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4章 兆し。その2 マツリ緑『(魔法少女名未定)』(上)

 僕が住んでいるのは神奈川県相模原市だ。


 平安時代は武士団横山党の領地であり、戦国時代は後北条氏、徳川幕府時代は旗本領である古い歴史を持つ土地だ。


 現在は都心へのベッドタウンとしての役割を果たす新興という側面も持つ。

 

 相模大野駅近くの商店街にある、大盛ラーメンで有名な店から出た僕は背後から話しかけられた。

 振り返った先にいたのは、思春期前の細く長い手足を持つ痩せた少女だった。


 マツリ緑。10歳。小学5年生。


 彼女はなりたての魔法少女だった。


 インタビューは駅前のファーストフード店で行なわれた。これは本作で唯一、突発的に行なわれたインタビューである。


 今回の場合は、実際の会話になるべく手を加えない形の原稿にした。


 ライターとしては失格なのだが、テーマを決めて原稿を組み上げることで、何かが抜け落ちそうな気がしたのだ。


マツリ (上目遣いににらみつけて)渡辺さん……にんにく臭い。


――ごめん。にんにくの多いラーメンなんだ。


マツリ そこ、おいしいの? おいしいなら今度、連れて行って。いいよね?


――おいしいけど、量が凄く多いから、女の子向きの店じゃないよ。


マツリ そっ。じゃ明日にしよう。


――話を聞いてた? 本当に凄く量が多いんだよ。


マツリ 量とか(嘲笑)。

 私はクラスで真っ先に給食のおかわりするし。昨日だって男子より多くカレーをおかわりしたし。3杯してやった。

 牛乳だって苦手な女子からもらえるだけもらうもん。

 はっきり言って、渡辺さんより食べないなんてことは絶対にないから。そっちは成長しきってんじゃん。

 私はこれからだし。限界とかないし。


「それを証明するように、彼女が注文したのは、メガハンバーガー、ロングホットドッグ、チキンナゲット、Lポテト、Lコーラだった」


――太りづらい体質なんだね。


マツリ そうじゃなくて大きくなってるから。

 昨日なんか1日で1センチ伸びてたもん。このままだと年内の2メートル超えも楽勝。私、びっくりするくらい大きくなるよ。


「彼女の身長は130センチ半ばくらい。平均よりもやや遅れて成長期が一気に押し寄せているようだ」


――魔法少女として目覚めたって話だけど。


マツリ 覚醒って言ってよ。目覚めたとか朝じゃないんだからさ。なんか私の話を聞く真剣さが足りないんじゃない?


──ごめん。覚醒だったね。真剣に聞いてるよ。


マツリ こっちは大切な話をしてるんだから、真面目にやってよ。


――わかった。その前にまず、どうして僕に話しかけたの?


マツリ はぁ? 何を言ってるの? その質問は変でしょ?

 私みたいのが渡辺さんに会ったら、話しかけるのが普通じゃないの? 私、変なことした?


――僕が魔法少女にインタビューをしているって知ってたわけ?


マツリ 知るわけないじゃん。だけど渡辺さんって仲間でしょ? 隠してたってそういうのわかるよ。


――どうしてわかるのかな? 僕には心当たりはないんだけど。


マツリ もう完全にバレてるんだから、隠さなくてもいいってば。

 渡辺さんってそういう雰囲気が凄いんだから。とにかく関係者なのは間違いないでしょ?


──関係者といえば関係者かもしれないけど……。


マツリ だったら私の話を聞いて。私って覚醒したばっかりで、何をどうしたらいいかの全然わかんないんだから、助けてよ。

 学校のカウンセラーに相談するのがフツーなのかもしんないけど、ウチのカウンセラーってエロい顔してるから、そういうこと話したくないんだよね。

 っていうか、魔法の関係者以外に話したら、遠回りっていうか、余計に面倒なことになりそうじゃん。


――それなら『さわやか魔法少女事務局』か『魔法庁』の人を紹介するけど。


マツリ ん~。でもさ、目の前に渡辺さんがいるわけじゃん。

 最初に相談するのは渡辺さんがいい。だって、こういうのって運命でしょ? 違う? 

 関係者の数なんて少ないわけでしょ?

