなんかじゃない。強力な結界魔法を瞬時に発動させるラケット。

 この話は覚えておいた方がいいよ。ラケットさんの魔法は奇跡じゃなかったけど、そのうちここで本当に奇跡のようなことが起こるとボクは思っているんだ。


――奇跡?


大槻 それはまだ言わないでおくよ。渡辺さん……自分は傍観者だ、なんて思ってたら大変なことになるよ。運命がちゃんと回った時にもう一度、ここに来て。


――運命? 僕はただのフリーライターですよ。


大槻 ねぇ、渡辺さん? もう何人かの魔法少女に会ったんでしょう? 匂いでわかる。


「この時、すでに僕は5名の魔法少女『サンシャイン・ピンク』『エンジェリックピーチ』『瑠璃色スピードスター』『マジックプリンセス』にインタビューをしていた」


大槻 くすくすっ。インタビューなんか大嫌いなはずの魔法少女に会ってしまえる自分に違和感はなかったのか?

 渡辺さんはね、好き好んで運命の輪に入ってきたんだ。覚悟しておかないとダメだ。


「すでに似たような忠告を次の章で登場する『魔法庁』の二宮慶一郎から受けていた」


――わかりました。覚悟しておきます。


大槻 本題に入ろうか。最初から語っていけばいいの?


――よろしくお願いします。


大槻 ボク達に伝道師カテキスタはいなかったし、アイテムもなかった。


「魔法少女になるパターンは大きく3パターンに分けることができる。

 A・魔法のアイテムを手に入れる。

 B・伝道師カテキスタの力によって目覚める。

 C・外部的要因なく目覚める。

 大槻ゆんは『C』に該当する」


大槻 ボクの場合、両親の霊感が強かったから、そうなったみたいだ。他の4人も似たりよったり。でも外的要因なく5人も同じ学校に集まってしまうのは異常だから、両親ではなく大山町が特殊なのかもしれない。そこらへんのことはボクにもよくわからない。


「魔法少女が誕生しやすい土地はあると言われている。外部と隔絶された歴史を持つ土地か、都市部がそうである」


大槻 当時『黒魔術大感染期』なんて言葉はなかったけど、魔法少女が悪の組織と戦う事件が頻発していたから、そういうことになってしまうのかも、とみんな緊張してた。

「もう覚悟を決めた方がいいかも」なんて深刻な顔でつぶやいてた津原萬里の横顔を思い出すよ。


――でもそうはならなかった。


大槻 うん。周囲の人達もビクビクしてたけど、何も起こらないから、すぐにいつもの日常に戻った。

 だけど、せっかく魔法が使えるのに何もしないなんてつまんない、と言い出した川原敏江がリーダーになって『魔法少女同好会パリット』を作ったんだ。


――名前の由来は?


大槻 くだらない理由なんだ。

 そのアイディアを思いついた時、川原敏江の食べていたパンがパリっと焼けていたから。それだけの理由だけど、ボクは気に入っているし、今も『パリット』の一員だと思ってるんだ。


――どのような活動をしていたんですか?


大槻 迷子の犬の飼い主を捜したり、運動部の応援で派手な魔法を使って盛り上げたり、商店街のセールを手伝ったり、用水路の掃除をしたり……。

 大きな活動といえばせいぜい水不足で悩んでた農家のために雨を降らせようとしたことくらいだ。


――メンバーには水魔法を使う人もいたんですよね?


大槻 いたけどね。津原萬里の水魔法では1週間気絶するほどがんばっても田んぼ1畝(せ・約100㎡)に水を満たす程度。

 だから科学の本を読んで雨の降らせ方を勉強したんだ。冲方ヒサエの風魔法で空にドライアイスをまいたり、私と川原敏江が協力して上昇気流を起こそうとしたり、原史子の地魔法と津原萬里の水魔法を組み合わせて地下水を探したり。

 でもどれもうまくいかなくて、そんなことしているうちに、結局ボク達の努力と関係なく台風が来て終わり。『魔セン』(『国立魔法研究センター』の略)の人から魔法で天気を変えようとするなって説教されたし、散々だった。


「許可なく大規模魔法を使用したり、広い地域に変化を及ぼす魔法を使うことは『魔法ニ関スル法律』によって禁止されている」


――そういった活動がずっと続いていた?


大槻 そう。闇魔法の小池亜季が転校してくるまでは。


――小池亜季は『ネクロノミコン騎士団』一員だったことが明らかになっています。


大槻 当時はそんなことに気づかなかった。ただ、暗い感じの女の子が転校してきたと思っただけ。彼女も魔法が使えるから『パリット』に勧誘したんだ。それが間違いだと気づいた時にはもう遅かった。


――彼女の魔法はただの闇魔法ではなかったと聞いていますが。


大槻 最初、彼女の闇魔法は外的に闇を生み出すだけのものかと思っていた。だから、学園祭のお化け屋敷くらいでしか使い道のない変な魔法だなぁ、なんて思っていた。


――でも、そうではなかった。


大槻 物事を深く考えないというのは怖いことだけど、深く考えるというのも怖いことだね。

 前者が彼女を入部させたことなら、後者は彼女の能力のことだ。

 彼女の本領は心の闇を刺激することだったんだ。

 ボク達は平気なふりして日常を過ごしていたけどいつも不安だったんだ。どうして自分達が魔法少女になってしまったんだろうって。どうして人と違うのだろう? って。そこを攻撃された。


――具体的には何をされたんですか?


