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4章 兆し。その3 大槻ゆん『焔霧の魔女』再び(中)

――待ってください! そんなのおかしいですよ! 年齢も性別も違いすぎます! 僕は少女じゃありません! 男です!


大槻 くすくすくす。彼女達の手助けするためには何をすればいいか、と思わなかったのかい?

 彼女達の代わりに戦うことのできない自分をもどかしく感じていたんじゃないのかい?


――それはそうですよ! その想いがこのインタビューをはじめたきっかけですから!


大槻 その想いをきっかけに、渡辺さんは魔法少女達を巡る旅に出たんだ。普通は行動に移したりしないよ。

 行動に移しただけでも、そうなる資格はあるさ。


──資格というのは、魔法少女になる資格、という意味ですよね?


大槻 そうだよ。


──でも、それは……。ただ僕がフリーライターという職業をしているからたまたまそうなっただけ、とも言えますよ。資格があるといわれるような崇高な気持ちを持っいたわけじゃなくて、ただ金のために企画を立てたのかもしれない。


大槻 仕事のためだとしても、行動してしまうほど強い想いがあった事実に変わりはないよ。

 突き動かされて、ここに来た事実は変わらないんだ。


──いや、だからといって……。


大槻 自分の気持ちに素直になってみたらどうだい?

 渡辺さんは魔法少女になりたいと思っていたんじゃないのかい?


――そっ、そんなことは……。そんな……。ぼっ、僕が、魔法少女に?


大槻 自分では気づいてなかったかい? それとも、気持ちを直視するのが恥ずかしかったのかな?


──わかりません。でも、思っていたのかもしれない。


大槻 くすくすくす、確かに30になろうという大人が魔法少女に憧れ続けているなんて、確かに恥ずかしい話なのかもしれないね。

 でも、ボクはそういう気持ち、美しいと思うよ。


──美しいですか?


大槻 他人のために何かしたい、という気持ちは、どのような形であれは、美しいものだとボクは思うよ。

 魔法少女になりたい、という気持ちはあるのだろう?

 そのことを否定できるのかい?


──否定……できないのかもしれません。でも……。僕が魔法少女に? そんなことって……。


大槻 魔法少女になりたくないと言うつもりかい? これだけの旅をしてきたんだ。

 渡辺さんは魔法少女が何なのか、すでによく知っているはずだ。


──いや、しかし……。待ってください。混乱しています。


大槻 ほら、やっぱり、ボクが言った通りになっただろう(笑)。


──僕が魔法少女に? 現実の話とは思えません。


大槻 ボクが渡辺さんの伝道師カテキスタになる。


──大槻さんが?


大槻 うん。実は変身のかけ声はもう考えてあるんだよ。いつかこうなる気がしていたからね。


──かけ声ですか。


大槻 そうだ。

「マジカルジェンダーチェンジ」だ。


(大槻は真顔で言い切った)


――ま、まじかるじぇんだちぇんじ? ちょ、ちょっと待ってください。何から言えばいいのか……。こ、こんな30前の男が変身したら相当に気持悪いことになりますよ!


大槻 外見なんか、どうでもいい。


──いや、しかし。……そうですね。僕も外見にこだわるつもりはありません。そんなことを考える余裕なんて、魔法少女にはないでしょうから。


大槻 渡辺さんは勘違いしているよ?


──どういう勘違いですか?


大槻 幼い外見なのに、変身したらお姉さんになる魔法少女は多いだろう。

 魔法少女に変身すれば、外見は変化する、

 そもそも30前の男は魔法少女ではないよ。

 渡辺さんが変身したら、渡辺さんが理想とする魔法少女になるだけだ。


――僕が理想としている魔法少女にですか?


大槻 そういうことになると思う。変身しないとわからないけどね。


「似たような話をインタビューで種村泉が語っていた」


──それは、つまり……僕が少女になる、ということですよね。


大槻 そう。渡辺さんは少女になる。


──変身を解いたら、元の姿に戻れるんですか?


大槻 普通は元の姿に戻ることになる。だけど、今回は奇跡を起こすんだ。やってみなければ、どうなるかはわからない。

 もしかしたら、変身を解いても、渡辺さんは少女のままなのかもしれない。

 戻れないのは困るのかい?