 それなのに出会ったわけだからやっぱり運命だよ。

 まずは渡辺さんがちゃんと話を聞いてよ。

 私がそう決めたんだから、渡辺さんも大人らしく覚悟してよ。


――勝手な言い分だね。


マツリ 子供のトッケンって奴? ほら、アメあげる。私、すぐにお腹がグーグー鳴って恥ずかしいから持ち歩いてるの。


(そういってイチゴミルク味のアメを僕に渡して、勝ち誇ったように笑う)


マツリ これで契約成立ね。


――わかった。聞くよ。その代わり録音させてもらうからね。


「彼女から許可を取る前にスマホのボイスメモを起動させていた」


マツリ そんなの渡辺さんの好きにしていいよ。そんじゃ話すね。


──うん。


マツリ ……んとっ、私って多分あんまり喜ばれないタイプの魔法少女だと思う。


──喜ばれないタイプ? それは破壊衝動があるとか、恨みの力で魔力が発動するとか、そういうこと?


マツリ 違う、違う。そういうのは全然ない。喧嘩を仕掛けてくる男子を殴ったりはするけど、それは、降りかかる火の粉を払う的な? 向こうから来たらそれは殴るよ。こっちが正しいって気持ちがあるから全力で殴るよ。

 でも、そういうので魔法を使ったりしたことはない。


──じゃ、どういう魔法なの? 例えば、火の魔法とか、水の魔法とか、属性はわかる?


マツリ 私のはそういう地水火風じゃない。

 どこから話せばわかりやすいかな?

 えっと……。気絶ごっこ知ってる? 首の太い血管を指で押さえると気絶しちゃうんだ。それで気絶させたりさせられたりする遊び。くらくらふら~ってしておもしろいんだ。私はそれが凄く得意。


――あんまりほめられた遊びじゃないな。


「僕が小学生だった頃にはそのような遊びはなかったが、後日調べると小学生の間で数年ごとに流行っている遊びらしい。無論、禁止されている危険な遊びだ」


マツリ ほめるとか(笑)。

 ほめられる遊びなんか楽しくないじゃん。

 スリルがない遊びなんかやる意味ある?

 すべり台やブランコだってスリルがあるからやるわけでしょ?

 そういうのに飽きたら、血管を押さえるしかないじゃん。


──ん~。言いたいことはわかる気がするけど、死に近づくような遊びはやめた方がいいよ。


マツリ あー、もう、そういう説教はいいから。

 とにかく、私ってそれが凄い上手。最初は首の血管を押さえていたんだけど……。なんとなく血管以外でもできる気がして。顔にふれるだけでもやれる気がして、やってみたら、やっぱりできた。


――顔にふれるだけで? ……顔に太い血管は走ってないよね。


マツリ 当たり前じゃん。だからこれは変だなってわかった。そうやって気絶させたのは一回だけ。

 私はバカじゃないから、そういうのを自慢したりしないから。


――賢い女の子ってわけだ。


マツリ まっ、ね(笑)。


「話の内容から、この時に彼女が発動したのは相手の力を吸い取る闇魔法の一種だと思われる」


――それで魔法を使えるんじゃないかって思ったわけ?


マツリ そういうこと。だけどそれだけなら、催眠術の才能があるとか、そういうカノーセーもあるわけじゃん。だけどそうじゃないってもうわかってる。

 渡辺さん、ちょっと手を出して。


――手を?


マツリ 心配しないで。変なことはするけど、傷つけたりとか、気絶させるとか、そういうのは一切しないって約束する。

 一応、愛と勇気と正義の気持ちみたいのは普通に持ってるつもりだから。ほら、もう一個、アメをあげる。

 イヒヒ~。私みたいな子供が怖いわけ?


――そんな挑発をしなくても出すよ。


マツリ んじゃ、私の魔法を見せてあげるね。あっ、変な声を出さないように口をしっかり閉じてて。


――変な声?


(彼女は僕の手を小さな手で握り締めると、眉間に皺を寄せて神経を集中する)


マツリ いいから口を閉じて。んじゃ、行くよ。


――ん? ンンッ! ン~ッ?!


(ビリビリと全身に電流のようなものが流れる。それは性的な快感を伴うものだった)


マツリ あんまりやると大変なことになっちゃうからこのくらいで。あ、変な顔すんな~。大人でもこういうのって恥ずかしいの?

 やめてよね。大人らしく堂々としなよ。

 あ、子供にされたからまずいのかな? こういうのって犯罪っぽいね、イヒヒ。


――今のは性魔法だよね?


マツリ やっぱりそう思う?