大槻 不安を煽られたんだ。

 まず原史子は両親の離婚に関する不安を増幅された。ボク達は彼女を支えようとしていたけど、彼女はボク達の手を拒否するようになった。

 当然『パリット』は重苦しい雰囲気になる。せっかく魔法を使えるのに、そんな問題を解決することもできないのか、と各々が自分を責めるようになる。

 そして津原萬里が『パリット』をやめると言い出してしまって。ボクはそんなみんなの行動に裏があるんじゃないかと思ってしまった。


――裏とは?


大槻 『パリット』の中に悪い組織の人がいて、ボク達の団結を乱そうとしているんじゃないかと思ったんだ。

 些細な行動。例えば冲方ヒサエがハサミを持っているだけで、ボクを刺すつもりなんじゃないかと思って背中に嫌な汗が流れた。

 そんなわけない、と何度も自分に言い聞かせていたけど、そのストレスがついに限界に達したんだ。『焔霧の魔女』の誕生だ。


――小池亜季の闇魔法とストレスの影響でそうなってしまったわけですね。


大槻 言い訳するつもりはないよ。

 結局はボクの心が弱かっただけなんだから。それまでは小さな火炎放射器みたいに炎を出す能力だったのに、気づけばボクは炎を霧のように広げる能力を手に入れていたんだ。

 一直線に吹き出る炎から身をかわすことはできても、霧のように広がる炎からはなかなか逃れられない。


――どのように3人を殺害したんです?


大槻 くすくすっ。そこまで聞くのかい? 

 いいよ、渡辺さんは特別だ。話してあげる。

 まず一番邪魔になる水魔法の津原萬里の心臓を不意打ちで焼いた。霧のように炎を使えたからね。息を吸うのに合わせて、口から炎を入れて内臓を一瞬で焼いたんだ。外傷はほぼなかったから死体は綺麗なものだったよ。

 次に霧は風に流されるから、風魔法の冲方ヒサエを狙った。苦戦した。最終的には彼女の周囲を炎で覆って酸欠状態にして殺した。

 地魔法の原史子は臆病な性格だったから簡単だった。土壁を作って炎を遮断する防御魔法しか使わなかったからね。攻撃しかしない私と、防御しかしない原史子が戦い続けたらどうなるか考えなくてもわかるはずだ。


――次に狙ったのが、光魔法の川原敏江ですね?


大槻 ただ光を放つだけの川原敏江を殺すのが一番簡単だと思った。フラッシュでの目潰しさえ気をつけていれば楽勝だって。

 彼女自身気づいてなかったけど川原敏江は小池亜季と対をなす存在だったんだ。

 つまり私の心の光の部分を増幅させる力を持っていたんだ。

 今になって思えば彼女がリーダーで人気者だった理由はそれだった。

 川原敏江の能力で私は正気を取り戻して、自分が何をしてしまったのかに直面した。


――それから裁判がありました。話を聞いていると、あなたへの判決は無罪になるべきだったのでは?


大槻 いや、有罪。どんな理由があったとしても仲間を殺した魔法少女が外を歩いていいわけないんだ。

 少なくとも、それを上回る何かを手に入れるまではね。

 それに、ボク達は愛と勇気と正義の存在。ボクには心の闇に打ち勝つだけの愛も勇気も正義もなかった。それは大罪だよ。


――小池亜季のその後はご存知ですか?


大槻 当然知っている。『バルザイ戦争』で川原敏江に倒されたんだ。

 川原敏江が小池亜季をどんな気持ちで倒したのか想像すると、ボクはそれだけで身も心も崩れそうになる。彼女は傷つきやすいタイプだからね。


――事件後、川原敏江さんとの面会は?


大槻 毎月、会いたいって手紙が来る。そのたびに断っているよ。

 ねぇ、知ってる? あの事件後、私が面会許可を出したのは渡辺さんだけだ。


――面会を拒んでいるという話は聞いていましたが、僕が初めてだとは知りませんでした。どうして会ってくださったんですか?


大槻 ねぇ? 渡辺さん。終わりは始まりだよ。私の指先を見て。


「大槻ゆんの指先に小さな炎が生まれてすぐに消えた」


――ここは魔法が封じられた空間だったはずでは?


大槻 だけどボクは使える。マッチの炎くらいが限界だけどね。これの意味、いずれわかるよ。

 今日はここまで。もうすぐ午後の授業が始まるから。


――午後の授業?


大槻 そう。今は昼休みだったの。妄想の中の出来事だとしても毎日の日課はちゃんとこなしたいんだ。


――わかりました。


大槻 渡辺さんは必ずまたボクに会いに来るよ。渡辺さんがどう思っていようがね。それだけは確実だ。


 長年の収監で精神に異常をきたしているのは明らか。

 それが彼女へのインタビューを終えた僕の感想だった。しかし、後に、彼女が正気だったことを『魔法庁特別収容所』の崩壊とともに知ることになる。


 インタビュア/渡辺僚一

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