──それは、その……。僕にも生活がありますから、困ると思います。


大槻 だったら、変身はやめてもいい。

 それはそれでいい。渡辺さんの判断だ。

 ボクは1人でもちゃんと戦えるだろうからね。


――まっ、待ってください。1人でって言いましたか? もしかして、大槻さんは僕を戦力として期待しているんですか?


大槻 そうだ。


──どうしてですか? 僕は戦力として期待されるような行動をしたことはありません。魔法少女について、詳しくなりましたが、実際に戦ったことなんかないんですよ。


大槻 渡辺さんならきっと強い魔法少女になれるとボクは思っているんだ。

 自分じゃわからないだろうけど、魔法神経が渡辺さんの体を綺麗に巡っているんだ。

 期待しない方がどうかしているよ。


――そうなんですか?


大槻 そうだ。

 ……そろそろ混乱から立ち直ってくれないかい?

 似たような話をこれ以上、繰り返してもしょうがないだろう。


──あんなことを言われて、そう簡単に立ち直れるわけがありませんよ!


大槻 渡辺さんの魔法少女への想いが本物なら変身するし、それが今の自分を捨てる程のものでないなら、変身しないかもしれない。

 それだけのことだよ。


──それだけのことと言うには重すぎます。


大槻 そうかな?

 結果は嘘をつかないんだ。

 本当に、ただそれだけのことだとボクは思う。


──どういう意味ですか?


大槻 もし魔法少女になることを渡辺さんが願っているなら、いつかは変身する。

 願っていないなら変身しない。

 それだけのことなんだ。

 心の表面でいろいろなことを考えていたとしても、心の奥ではすでに結論は出ているんだ。

 だから、混乱していても、冷静でも、きっと結果は同じなんだ。


──僕が魔法少女に……。


大槻 渡辺さんが魔法少女に……。


──何度も聞きますが、本当になれるんですか?


大槻 何度も言うけど、試してみなければわからないよ。


──僕か魔法少女に。


大槻 …………。


──胸が痛いという感情表現に、僕は共感したことがなかったんです。


大槻 …………うん。


──僕の人生で、感情がたかぶって胸が痛くなる、なんてことは今までありませんでした。だから、どういう比喩的表現なんだろう? と疑問に思っていたんです。胸が痛いって変な表現だなぁ、って。そう思っていました。


大槻 ……今、胸が痛いのかい?


──痛いです。比喩じゃなくて、本当に痛い。胸の奥が締め付けられるように痛くて痛く痛くて! ……心の底から切ないです。


大槻 ボクの胸もよく痛むよ。

 胸は痛むためにあるんじゃないかと思っているほどだよ(笑)。


──こんな気持ちがあるんですね。


大槻 どうするんだい? まだ時間はあるんだ。ゆっくり考えたいなら、それでもいいよ。


――……マジカルジェンダーチェンジ、ですか。


大槻 心を込めて叫べばいい。それでわかるはずだよ。


――僕をからかっているんじゃないんですよね?


大槻 からかっているように見えているとしたら、ショックだね。


──スミマセン。そのようには見えません。でも、その……。


大槻 質問があるなら答えるよ。


──質問というか……えっと、その……。


大槻 動揺して口数が増えているだけかい?

 その気持ちもわかるよ。聞いてあげる、渡辺さん。

 ボクは渡辺さんの伝道師カテキスタなんだ。

 渡辺さんの力になれるように努力する義務がある。

 ボクをどうしてくれたっていいんだ。

 言ってもいい。心配で落ち着かないなら、ハグをしてあげたっていいんだ。


――…………僕は……。マジカルジェンダーチェンジ……ですよね。それで変身できるんですよね?


大槻 ボクはそう思っている。何度も言うけど、試してみるまでは本当に変身できるのかどうかわからない。


――さっきから何度も何度も同じことばかり言ってスミマセン。さっき大槻さんが言われたように、今の僕は動揺して饒舌になってしまっているのだと思います。


大槻 いいよ。ボクは聞くから。


──僕が魔法少女になって、彼女達を助けることができる。そんなことが本当にできるんですか?