──間違いなくそうだと思うよ。


マツリ 一度だけ友達の女の子におもいっきり限界までしたことがあってさ。


──そっ、それは……。


マツリ 大変なことになっちゃった(笑)。

 口の堅い女の子だから大丈夫だとは思うんだけど、またして欲しい空気出しまくりで困っちゃうんだよね。

 そういうのって友達にしていいことだと思えないからさ。


――すぐにでも『さわやか魔法少女事務局』か『魔法庁』に連絡すべきだと思うよ。


マツリ そうなんだろうけど……。

 いや、しなきゃいけないっていうのはわかるよ?

 だけど、こういうのを黙ってることってできないのかな?


――性魔法が恥ずかしいって気持ちは理解できるけど、しっかりとした人のところで魔法をどうすればいいか学んだ方がいいと思う。


マツリ だから、そんなのわかってるんだってば。

 ……一応、魔法少女だから、みんなのために何かしてあげたいって気持ちはあるんだ。

 そのためなら、辛いことにだって耐えられる気はする。

 だけどさ……。

 ……5年生にもなれば性魔法を使う魔法少女がどうなるかわかるからさ~。


――………。


マツリ 別にいいといえばいいんだけど……。

 触手系の怪物と戦ってる所を変態の人に見つかって、動画を撮られてネットにアップされてみんなに見られたりするのか~、と思うとちょっと憂鬱なもんでさ(苦笑)。

 いや、もう、覚悟はできてるんだけどさ~。


――……え? いや、あのさ。


マツリ なぐさめてくれなくていいから。

 私のエッチなとこ見てみんなが興奮するなんて、凄い優越感だって思えばどうにかなるような気もするし。

 私の好きな人も私の嫌いな人もみんな私で興奮してしまえ~、って考えればそれはそれで凄いことじゃん、イヒヒ。


――キミは2つの大きな勘違いをしてる。


マツリ え? 勘違い?


──まずキミが見ただろう魔法少女の動画はおそらく偽物だ。


マツリ えっ? なんでそんなことわかるの? アレは本物だって!


――過去にそういった動画が流出した事件は1度だけ。

 しかもすぐに回収、削除されて、今ではネットにアップした時点で逮捕される。

 ダウンロードの疑いのある人も根こそぎ家宅捜査を受けたんだ。


「『魔法庁』と『さわやか魔法少女事務局』の強い働きかけもあって、魔法少女の性に関する動画は、厳しい取締りを受けている。現行法の拡大解釈との批判もあるが、個人的には当然の良心だと考えている」


マツリ で、でもね!


――最初はガタガタ揺れたり、白黒になったりして、不安定な画面から始まらなかった? 途中からは画面が安定して、魔法少女の顔がアップになったりしたでしょ?


マツリ ……確かにそうだったけど。いや、うん。言う通りだけど……。


――揺れたり白黒になったりするのは、本物っぽくするためのよくある演出。

 あと本物の動画なら、顔のアップを撮るのは不可能だよ。

 だってそういう時、触手は魔法少女を激しく不規則に揺らすからね。そういう化物の動きあわせて撮影するのは無理。

 間違いなく偽物だよ。


マツリ ……そうなんだ。……あーっ! 

 なによ、それ!

 それならそうと最初っから偽物って表示しとけ! 


――元の動画の冒頭に書いてあったと思うよ。これはフェイクですってね。

 だけど本物の流出動画っぽく見せるために、ネットにアップした人がその部分をカットしたんだと思う。よくあることだよ。


マツリ うがーっ! 余計な覚悟をして眠れなかった夜を返せ! なんだこれ! くっそぉ! 

 クラスメイトに変なとこ見られちゃうかもしんないと考えて、頭がどうにかなっちゃいそうだったのにぃ!

 無駄な覚悟した!

 本当に無駄な覚悟した!


――それともう一つ。性的な魔物に性魔法で対抗する必要はないんだ。そうなる前に攻撃魔法で倒しちゃえばいいんだからね。


マツリ あー、それはそうか……。って! 

 私は性魔法しか使えないし!


――中には性魔法に特化した魔法少女もいるみたいだけど、性魔法は光魔法か闇魔法の応用だから、キミも光魔法か闇魔法のどちらか、もしくは両方を使えると思うよ。


マツリ ……ふ~ん。光魔法に闇魔法ね~。


(ふて腐れたようにトレーに突っ伏して、ポテトをもそもそと犬食いする)

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