大槻 ボクは不安なんだ。


──え? 大槻さんがですか?


大槻 こんなことを言うのは卑怯かもしれないけど……。ボクが自分の気持ちを隠しているのはアンフェアな気がするから言うよ。

 ボクは長い間、ずっとここに閉じこもっていたんだ。

 だから、外の世界に出るのが少しだけ、恐い。

 こんなこと言われても困るだろうけど……。

 渡辺さんが横にいてくれたら心強いと思うんだ。


──どうして僕が横にいると心強いんでしょうか? 僕である必要があるのでしょうか?


大槻 必要と言われても困るな(苦笑)。

 客観的に言えば、渡辺さんが魔法少女を助けたいと思っているその気持ちに気づいたから、そこに付け込んで、甘えようとしているのかもしれない。

 主観的に言えば……。

 渡辺さんは気づいていないだろうけど、ボクが一目ぼれたしたからかもしれない。

 もちろん、その……男としてではなく、魔法少女としての話だよ。


──…………。


大槻 そういう感情があったから、前のインタビューの時、あんな風に思わせぶりな態度を取ったんだ。それに引っかかって、またここに来てしまうなんて渡辺さんは不用心な人だ。


──僕は大槻さんを助けることができるでしょうか?


大槻 そうしてくれたらボクは跳ね上がるほど嬉しい。

 ボールを前にした仔犬のように喜んで見せるさ。

 渡辺さんは、もし少女だったなら確実に変身していたと思うよ。

 でも男。

 しかし、ここはありえない奇跡を起こせる空間なんだ。

 あとは渡辺さんの心の問題なんだと思うよ。


──わかりました。あの……言いたいことがあるのですが、いいでしょうか?


大槻 なんでも言ってくれていいよ。


──大槻さんが仲間を殺したのは変えようのない事実です。罪の意識にさいなまれているのもわかります。

 でも、命に代えて責任を取るなんて言わないでください。


大槻 どうしてだい?


──反省や後悔にはいろいろな種類があります。責任の取り方もそうです。その中に、誰かを殺したら自分も死ぬ、という考えがあることを僕は否定しません。


大槻 うん。


──……その、えっと……。

 これは僕の感情の話です。

 もし、僕が魔法少女に変身して、大槻さんを守ることができるなら、僕は自分の努力を徒労にしたくないんです。だから、大槻さんは死で責任を取ろうとしないでください。


大槻 渡辺さんは自分の都合で、ボクに死ぬなって言っているのかい?


──そうです! 


大槻 そんなことを断言するんだ。大槻さんのことを考えてとか言われるのかと思っていたよ(苦笑)。


──どこまでも、僕の感情の話です! 大槻さんの感情の話ではないんです! 僕に横にいて欲しいと本気で思っているなら、死で責任を取るだなんて考え方はやめてください! やる気を失います!


大槻 うっ、うん。


──わかってくれたんですか。


大槻 ……はっ、ははははは。

 そんなに強く気持ちをぶつけられたら断れないじゃないか……。

 渡辺さんに言われたから意見を変えるなんて、川原敏江に悪いな。彼女にも同じようなことを言われていたからね。

 川原敏江を嫌っているみたいだ。


──約束してくれたら、川原さんも喜ぶと思います。


大槻 そうだね。……わかった。約束するよ。


――はい。


大槻 ありがとう、渡辺さん。


── ……まっ! まじかるじぇんだーちぇんじ、まじかるじぇんだーちぇんじ、まじかるじぇんだーちぇんじ、まじかるじぇんだーちぇんじ、まじかるじぇんだーちぇんじ、まじかるじぇんだーちぇんじ……。


大槻 ……渡辺さん。


――……ま、マジカル! くっ! まっ! マジカルジェンダーチェンジッ!! マジカルジェンダーチェンジッ!!!!!!!


大槻 渡辺さんッ!


──マジカルジェンダーチェンジッ!!!!!!!!!!!!


「叫んだ瞬間、魔法少女達の多くが語っていたように全身に電流が流れるような痺れが走った」


「目の前が真っ赤になり、意識が遠のく。後に大槻ゆんに聞いた所、30秒ほど気絶していたそうだ」

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